8話
「着いた! て言うほど離れてないけど」
アリアがフリンを連れて来たかったのは、本当に何もないただの草原であった。普通、何もないと言いながらも、目ぼしい物の一つや二つはあるのが相場だが、そんなものここにはなく、草と木と虫がいるだけだった。
草原に着いた途端、アリアは走り出した。
「やっぱりここは落ち着くなぁ」
はしゃぎながら草原を駆ける。フリンはその姿を見て、引き攣った顔をしていた。犬のように、あっちに行ったりこっちに行ったりと、まぁ年相応と言ったところである。
(はっ、はしゃぎ過ぎた)
我に帰った時には既に遅く、そっと後ろを覗くと、身を引いたフリンの姿が見える。
「こ、ここら辺ってね、きれいなお花が沢山生えてるんだ。ほら、こことか」
キョロキョロと辺りを見回して足元を指差す。フリンの立った場所には、緑の軍勢に抗う一輪の鮮やかな花が生えていた。
「本当だ。きれいな色」
残念ながら種類はわからない。アリアがズカズカと近づいていき、しゃがみ込んでその花をむしり取った。
茎の根本に手をかけて、ブチっと一気に引き抜く。根っこは未だ地面に埋まっており、残った茎には、不恰好な傷口ができていた。
「ほら、すごく鮮やかだよ。あげる」
「いらない。だって、その花、もう死んじゃったから。きれいなまま、生きていけたら良かったのに」
「あ、ごめん…いやだった?」
「そうじゃないけど、なんだか、モヤモヤするっていうか」
どうやら花をむしり取った事で傷心しているらしい。アリアは、そんな事を思った事がなかった。
考えた事すらないその悲しみに、アリアは、驚いた。自分にない視点だった事よりも、花の命に心を痛めた事が驚いた。
声どころか音すら出せないこの花にも、小さな命が宿っている。知っているが念頭には置いていない。
彼にとってどうでもいいことが、フリンには、大切な事だった。
(植物って、俺たち普通に草踏んづけてるしなー。実感湧かないから共感できねぇな。理解は、出来るんだけどな。もしかして、女の子って花好きじゃないのか?)
「その花ちょうだい。きれいな内に見たいから」
「あ、うん」
手渡しで受け取った。鮮やかな花は、アリアの手を離れると、フリンの手の平上で美しさを演じた。
優しい女の子だと思ったが、少し変わっているとも思った。
歳はそれほど離れていないように見える。そんな女の子なのに、命に動揺している。それも花のものに。こういうのを思慮深いと言うのだろうか。
中身と外側がマッチしていない少女。
アリアは、フリンギラに強い興味を惹かれた。
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