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第37話壊れた時間の向こう側


また、音が鳴る。だが、音は私を包み込むことなく、私を突き放す。遠くから響く声、近くから聞こえる足音、空間の中で、音は繰り返し反響する。反響し続けるその音は、私の耳に届くより前に、私の内側で反射している。音が空間を捻じ曲げ、時間が歪む。目の前に現れたのは、見覚えのある姿。しかし、それは一度も見たことのない存在のようだった。


「アリシア様?」


その声に、私は反応することができなかった。目を開けても、目の前に立っているはずの王子は見当たらない。空間はただ無限に広がり、私を取り囲む壁は、遠くに反射し、音と一緒に波紋を広げていく。反響し、消えていく。それらはすべて、私の内側で渦を巻く。私はその渦に飲み込まれ、ただ漂っているだけだった。


——時が止まる。


それは感じるものではない。ただ、ひとしきり立ち止まって、周囲が動き出すのを待っている感覚。動いているのは、何もかもが壊れていく、ただそれだけ。誰もがそれに気づいていない。しかし、私はそれに気づく。私はその中で、ただ漂っている。


空間が歪む。歪んだ壁の中で、私は動けない。どこに行くのか、何をするのか、すべてが分からない。意識は揺れ動き、意味を持たない言葉が反復される。それはエコーのように、断片的に、無意味に繰り返される。


——「アリシア様」と呼ばれるたびに、私は少しだけ現実に戻る。


だが、その瞬間が過ぎると、再び私は空間の中でただ漂い続ける。漂うということ、それが私にとってのすべてであり、私はその中で永遠に「存在」し続ける。


目の前に、また別の影が現れる。だが、その影ははっきりとは見えない。ただ、ぼんやりとした輪郭が、ひときわ鮮明に見え、そして消えていく。視界は歪み、周囲の景色は崩れ落ちる。壁が崩れ、床が反転し、空間は次々と消失していく。


——これが、何なのだろう。


私は問いを発する。問いが空間を切り裂く。だが、問いの中には答えはない。それがわかっているから、私はその問いを続けてしまう。問いを繰り返すことで、私は存在しているのだろうか。いや、存在そのものが不確かだ。私はただ、この繰り返しの中で、時間というものの意味を探し続けているだけなのだ。


——ただ、漂っている。


漂っている先に何かがあるわけではない。何かを求めているわけでもない。ただ、問い続けることで、自分が「存在」しているという感覚が得られる。それが私にとっての現実だ。全てのものが崩れ去り、形を失ったとき、唯一残るものは「問い」だけだ。


私はそれを繰り返す。


「私は誰だ?」


その問いが、再び空間に響く。それが意味を持つわけではない。無意味に響くだけだ。それでも、私はその問いに執着する。問いの中で私は生きているのだ。


——問いが消え去る。


そして、再び新たな問いが生まれる。


「何が起こっているのか?」


だが、その問いもすぐに意味を失う。私は問いを発することで、何かを求めているわけではない。私はただ、問いの中で生き続けることで、自分の存在を確認しているのだ。問いが、私を無限に引き寄せ、永遠に続くような感覚に包まれる。


——永遠に続く、問いの中で。


私はどこにいるのか?


この空間はどこなのか?


時間が止まり、空間が壊れ、音が反響し続ける。私はその中で漂い続ける。漂い続ける先に何があるのか、それはわからない。ただ、私はその中で問いを発し続ける。その問いが、私を存在させているのだと、私は信じている。


——何もない。


何もない中で、私はただ漂い続ける。時間も、空間も、形も、すべてが消え去り、無限に繰り返される。私が問いを発し続けることで、この世界が存在しているのだろうか。それとも、問いそのものが世界を作り出しているのか。私はその答えを知ることはない。


ただ、問いを発し続けることで、私は自分の中に「存在」を見出している。それが私にとっての現実だ。


「アリシア様。」


その声が再び響く。私はその声に反応することなく、ただ漂い続ける。何もない世界の中で、問いが繰り返される。私はその問いを繰り返し、問いの中で自分を見つける。


——私はここにいる。


その感覚が、私にとっての「存在」だ。問いを発し続けることで、私は無限に続く循環の中で生き続ける。そして、また一歩踏み出す。


——踏み出す先には、何もない。


それでも、私は歩き続ける。問いを発し続ける。何もない世界の中で、私はただ漂い、問いを発し続ける。それが、私にとっての存在の証明なのだ。


その先に何が待っているのか、それはわからない。だが、私は踏み出す。


再び、音が響く。足音が遠くから聞こえる。私の足元から、空間が反応し、歪んでいく。それが、私を突き動かしているかのようだ。


——私は、踏み出し続ける。


終わりのない問いの中で、私は永遠に歩き続けるのだろう。

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