63話 洞窟探索③
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凸凹な岩肌の表面には、不自然な形が見て取れた。真っ暗な暗闇が続く黒い虚空。件の洞窟、その入り口である。
「ここに入るの? いやー気が滅入っちゃうな」
「よし、入ろう。とその前に…てってれー、松明」
アリアは、雑嚢をガサゴソ漁って、中から、先端に布を巻き付けた木の棒を取り出した。なけ無しの布を、苦手な計算を使って破り、必要な分だけを巻き付けた代物、松明である。
油も何も塗っていないその松明は、果たしてきちんと火がつくのだろうか。そして暗闇を進む明かりとして、その役割りを果たしてくれるのだろうか。
「脂は、塗ってあるのか? でないと燃えないんじゃないか?」
ごもっともな意見だが、アリアには、常識が通じない。無言でウィンクをして、それを返事の変わりとした。答えになっていないその仕草に、アランは、困惑するしかなかった。
そんなのお構い無しで、アリアは先行して、洞窟の中へと入っていく。
中に入り込むと、差し込む光が制限されてしまい、外からの光は、全く差し込まない。完全な黒だ。その黒の中に、ズカズカと進んだのは、アリアだけだった。
他2人は、外でまだ様子を伺っていた。松明の炎が灯るのを待っているのである。ウィンクで返した顔は、自信に満ちていた。だから信じることにしたのだ。
ダメだったら、肩を落として帰ってくるだろう。そうなったら、村に戻って松明をもらうだけの話だ。
アランのシナリオとしては、萎れたアリアがとぼとぼ洞窟から出て来て、その彼を、村まで走らせて松明をもらって来てもらう。そうして初めて3人で探索を開始する。走るのがアラン自身かベリッシになろうが、それは、問題ではない。とにかく、誰かが松明をもらいに、一度村まで戻る必要がある。
そう考えていたわけだが、予想は、裏切られた。良い意味でだ。
洞窟の暗闇から、揺らめくオレンジ色がポツンと見えるのだ。アリアの松明が、その身に炎を宿した事の証明だった。
それは、嬉しい誤算で、アラン達は、時間を無駄にすることも無くなった。オレンジの光を頼りに、ベリッシとアランは、洞窟の中に入って行く。
ジメジメとしているのに、冷んやりともしている。中々に気持ち悪い空間は、同時に恐怖心をも募らせる場所だった。
閉所であることが加わって、逃げ場の無い怖さが、ベリッシの背中を真っ直ぐにさせる。硬くなった細い脚は、年頃の女の子の様に頼りない物となっていた。
青白い細脚だけは、日の当たらない洞窟にマッチしている。
不安から、アリアとアランを交互に見ているが、空気の読めないアリアは、言葉を発する。
「見て見て。これ、炎付いたよ! どうやったか気になるでしょ。それはね…こうやって……こうやるんだよ!」
松明の先端に握り拳を持っていき、素早く開いて見せた。アリアにとっては、魔法の練習で散々した動きだったが、ベリッシとアランにとっては、馴染みの無いどころか、全くもって意味不明な動作だった。
魔法の練習は、千差万別。仮にアランが魔法を勉強していたとしても、その練習方法は、アリアとは違う。だから、アリアの動作は、2人にとって何の意味も持たないジェスチャーだった。
「魔法だよ、魔法。魔法で炎を付けたんだ」
鼻を鳴らして、ふふんと自慢気になる。が、ベリッシは、それどころでは無かった。
平野の夜を生きていたベリッシにとって、全くの暗闇と閉所は、機動力も感も全てを殺す空間だった。それに加えて、ジメジメしていて冷える。気持ちがマイナスになっているのだ。
身体は、震えていなかったが、不安は、隠しきれない。ベリッシは、アランの背中にくっつく様にして近づいた。
それをされたアランは、頬を赤らめて咳払いを一つした。アランも健全な少年なのだ。
「よし、いちゃいちゃしてないで、先に進もう」
「その前に、隊列を考えよう。つっても3人だから隊列も何も無いけど…」
「うーん、じゃあ松明の返え渡しておくよ。それと火打ち石。とりあえずそれが有れば、光源の確保は、出来るだろ?」
「何で返えを俺に渡すんだ?」
「俺が最初に攻撃を喰らう可能性が高いからね。洞窟内で光源があったら、まず真っ先に潰すだろ? で、俺の松明が無くなったら合図だ。逃げて、その松明を使って道を探す。良い案だろ?」
「それって、お前が囮になるって事じゃないか?」
「そうだね。まぁ、あくまで松明が消えたらの話だよ。それまでは、一緒に立ち向かってもらうよ。何かあったらね」
そう言ったアリアは、前に進み始めた。無警戒の様に、迷いの無いように、前へと進んでいく。その背中を見ながら、アランは、万が一が起きないようにと願った。
洞窟の中は、分かれ道が数多くあった。アーチ型になっている道だらけで、大きさは、アリア達が通れるぐらいの高さだった。
つまり大人では、この道々を通る事は叶わないだろう。これが低身長の利点であった。
奥に奥にと進んでいくと、段々とわかってきたことがある。
それは、この洞窟には、人為的な構造が存在しているということだ。
アーチ型に加工された道は、土を削って作られた、謂わば通路だ。行き止まりの通路も多く、侵入者対策でもしているのだろうか。
自然に出来た道は、綺麗な形に整形なんてされていなかった。ごつごつした岩の質感は、そのままで、天井は、ガタガタだ。
この事から導き出されるのは、この洞窟には、何者かが潜んでいるということだ。
ほら、今もガンガンと音がしている。ん? 音がしている? それもガンガンと、何かを叩く音だと。
「何か居る。2人とも、武器を取って。先手を取ろう」
手を横に伸ばして、アリアは、後ろの2人を静止した。ズカズカとした足取りも、慎重で音の軽やかな物となった。あまりの変わりように、アランとベリッシは、驚いた。
そこで、慌てて武器を構えた。もちろん、音が立たないように慎重に。
ちょうどT字路となっている道の、右側から音がしている。2人をその場に静止させたまま、アリアは、一気に駆け出した。
短距離の、スプリントだけなら体力を必要としなかった。
腰を低くして、前のめりで駆ける。その間、足音は、鳴ったが、それでも小音のものだった。
左の、音がした方と逆側。そちらにアリアは、手を向ける。するとその手の先から、激しい発火を起こした。手の平で出来た火種は、一瞬で大きくなり、左の通路を燃やした。いつの間にか、上達していた様だった魔法で、彼は、まず不意打ちを警戒した。
その間、彼は、左を見る事は無かった。
煌々とした炎が一瞬で実り、一気に明るい空間を作り出した。そのまま両手をクロスさせる様に、松明を右側の道に向けた。
先端の炎を一気に解放して、これまた大発火を起こそうとした。が、それは、未遂で終わった。
何故なら、そこに居たのは、口をパクパクと開きながら、崩れた岩にぴたりと背中を付けている小人が居たからだった。
逃げ場が無く、どうする事も出来ないその小人は、思考がフリーズしたのか、目を見開いてその場を動かなかった。いや、動けなかった。




