84話 もう一つの邂逅
流されるままにアリア達の一日は、終わった。別に依頼やベリッシたちの事を忘れたわけではない。ただ誰だって、一人でに動く殺人甲冑に遭遇し、挙句、下水に浸かって川流れにあえば心も身も疲れ果てるであろう。
少なくとも、アリアとアルトリウスは、完全にダウンしていて、もう動く気配が無かった。
ぐったりと壁にもたれた横並びの着席。床にダイレクトに座って、ぽかんと開いた口からは、涎が垂れそうだ。
油断したアリアは、実際に涎が垂れて来た。自分でもびっくりしたその涎に、ビクッと顔を震わせる。
ずずいっと垂れた唾液を吸い込み、なんとか事なきを得る。
椅子に座って2人の様子を見ていたユリウスが、一言、声を掛ける。
「どしたの? 心ここに在らずって見えるけど。なんか心配事」
「私達には、あと2人仲間が居るんですけど、はぐれてしまって。私達の心配してると思って。ね、アリアさん」
「え? ああ、うん。大丈夫だよ。うん、全然大丈夫。きっと気にして無い。アランは特に」
爽やかにそう言ったアリア。自嘲を込めた言葉だったが、他から見れば、思考回路が壊れてしまった人間の受け答えである。
アルトリウスは、そんな様子を尻目に見ながら、ユリウスに続けて聞いた。
「下水道の中に、自動で動く鎧が居たんですけど、何か知っていますか? 中に人が入っていなかったんです」
「ああ聞いた事あるよ。下水道の幽霊騎士だね。この街じゃ結構有名で、なんでも、未だに自分を騎士だと思って彷徨ってるらしいよ。だから見つけたら手当たり次第に襲い掛かるんだってさ」
ユリウスは、彼女の質問に興味を持った。というか、元々興味があったようだ。答えてくれた内容は、かなり鮮明だった。
「騎士団の方でも有名な話らしい。俺は、知らないけど。下水道の中を彷徨ってるから、元々中に人が入る事は少なかったのに、噂が立ってからは、整備する人間すら入らなくなってね。だから兵士や騎士も、無駄な事案で時間を無駄にするなって言われてるらしい。なんでか仲間はずれだけど」
ユリウスは、背もたれに顎を乗っけながらそう言った。背もたれのてっぺんに、腕を2本巻いていた。これが本当のアームカバーであったか。
「幽霊騎士に出会わなきゃいいね、あと2人の仲間はさ」
「そうですね。無事に依頼を終わらせてくれるのが一番ですから」
一方その頃、ベリッシとアランは、大量のネズミを駆除していた。駆除したネズミの尻尾を切り取り、それを首級の代わりとした。
ネズミの死体は、そのまま下水に流して、水の趨勢に任せる。元から汚い下水だ。ネズミの死体程度では、最早変わる事すら出来ないだろう。
意外に倫理観が無いのは、現代的な価値観でも無いからだろう。下水道が死体で埋め尽くされるよりは、マシだという話でしかない。
布に包めた尻尾の数は、すでに分からないほど多かった。50かもしれないし、60かもしれない。あやふやな数しか分からないのだ。これが硬貨だったのなら、どれほど助かったことか。
「結構奥まで来たし、そろそろ帰らない? 残りは、明日やろう。疲れたまま進んでも効率的じゃないよ」
ベリッシがアランにそう提案した。「いや、まだ奥に進むぞ」なんて、アランには、言えなかった。
何故なら、この真っ暗闇の中を進めるのは、一重にベリッシの夜目のおかげだからだ。多少慣れてきたアランの目だけでは、せいぜい5メートル先を見るのが関の山だ。
だがベリッシは違う。どれだけ遠くが見えているのかわからなかったが、少なくとも、アランとは比較にならないだろう。
盗賊としての生活で得た特技なのか、それとも生まれ持っての特性なのか。
「そうだな。今日は、戻って休んで、また明日来よう。にしても、アリアは、どれだけ取ったんだろうな」
「私達より取ってたりして」
「そうだったら…悔しいっ」
2人の足音が響く。軽快な足音が二つと重めの足音が一つ。なにか異物が混ざっている。耳を凝らすと、それは、段々近づいて来ていた。
気のせいではないと気がついて、ようやく振り向いた頃には、ベリッシがその姿を補足していた。
鯖やらなんやらで覆われた汚い鎧。ロングソードをその手に持っていた。ヘルメットを抱えるかのように、兜を片手に持っていた。
アリア達が鉢合わせた、幽霊騎士だった。幽霊騎士が、なんとベリッシとアランの前にも現れたのだ。
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