83話 ユリウス宅で保護
走り回る兄妹とユリウスに付いて行き、ついにある一軒家にたどり着いた。アリアの腰と腕は、痺れと荷重でボロボロだ。
アルトリウスは、まだ起きておらず、夢の中を満喫していた。もしかすると、歩きたくなくて起きていないふりをしていたのかもしれないが。
だが、そんなことは、もうどうでもよい。ユリウスの家に着いたのだ。既に、ぐちぐち言う必要もないだろう。
「中で休んでって言いたいところだけれど、そのままは、流石にね。ちょっと待ってて、水を用意するから」
「綺麗な水ですよね?」
「綺麗ものじゃなきゃ体を洗えないだろ?」
そう言うと、ユリウスは、平べったい家の中に入っていく。束の間、この場について知る者が居なくなった。辺りを観察するかのように視線を泳がせる。
広大、と言っても、全てがこの家の持ち主の土地では無いだろう。大きすぎる。だだっ広い大地が続いている。
畑が少し外れの方にあり、中々の広さを有していた。周りに家屋がない事から、一軒で世話をしているのだろうか。
アリアには、絶対に無理だ。この広さの畑で仕事をするなど。おそらく一日でリタイアするだろう。
土にまみれながら、丁寧に種を植えて作物を収穫する。一次産業を仕事にしてくれる人がいるからこそ、この世界は、正常に機能してくれる。全く、感謝しか出てこない。この世界では、ほとんどがその一次産業従事者なのだが。
樽や柵には、農具が乱雑に取り置かれていて、いつでも作業の再開ができるようになっていた。使い古されたのを見るに、もう使い捨てだろう。
納屋まであるのは、それなりに大きな農地面積を誇っている証拠だ。アリアが思うに、この家主は、それなりに稼いでいるかもしれない。
そんなお金の匂いを嗅ごうと鼻を整えていると、ユリウスが、ドアから出て来た。
深くはない浅めの桶には、並々まで水が入っていた。何よりも、それを持って一滴も溢さないユリウスに、驚愕を隠せなかった。
ドン、と地面にその桶を置くと、ユリウスは、アリアにこう言った。
「ほら、早く水浴びしちゃいな」
「え、ここでですか? 野外で真っ裸はちょっと…」
「人なんて滅多に通らないし、パパッとやればすぐ済むさ。早くしないと、隣の子が起きちゃうよ?」
(クソ! なんで野外露出と入浴なんてしなきゃならないんだ。恥ずかちい!)
が、恥ずかしがってもいられない。幸いユリウスは、気にしていないし、アルトリウスも起きてはいない。やるなら今しか無い。
アリアは全裸…にはならず、上半身だけ脱いで、下履きは、履いたまま水に使った。
「うおぉぉ!!」
腕や足を、ゴシゴシと本気で擦った。皮剥けるほどに力を入れなければ、この頑固な臭いと汚れは、取れないだろう。
水飛沫を飛ばしながら洗っていると、段々と汚れも落ちて来た。水族館ほどまで落ち着いた臭い。これからが勝負所だ。まだまだ皮膚をいじめ倒して、真っ赤になるまでやった。
そこまでやって、ようやく汚れは落ち切った。痛みと疲労がアリアを襲った。
「いつから起きてたの」
「結構前からです。疲れて声を出すのも億劫で…」
眉を落としてそう言った。アルトリウスは、いつの間にか地面に座っており、膝を抱えて体育座りしていた。
普段なら、顔を赤くしていただろう。だが、2人は、そんな表情を作れるほど元気では無かった。
「終わった? じゃあこれに着替えな。服と雑嚢は洗っておくから。あと君、君は、中で水浴びしなさい」
ジェンダー差別か。まぁ、全然もっともな対応であるが。ドアの傍に立っていたユリウスは、アリアに服を手渡した後、アルトリウスに手招きをした。
言われるがままに家の中に入っていくアルトリウス。着替えを済ませて桶の水を全て流し、それから、アリアも家の中へと入っていった。
農民や庶民の家というものは、地域や土地柄で多少の変化はあっても、大部分は、同じである。
玄関から直通でリビングに繋がっていて、壁の一部に、部屋へと繋がるドアがある。棚やら机やらが設置されて、生活感のある家だった。
ヘナヘナになりながら桶を適当に置いた。
「ああ、桶を持って来てくれたのか。わざわざ済まないね。助かるよ」
「いえ、このくらいは、させてください。それと、アルトリウスは、何処へ?」
「庭で水浴び中さ。安心して、他からは、かなり見づらい場所だから。見えちゃったら…まぁ、その時だ」
親指を立ててウィンクをするユリウス。何が大丈夫なのか分からなかったが、働きの弱い脳は、その力強いジェスチャーで納得してくれた。
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