第26話目を閉じれば、音が聞こえる
目を閉じると、音が聞こえる。
だがそれは、私の耳に届く音ではない。外側から来るものでもない。これまでのように響いてくるものでもない。
それは、私の中から発せられる音だ。
渦巻くような、不明瞭な音。まるで何かがぐちゃぐちゃと絡み合っているかのように、波のように押し寄せては引いていく。ときに、目の前に光が現れ、その光が闇の中で反射して消える。
私はその光を追いかけるが、いつまで経っても届かない。
触れられそうで、触れられない。
そのうち、音が反転し、逆さまになった世界が現れる。
――ここは、どこだろう。
目を開ける。だが視界に広がるのは、ただの白い空間だった。色も形も何もかもが歪んでいて、私はその中でただひたすら漂っている。
何かが背後から迫る。
振り返ろうとするが、体が動かない。
何も触れられない。何も感じられない。ただ静寂が広がっていく。
耳の奥で、音が響き続ける。
それは、次第に声のように変わり、やがて言葉になって私に囁く。
――「アリシア」
その声は、何度も私の名前を呼び、そしてその後、言葉の断片が重なり合う。
その言葉を拾い集めて、ようやく理解する。
「お前は、ここから出られない」
それはただの音ではなかった。言葉だった。確かに、私に語りかけている誰かの声だった。
それでも私は動けない。
目を閉じたまま、ただ空間が広がっていくのを感じる。
それはまるで、私の存在がどんどん広がり、どこまでも溶け込んでいくような感覚だった。
私はもう、そこにいない。
視界が歪み、形が崩れていく。
ページの切れ端が漂っている。そこから溢れ出すのは、ただの文字の断片だった。
――「あなたはもう終わりだ」
その文字が、空間の中で浮かび上がり、バラバラに崩れていく。
世界がどんどん崩れていく。
そしてその後、静寂が支配する。
何もない。
私は、完全に消えた。
だが、その瞬間、目の前に誰かが現れる。
顔が見えない。
目の前に立つ者は、ただの影のように、私を見つめている。
その影が、口を開ける。
「お前はもう、どこにもいない」
その声が響いた瞬間、私は何もかもが壊れたように感じる。
今までのすべてが、ただ消えていった。
そして、その時、再び音が響く。
私はその音に引き寄せられるように、目を開ける。
――目の前に広がるのは、変わり果てた世界だ。
かつて見た学園の面影は、もうそこにはない。
どこかで、無数の言葉が無限に流れ、文字が断片的に消えていく。
私はその中に立ち尽くし、ただその言葉の音を聞いていた。
音が繰り返される。
あらゆる断片が重なり合う。
「お前は…もう、終わりだ」
その声が何度も繰り返され、次第に私の体を締め付ける。
だが私は、それを無視する。
それでも私の心の中で、ある確信が生まれていく。
――私は、まだ終わっていない。
音が、再び響く。
そして、その音がまた一つの形を成していく。
(続く)