6話
「ガチャっとな」
開いたドアが自重で閉じていく。外には、緑色が広がっており、春と言った様相であった。
アリアの家へと続く道は草木が生えておらず、土の道となっている。そんな作られた道を歩くほど行儀が良くないアリアは、わざわざ草原の方を通っている。
何か理由があるわけでもなかったが、なんとなく草原の中を歩いて、家から離れていく。
「そういえば、学校とか行かなくても良いのかな?」
アリアがこの世界に生まれてから、すでに5年の月日が経っていた。父のハティと、母のルーナに、この世界と生活を教えてもらいながら、今日まで生きてきた。詳しく教えてもらっているわけではない。子どもに政治や国、人間関係など教えても、その意味のほとんどは解さないだろうと思ったからだ。
普通の子どもなら解さなかったであろう。だがアリアは、転生者。確かに頭の容量は子どもだが、明らかな人生経験がある。教えてくれたのなら、どんな世界なのか理解出来ただろう。
強くてニューゲームかと思ったが、ルーナにハティは、小難しい事など教えてくれない。
「みんなのとこいって、それで魔法自慢しよー」
魔法。正確に言えば魔術である。
ルーナは、魔術師の一人だ。それも相当な才能、いわゆる天才といったものだ。そんなルーナから、アリアは、直接魔術の手解きを受けている。
親の特性を継いで生まれたアリアもまた、魔術において、他を寄せつけない才能を持っていた。
まぁそれを発揮するかどうかは個人次第といった所だが。
実際、アリアは現在、魔術よりも剣術にお熱なのである。冒険者として活動していた父の影響で、剣術やサバイバル技術を熱心に教わっている。
すぐ出来るものより、それなりに努力したかったのだ。過去の自分からは想像も出来ない事ではあった。
過去とアリアに関係はない。この世界で、アリアは、誠実に、全力で生きると決めたからだろうか。
今日は稽古も魔術練習も休み。いかに全力と言えど、休みもなければ死んでしまう。まぁ今まで死ぬほど休んでいたわけだが。
(魔術に冒険者。身近にあると、こうもすんなり受け入れられるものなんだな。おとぎ話だと思ってたのに、今の現実がそうなんだよな。とりあえず、俺は、本気で生きよう。今度は、ズルはなしだ)
顔と身体と声と、全て子どもで、女も男も関係ない年齢。だがその頭の中には、アラサー子供部屋おじさんが居る。思考までは誤魔化せない。
「あ、アリア。お前また自慢に来たのかよ! もう帰れよ!」
「今日は違うよ! ほんとにみんなと遊びに来たんだよ」
町に着いて少し広場まで歩くと、数人で出来たグループがいる。アリアがいつも魔術自慢しているグループだ。そのせいでアリアは、現在ハブられがち。
「じゃあお前らで遊んでろよ。ほら、コイツお前と遊びたいって!」
背中を押されて前のめりに転ばされる。突然の出来事だったが、アリアが取る行動は一つだった。顔から転びそうになったその子の肩を掴みバランスを取る。そうして華麗に助ける。
そう出来れば良かったが、アリアは助けようとして逆に転んだ。自分の足に絡まって見事にずっこけた。顔がジンジン痛むが、その痛みに浸る時間もなく第二波がやってきた。
背中に一人倒れて、クッションになる。まぁ痛いよね。
「ぐぇえ」
潰れたカエルの様な声を出して苦しむ。そして顔を上げたときには、すでにあのグループは居なかった。
(あんのクソガキども! マジでなんなんだよ。俺のことがイヤだからって、子どもを転ばせる奴がいるか! あ、俺も今子どもだったわ。でもあんなクソガキじゃねーからいいや。俺はノーカン)
「だ、大丈夫? あいつらも酷い事するよな。急に押し出すなんてさ」
アリアが倒れたまま背中へと声をかけた。
「ああ、ごめんなさい! すぐ退くから。んしょ」
地面に手を付いて身体を起こす子ども。少し間を置いてからアリアも立ち上がった。お互い埃をほろって自己紹介をする。
「俺、アリア。アリア•ローレル。君は?」
「わ、私、フリンギラ。フリンギラ•ロンド。あの…さっきはごめんなさい」
ぺこりと頭を下げる。
「悪いのあいつらだから謝らなくていいよ。ほんと、最悪な奴らだね! あいつら!」
腕を組んでプンプン怒る。だがその怒りの矛先は、先ほどの性悪グループのクソガキどもへの物だ。
(はぁ、朝から最悪だよ。いや切り替えていこう。そうだよ、あんな性悪姑みたいな奴らなんて忘れよう。この子と遊べば解決するし)
アリアは、考えを改めた。嫌な事ばかり考えても楽しくはならない。なら楽しい事を考えた方が良い。
何事にもポジティブに行動できるというのは、子どもの特権かもしれない。
アリアは、フリンギラの手を引き、一緒に遊ぼうと誘った。
「いっしょに遊ぼうよ! 町じゃなくて、草原で遊ぼう。あいつらが居るから町に来てたけど、町なんかより草原の方が楽しいよ」
肯定も否定もせず、フリンギラはただ、引かれる手に従って歩き始める。
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