89話 騎士団長からの依頼②
長方形の長テーブルについているのは、アリアとベリッシだけだった。受付嬢の持って来た特別な依頼書は、一瞬で捌けた。
我先にとギルドを出ていく冒険者たちだった。おしくらまんじゅうでドアが破壊されなければいいが。
アリアは、まだまだ駆け出し。経験も実力も伴わない冒険者なんてものは、あまりにも脆い。依頼書の内容を読み込んで、道具を買い溜め、武器に防具を点検する。
これだけやっても、死んでしまう事なんてザラにある。駆け出しというものは、それ程度でしかない。
実際、アリア達は、運が良い。それも普通よりもだ。でなければ、最初に受けた依頼で命を落としていた。
多少の冒険を経た今、ノー準備で依頼に向かうのは、自殺行為だと薄々理解している。
実力が無いのなら、あらゆる事を警戒せねばならない。情報は、この世の中で一番強い武器なのだ。
アリアとベリッシは、依頼書の内容を読み込んだ。
「依頼主は騎士団団長。内容は、下水道の魔物の討伐。頭数の多さから、多数の冒険者に依頼する事とする。成果報酬…とな」
「なにこれ? なんか口が長い。吻? 虫っぽいけど、足が4本あるよ。なんか気持ち悪い見た目」
ベリッシが指差したのは、真ん中に記された標的の絵だった。細長い口ばしにのっぺりした身体。一、二、三、四。四本ある脚は、外側に出ていて平ぼったい身体を支えていた。
この見た目に、アリアは見覚えがあった。全然のテレビで良く目にしていたワニだ。この見た目は、完全にワニだった。
ワニとなれば、熱帯などの暖かい土地に住むイメージだ。密林やサバンナの水辺に生息しており、目についた物は、全て捕食対象。それがワニに対する印象だ。
が、これは、あくまで動物であるワニの特徴。この世界では魔物だった。それに、仮にもしワニじゃなかったら、待ち合わせの知識じゃ役に立たない。
まぁ、ワニに対して特別詳しいわけでもないが。
それでも、伝えられる事は伝えた方が良さそうだ。
「こいつ、多分噛む力が強い奴だよ。鋼鉄も噛み砕くらしい。それに、素早く動くんだ。噛む力は強くとも口を開く力は弱いらしいんだ。だから、上から口を押さえれば、武器を一つ封じ込められる」
「な、なんでそんなに詳しいのさ」
「家にあった本に書いてたんだよ。父さんが冒険者だったから」
少しの脳内ロードを挟んでそう答えた。『自分は他の世界の記憶を持ってるんだ!』と答えるよりは、現実的で信じやすい言葉だっただろう。ベリッシも、そうなんだと言って納得した。
それから時間も経たぬ内に、アランとアルトリウスがやって来た。
先ほどの情報と依頼について共有すると、ギルドで調達できる物だけ調達して、下水道に向かった。
ギルドでは、傷に塗る薬と解毒用の飲み薬を買った。今の財政状況では、これが限界である。
それほども重くない雑嚢を背負って、アリア達は、下水道まで歩いて行く。
道中、同業の者をたくさん見たし同じ方向に向かっていた。そのほとんどが、上等な防具や武器を携えていた。一部の者は、首から下げる認定票が見えた。
蕾の者や芽の者。少なくとも、珠の冒険者を見つける事はできなかった。自分たちの他には。
経験の差は、如実に出るのだなとアリアは、数多の冒険者を見ながらそう思った。
それは、装備にも立ち方にも現れていた。
普通でありながら隙の無い歩法。微かな物音にすら反応してしまう鋭敏な感覚。街ですら気を抜かないのは、経験の濃さを物語っている。
磨かれて新品の様にも見える武具は、実のところ、新品ではないだろう。丁寧に丹精に手入れされた品は、武具本来の信頼性に自分なりのカスタマイズが施される。そうして出来上がった物は、ただの武器ではなく、歴戦の物となる。
もしかすると、伝説や魔剣などは、こうした積み重ねで出来上がるのかもしれない。
多くの冒険者が呑み込まれているようだった。抗えない強烈魅力に引き寄せられ、危険を承知で吸い込まれて行く。ライトに群がる虫の様だ。偽物、或いは安危の絶妙なバランスを狙って群がる虫達。それが、この下水道に集まった冒険者たちだった。
「またここに戻って来ましたね」
鼻声。横を向くと、アルトリウス鼻を摘んで喋っていた。顔は、青ざめており、嫌な思い出が蘇ったのだと気がついた。
先ほどの冒険者達は、張り詰めた空気を纏っていた。入るには、まず形から。先輩を見習って厳かにいこうとしていたアリア達の一党は、一瞬にして、普段の空気に戻った。
「アルトリウス…今回は、落ちないようにしろよ」
「分かってます! もうあの臭いは嫌ですから。まだ臭いが付き纏っている様な感覚は、懲り懲りです」
アランの言葉に答えて、四人は、他の者達と同じように下水道に入っていった。
暗い暗い、狭い狭い下水道へと。
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