第2話混沌の余波
改変の瞬間から、一瞬にして日常は色あせ、形を変えていった。
学園の廊下は、先ほどまでの煌びやかな装飾を失い、ひび割れた壁に無数の文字が滲む。
時計の針は狂い、時間は均一ではなく、瞬間ごとに歪んでいるように感じられる。
私は、教室の窓辺に立ち、まるで夢と現実の狭間を漂うかのように、改変された世界を見つめる。
周囲の生徒たちは戸惑い、囁き合いながらも、何事もなかったかのように振る舞っている。
だが、私の心は激しく揺れていた。
「アリシア……」
どこからともなく、フェリクスの声が響く。
彼は、昨日の乱れた光景を忘れず、今もなお、私に異常なほどの執着を見せていた。
フェリクスは教室の隅に立ち、瞳に熱い光を宿して私を見つめる。
「君だけは、あの混沌の中でも変わらぬ存在だ。君がいるから、僕は……」
その声は、いつもの優雅な口調とは裏腹に、何か狂おしいものを感じさせた。
同時に、隣の席からエリックの冷たい視線が突き刺さる。
「……やはり、君は普通ではないな。」
彼の言葉は、挑戦とも取れる厳しさを帯び、学園内に不穏な空気をもたらしていた。
そして、噂に聞いていた謎多きセリナも、薄暗い回廊の先からこちらを見ていた。
その瞳には、何か計算された冷笑が浮かんでいる。
――その時、再び私の内側に力が湧き上がった。
昨日の改変の余波は、ただの偶然ではなかった。
「運命改変」の力が、私の中で静かに、しかし確実に燃え上がっている。
私は胸中で呟く。
「こんな日常なんか、もう受け入れられない。私が、この壊れた現実を、書き換えてみせる…」
その瞬間、世界はまたもや、予測不能な変貌を見せ始めた。
教室の窓の外、青空はひととき真っ黒な闇に変わり、遠くの鐘の音が引き延ばされ、途方もないエコーとなって校庭に鳴り響いた。
廊下に立つ一部の生徒は、突然足元に散る紙片や、無意味な文字の断片に気づく。
壁一面に描かれた文字は、まるで私自身の心情を映し出すかのように、「変わるべきは、世界だけではない」と呟いている。
その混沌の中で、私は決意した。
この混乱は、もう元には戻らない。
――新たな世界を、私の意思で再構築するしかないのだ。
フェリクスはさらに一歩、私に近づく。
「君の力があれば、どんな世界だって……」
しかし、彼の言葉は途中で途切れ、空気が再び歪む。
私は両手を広げ、静かにスキルを発動させる。
その瞬間、視界は再び文字と断片の洪水に変わり、世界のルールが音もなく崩れ、ひとつの新しい物語が、無慈悲に、しかし確実に生み出されていく。
「物語は……私が書き換える。」
その宣言と共に、今までの「常識」は完全に断絶され、二度と戻ることはなかった。
――続く