87話
「それで、お前らは、流されたってことか」
ギルドの一角、丸テーブルを囲む4人の冒険者がいた。今日は珍しく、ギルド内のテーブルには、ぽつりぽつりと空きがあった。
卓を囲む4人の冒険者。内2名は、ある1人の仲間に詰められていた。
「下水道に流されて川まで行ったの? うぅ、想像もしたくないよ」
わざとらしく身震いをさせて、両手で自身の体を抱くのは、ベリッシだった。丸いテーブルを真ん中で線分けすると、ちょうど良くニ対ニの配置になる。
アリアとアルトリウス。ベリッシとアラン。別行動をした一組ずつに別れていた。
バツが悪そうに話を聞いていたアリアは、何とか言い訳をしようと口を開く。
「まぁ、暗い空間だっから。それに、閉所じゃ剣を振るのに向いてない。だから仕方がなかったんだ」
「それは良いとしても、依頼を達成したのは、俺とコイツのおかげだよな? だとしたら、報酬の分け前について相談しようじゃないか」
隣のベリッシを親指で指し示すと、アランは、そう言った。実際、アリアとアルトリウスの2人は、本来の依頼であるネズミの駆除には、あまり寄与していない。
これでは、報酬を貰うにはむしが良すぎる。図太いアリアも薄々思っていた。何もしてないのだから、報酬をしっかり等分するのは、気が引けるなと。
「俺とベリッシが三分の一ずつで、お前達2人が残りってのはどうだ?」
「良いんですか? 何もしてないですよ。せいぜい新しい友達を作った程度しか…」
「そもそも冒険のための金だからな。それに、各々の分け前があっても食料とか道具で無くなるからな」
それでもアルトリウスは、何処か気が引けているようだった。仕方がない。アリアは、彼女の肩に手を置いて、貰えるのなら貰うべきだと教える。冒険者たる者、時には図太く行くべきだと。
「分け前も決まったし、街の中歩こうよ。こんなに大きな城塞都市なんて滅多にないよ?」
ベリッシが意見する。買い出しを含めても、良い提案だなのは間違いない。異論も何も出ない。という事は、それ即ち肯定であろう。
布で包まれた報酬金を手にして、ギルドを後にする。
土を慣らして整備して、それを幾度となく繰り返すと、こんなにも硬く信頼性のある地面が作れるのか。緑が生えているが、おおよそは雑草が毟られている。どうやら管理体制は、かなり良好なようだ。
建物は、石造りの物が多い。城壁も監視塔も、石やレンガで形作られている。
木材で作られた建物は、そう多くはない。これが城塞都市としての本気なのだろう。農村は、木材が基本である。
4人がいっしょになって歩いていると、沢山の看板が目に止まる。ハサミの描かれた看板、牛の描かれた看板、杯の描かれた看板。一目でわかる様になっていた。
「それにしても、騎士とか兵士が多いね。武装した奴ばっかりじゃないか」
すれ違う住人は、そのほとんどが、鎧や兜を身につけていた。甲冑を着るだけでは飽き足らず、武器を持って歩く者までいた。
薄い布で作った衣類を身につけている者も勿論居る。だが、分布でいくと兵士の方が数が多いのは、なんとなくだが分かった。
城塞都市と言うくらいなのだから、より多くの兵力を抱えるべきなのは、当然であった。
そして、気がついた事がもう一つある。それは、この街に住む者は、それなりに裕福と言う事だ。
アリアがこの世界で暮らし始めてから、すでに13年ほどだ。その間に、沢山の事を学んだ。言語に常識、それに人との関わり方。生活していく上で、多くは、両親に教えてもらった。
それでも自分で気がついた物もあった。この世界では、普通、農業が一般的でかつ最も人口が多く最もコスパが悪いと言う事だ。
が、この街には、農業の気配を感じない。他の所から農作物を運んでいるのだろう。でなければこの街は、飢饉で飢え死ぬ。
街で見かけるのは、無地ではなく色や装飾にこだわりを感じさせる衣類を着た住人。まず必要としないが、それより何より、こんな無駄な物にお金を掛けられるほど余裕な生活は、していない。
身だしなみは、金持ちの特権でもあるのだ。
「なんか、焦げ臭くない? あっちからする」
ベリッシがよく効く鼻で捉えた違和感。もうもうと立ち込める煙の方向に顔を向けた。
「何やってるのか見に行かない?」
祭りか? それとも実演販売? どちらにしても、野次馬精神の強い人間には、立ち込める煙は、とても魅力的だ。
磁石のS極とN極のように引かれていく。そして、たどり着いた先は、街の広間だった。
中心。一番多く人が往来するこの場所は、自然と、一番視線が集まる場所でもあった。
そんな街の真ん中で煙を上げる物体。その正体は、ついにアリア達の前に姿を表した。
肉の焼ける独特な匂いと燃え盛る炎。その中心、着火剤となっているのは、人間だった。
一本の支柱に両手首を縛られて動けない様にされている。もう逃げるどころか動く事すら叶わない哀れな着火剤。アリアは、呟いた。
「何をしたら公開処刑されるんだよ」
「異端者だったんだろ。大きな街じゃ良くある事だ。冒険者が増えてからは、自由を愛する人間が多くなったけど、まだまだ白清教の権力は、強いからな」
どうやら炙られている男は、異端者らしかった。白清教という教えに反した悪き者。それらの受ける罰が、あの火炙りの様だった。
娯楽として捉えているのだろうか。さも当然かの様に見続ける集まった人々。先端に炎を宿した長い棒を携え、衛兵がその罪人の横に立っていた。
もし、アリアが現代人だったら、この光景に吐瀉していたのは、間違いなかった。こんなの間違ってると主張するはずだ。
だが、アリアは不思議と、この光景を淡々と見つめていた。この世界に、順応している証だろう。
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