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第4話新秩序の序曲 ~断絶と再構築の狭間で~

 混沌は、あの日の改変から既に私たちの世界の一部となり、永劫に刻み込まれた記憶の痕跡となった。

 壁に刻まれた無数の文字は、ただの落書きではなく、かつてあった秩序の崩壊と新たな記憶のかけらが、空中に浮遊しているかのように感じられる。

 時の流れさえも、これらの記号の中に溶け込み、もはや従来の意味やリズムを失ってしまった。

 私は改変された学園の長い廊下を一歩一歩進みながら、自らの手に宿る力の重みと、それがもたらす未来の可能性に、深い畏怖と決意を抱いていた。


 「これが、私の選んだ道……」

 心の奥底で、静かに、しかし確固たる決意の言葉が何度も繰り返される。そのたびに、私の血潮は新たな鼓動を刻む。

 ふと、遠くから微かに、しかし確実な足音が耳に届く。振り返ると、フェリクスがいつもの熱い眼差しを浮かべながら、確固たる足取りでこちらに歩み寄ってくる姿が見えた。

 彼の瞳の奥には、かすかな不安とともに揺るぎない信念が滲み出ており、その姿は今まで以上に情熱的かつ切実に映っていた。


 「アリシア、君がこの世界を書き換えると宣言したあの日から、すべてが急激に変わり始めた。君の力は、僕たちの運命そのものを揺るがし、無数の可能性を生み出しているんだ」

 フェリクスの声は、柔らかくもありながら、どこか狂おしいほどに燃え上がる情熱を帯び、耳元に囁かれる。

 しかし、その背後に潜む彼の執着と不安、そして計り知れない重圧は、私には痛いほどに伝わってくる。


 その瞬間、学園の一角にある大きな扉が激しく開かれ、冷徹な眼差しを浮かべたエリックが、まるで刃のような言葉を放ちながら姿を現した。

 「アリシア……君の『運命改変』という行為は、ただの自己満足で片付けられるものではない。君はこの世界の根幹を揺るがす、危険極まりない行為に手を染めているのだ」

 エリックのその鋭い一言は、まるで鋭利な剣のように私の内面へと突き刺さり、痛みとともに真実を突きつける。


 一方、薄暗い回廊の奥からは、かすかな笑い声が風に乗って耳に届く。

 それは、謎多きセリナの冷笑であり、彼女の存在が、この新たな秩序の中で何を企むのか、予感させるものだった。

 セリナの視線は、計算された冷徹さとともに、私の行動に対する密かな期待や嘲笑を孕んでいるようで、その存在は、まるで影のごとく感じられた。


 ――その瞬間、私の内側で再び、かつてないほどの力が渦巻き始めた。

 「運命改変ストーリーリライト」の力が、血潮のように穏やかでありながら、確実に、そして容赦なく私の全身を満たす。

 この力は、ただ現状を打破するだけではなく、未来そのものをも塗り替える、計り知れない威力を秘めていた。


 両手を前に差し出すと、世界は再び静寂を失い、目の前の空間には無数の文字や断片が乱舞し始めた。

 その光景は、まるで無秩序に舞う破片が互いに干渉し合い、偶然と必然が交錯しながら、一つの新たな世界を生み出そうとしているかのようだった。

 壁や床、そして空そのものが、記憶のかけらとなり、無限の物語を同時に語り出す。


 【断片の囁き】

「新たな秩序は、混沌の中に芽吹く……」

「すべては、私の意志の赴くままに変わる……」

「運命は、今、再び塗り替えられる」


 これらの言葉は、次々と意味を失いながらも、やがて一つのリズムへと溶け合い、空間全体に広がっていった。

 私はその中で、自分自身の真意を探り、何度も問いかけるように心の奥で呟く。

 

 「私が、この乱れた現実を、完全に書き換えてみせる…」

 

 その宣言と共に、私の持つ力は全開となり、周囲の風景はまるで古びた絵巻物のように、刻一刻と再構成され始めた。

 校庭の空は、深い藍色と燃えるような血の赤に染まり、遠くの鐘の音は規則正しいリズムを失いながらも、どこか未来への希望と哀愁を同時に匂わせる。

 その音は、まるで過ぎ去った時代の残響が、今再び甦ったかのような、不協和音と調和の狭間を感じさせた。


 フェリクスは一瞬、深いため息をつくように息をのみ、まるで世界が彼の前で崩れ落ちるのを見届けるかのような表情を浮かべた。

 エリックはその厳しい顔に、内心の葛藤と警戒心を隠し切れず、無言のまま私を見据えていた。

 そして、セリナはその瞳に冷笑と微かな期待をたたえ、静かに、しかし鋭くその場の空気を切り裂くように立っていた。

 ――すべては、私の意志によって、新たな秩序として生み出される瞬間のために、今まさに収束しようとしていた。


 次第に、私の視界は文字や記号、そして無数のイメージの断片で満たされ、世界の輪郭はかすかに、そして確実に消え失せていった。

 まるで現実そのものが、忘却の海に溶け込み、かつての物語の断片が一つに集約され、同時多発的に語られるかのような錯覚に陥る。

 

 「物語は……私が書き換える。」

 その声は、今や単なる決意を超え、運命そのものをも変革する叫びとなって、広大な虚空に響き渡った。

 声のエコーは、遠く遠くまで伝わり、無数の存在の心に、変革の種を植え付けるかのように感じられた。


 そして、最後の瞬間、私は決して引き返すことなく、一歩前へと踏み出す。

 この新たな世界の扉は、もはや閉ざされることなく、永遠に続く無限の物語へと、私自身の意思と共に誘い込む。

 過ぎ去った過去は、断絶され、新たな未来のみが、その先に広がっているのだ。


 ――新秩序の序曲は、ここに始まる。

 すべての常識、すべての秩序、そしてすべての記憶を、私の手で断絶させるために――。

 新たな秩序の芽は、今、静かに、しかし確実に、無限の闇と光の狭間から、姿を現しようとしている。

――続く

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