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5話

(アリアって、俺の名前か? なんでそんな女みたいな名前にしたんだ。もっとかっこいい名前が良かった)


 彼、アリアと呼ばれた赤子は、その母親に抱き抱えられていた。椅子に座って、腕の中で自分の赤子を愛でている。ご飯ができるというが、ここで座っているということは、作っているのは父親なのだろう。


「ハティ、アリアが起きたよ。早く食べたくて目が覚めちゃったんだよねー」


「はいはい、今できるから。ルーナ、机を片付けておいてくれるかい」


 言われた事をする前に、ルーナと呼ばれた女は、アリアを持ち上げてお腹に顔を(うず)める。(うず)めた顔を揺さぶると、くすぐったくて笑い声が漏れた。


(う、くすぐったい。笑い声が抑えられない!)


 口を大きく開けて、大きな声で笑う。嬉しいというよりもくすぐったいからだったが、ルーナにそれが正しく伝わる事はなく、それから顔を(うず)め続けていた。

 ひとしきりアリアを吸って時間を使った後、隣にある椅子に乗せ、ルーナは、机の上を片付け始めた。

 と言っても、机の上にはこれといって物がなく、本が数冊と蝋燭ぐらいのものだった。現代日本に住んでいた”アリア”には、かなり寂しいデスクだと思えた。

 小雑貨や洒落たお菓子が載っけられていた家の物との違いに驚いた。


(物すっくねー。机も木で出来てて、ますます異世界じみてきたな。俺って、本当に転生したのかな。だとしたら言葉が分かるのは、何でなんだろう。だーもう、考えるだけで疲れる! 疲労の溜まり具合が変だ、この体)


 脳の容量や大きさは、年齢や体の大きさによって変わる。赤子の体であれば、普通の大人の思考を数秒するだけでも、相当疲れるのだろう。オーバーヒートしたアリアの頭の中は、もう難しい思考を組み立てる事は出来なかった。

 部屋の中を見回すと、気がつくことだらけだった。

 白一色で塗られた壁。所々くすんでおり、全てが同じ純白とはいかない様子だ。樽に棚は、木で出来た物がほとんどで、プラスチック製の物など一つも見えない。


(現代っぽくないよなぁ。なーんか、着てる服も布! って感じでオシャレじゃないもん。はぁ、これからどう生きていけば良いんだろう)


 ネガティブな考えが、赤子の幼い頭の中にいっぱいになった。

 そのネガティブを吹き飛ばすかのように、底抜けに明るい声が、部屋中に響き渡る。


「出来たよー。ほら、暖かい内に食べようか」


 湯気が立っている鍋を持ち、二人が待つ机に向かってくる。三人が揃った机は、食卓に早変わりした。

 ルーナが、人差し指で何かをすると、卓の上にあっただけの蝋燭が、ひとりでに火を灯した。

 だが二人は、何事もなかったかの様にスプーンやらおたまやらを準備する。ポカーンとしているのは、アリアだけだった。


「あ、怖かった? 大丈夫だよ。ほら、私が合図すれば、消えたり付いたりするから。いつかアリアにもこれを教えてあげるからね」


 そう言うと、ルーナは鍋から料理を取り、小皿に入れて確保する。ふーふー息をかけて、熱を取り除く。完全に冷えたそれを、アリアの口に運んだ。


 そうして食卓を囲んでご飯を食べる。そんな日々を何年か続ける。赤子だったアリアも、一人で立って、一人で歩けるほどに成長した。


「外であそんでくるー!」


「怪我しないようにね」


「うん! じゃあいってきまーす」


 小さな、短い腕を伸ばして、ドアノブを掴む。ドアを開けて、外に遊びに出かけたアリア。歳は、5つであった。

読んでいただいてありがとうございます!!

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