4話
寝かしつけるための、赤子専用ベッド。その大きさは、犬や猫などの、小型から中型にかけての動物なら入りそうな大きさであった。
ゆりかごのように左右前後に揺れる。これで安眠だとでも言うのだろうか。
だが残念ながら、当に成人を越えている身からすれば、睡眠の邪魔以外の何者でもない。仰向けで身体を伸ばして寝る。それが一番眠りに就きやすい格好なのだ。
それをテキトーに揺れている箱の中でするなど、無理難題だ。何とも言えない表情。ここにあの二人がいなくて助かった。もしいたら、大袈裟に行動する事が目に見えている。
(あーあ、寝れねーなぁ。ハンモックみたいだけど、俺日本人だからハンモックとか部屋にねーんだよな。
つか、使ったこともねーし。初体験なのに赤ちゃんの姿なのは、なんか複雑)
赤子でありながら文句が多い、口に出していないのが唯一の救いであるが。
ため息一つ吐くのにすら苦労する。よく、身体が覚えているというのがあるが、今ようやくその言葉が現実に起こるのだと知った。
いつも何気なくできてた事が、この姿ではできない。歩く事も、腕を動かす事も、言葉を話す事も、満足に寝る事すらできない。ただ握るといった行為がこんなにも難しいとようやく気がついた。
普通にできていた事ができないのは、心に堪える。
(普通に歩いて、普通に喋れて。これだけでも、実はすげー事なんじゃね? やべー、悟り開き掛けてる。思想強いって言われそー)
現在、暇過ぎて悟りを開き掛けていた。普通にできる事が、実はすごい事なのではないか。そう思えたのは、暇で考える時間があったからだろうか。
そして付け加えるのなら、実際にできなくなってわかったということだろう。
止まらない揺れにも徐々に慣れ始め、心地よい眠気がやってきた。目が閉じかけられるあの感触。ギリギリ意識を保っているかと思えば、いつの間にか時間がすっ飛んでいるあの感覚。
寝落ちとは、何故こんなにも気持ち良いのか。いつのまにか目を閉じていた。夢が映ることはなく、目を閉じてから開けるまで、まるで一瞬の出来事のようであった。パチパチと瞬きをする。
そして、瞳を開ききった時には、彼は抱き抱えられていた。優しい抱擁とこの柔らかさ。母親が抱き抱えているのは、間違いない。
「お、起きたね。もう少しでご飯だからねー、アリア。お腹空いてるでしょ?」
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