32話
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思いの外アリアは、深い睡眠におちていた。夢の世界に入ることなく、ゲームのスキップ機能の様に時間が飛んでいた。
目が覚めるとすでに朝で、まだ寝ていたいと思った。
が、聞いた事がある。二度寝をすると、体に毒だということをだ。だからアリアは、諦めて二度寝を断念する。そのぐらいの自制心は持ち合わせている様だった。
昨日の出来事も過去のものとなり、また新しい一日が始まる。
(そうだ、母さんに頼んでみないと。でも教えてくれるかな。いつも忙しそうにはしてないから、意外と快諾してくれそうな気がするんだよなー)
顎に手を当ててそう考える。いかにもな様子で考えに耽っているが、この状態に入るのは、あまり推奨されるものではない。
理由を探しても現状が改善されることはない。行動だけが、今を変える唯一の方法なのだ。
アリアは、それをよく知っていた。だから、早々に部屋を出て、母を探しに行く。と言っても、家を出て遠くに行っている訳でも、街に買い出しに行っている訳でもない。
同じ屋根の下、おそらくリビングだろう。少なくとも、普段の母は、アリアよりもずっと早起きだ。アリアよりも遅く寝ているのに、何故かいつも先を越される。
まだまだ成長期のアリアは、やはりそれ分睡眠が必要になるのだろうか。
軽い足取りでリビングに向かって歩くと、所々から木板の音が聞こえる。ギィギィと声をあげる木板だが、悲鳴の感じではない。アリアに対して、ただ反応しているような、挨拶をしている様な音だった。
苦しんでいる感じではない。まぁ、この家は建てられてから、それほど時間が経っているわけでもないから、それも当然と言えば当然だが。
細く短い廊下を進んで、リビングにと着いた。
予想通り、そこには、母がいた。鍋をかき混ぜているのは、朝ごはんを作っているからだろう。それ以外で鍋を使うことはない。少なくとも今のアリアにとっては。
その背中に、アリアは声を掛ける。
「おはよう、母さん」
「あら。おはよう、アリア」
ちらっと顔だけ動かして、アリアの方を向いてそう返した。その間も、鍋をかき混ぜる手を止めることは無かった。
火加減が心配なのか、挨拶が済むと、さっと顔を元に戻して、また集中し始めた。
が流石アリア。相手の都合など関係無しと、そう言わんばかりに声を掛け続ける。
「あのさ、聞きたい事があるんだ。ダメだったら良いんだけど」
指遊びで緊張をほぐそうとするアリア。ルーナは、その一言で、なにかギクっとしたのだろうか。肩が跳ねて、明らかに動揺していた。後ろから見てもわかるものだった。
錆びついた歯車が回転するようにぎこちなくアリアの方を向く。今度は、身体全体をアリアの方に向けていた。
「き、聞きたい事って、何? わ、私が答えられる事なら、答えるよ」
引き攣った笑顔は、焦りを表しているのだろう。ここまでぎこちないと、最早意味が無い気もする。
アリアもその違和感には、気づいているが、指摘しても良い事はない。無視して話を続ける。
「そのね、お願いがあるんだ。俺、魔法を学びたくて。それで、母さんに教えて欲しいんだ。ダメかな?」
「ん? ああ! 魔法の事! なんだぁ、良かった。じゃなくて。コホンッ、良いよ、教えてあげる。アリアが満足いくものじゃ無いかもだけど、教えられるよ」
「本当! じゃあお願い!」
目を輝かせて狂喜乱舞している我が子を見ていると、自然と笑顔になる。作り物でも誤魔化しでも無い、心からの笑顔。
アリアは、そんな笑顔を引き出してくれる人間だった。ルーナの心は、この笑顔が見れるだけで、今日も一日中、輝いていられる。
「ありがとう。俺、いつからでも出来るよ! 頑張って、魔法使えるようになるぞー!」
余韻に包まれながら、アリアは、まだまだ元気だ。良かった。昨日の一件を掘り返されると思ったルーナは、内心ビクビクしていたのを、今になって思い出した。
決定的な瞬間を見られたわけではない。だから言い訳は通じるが、仮にそれを聞かれたら、グダグダになる事間違いない。
なんせ子どもに見さられる事でも、教えられる事でもないのだから。ホッとする気持ちが、二つの意味となってこの心を満たした。
ルーナは、今、料理をしている手を止めている。鍋の底には、こびり付いた焦げが、黒い層となっている事だろう。




