30話
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「結局、走って終わったな。な、イヌ」
だだっ広い草の道を、翼の生えた犬と歩くのは、アリアだった。日が暮れ初めて空がオレンジ色に染まりかけている。
傍のインヌがはしゃぎながら歩く。フリンギラと遊んでいたのは、実際にはインヌの方だった。
よく母親に懐いていたインヌは、フリンギラにもよく懐いて、草っ原を一緒に駆けて周っていた。
アリアも必死で追いつこうと足を動かしていたのだが、追いつかなかった。犬の脚力の前に、まず体力が続かなかった。
息切れこそしていたものの、フリンギラは、膝に手を置いて息をすることはなかった。父との稽古で、それなりに鍛えられていると思っていたアリアは、フリンギラにすら負ける体力であった。
「今日気づいたよ。てか気付かされたよ、俺のスタミナの無さに。はぁ、こんなんで冒険者になれるのかな」
返事として、ワンと鳴き声が聞こえてきた。果たしてどちらなのだろうか。冒険者になれる? それともならない。どちらの意味で吠えたのだろう。残念ながら、それを確認する術は、ない。
こんな時、魔法でも使えたら楽なのだろう。
「フリンがあんなに元気いっぱいだったとは。人は見かけに寄らないって本当だったんだね…」
遠い目をしてインヌに話すが、やはり帰ってくる言葉を理解するのは、難しい。音の高さやなんやらで判断しないといけないが、そこまで絆を育んでいない。
わからないのも当然ではある。
心無しか歩くスピードが遅い。疲れたのもあるが、鳩尾の怪我が、まだ突っ張るのだろう。
治ったとはいえ完治ではないのだから、無理は禁物だ。まぁ、アリアに無理をした意識はなかったが。と言うより、無理をしても2人には追いつかなかっただろう。鈍った身体のせいではなく、元々の性能だろうと、アリアは考えた。
するとここで、アリアに電流が走る。突然の閃き。それは、水が健やかに流れるようにスッキリとした閃きだった。
体力がないのなら、他で補えばいいのだ。
剣がダメなら槍を使う。槍がダメなら斧を使う。近づいての戦いがダメなら弓を使う。
猟師は、弓で獲物を狩るが、冒険者は、剣で魔物を狩る。道具や技能は、役に立つところ、役立たせられる人間が使うべきだ。
簡単に考えたアリアは、魔法の勉強だと思った。才能があるかどうかは、知らないが、少なくも、家には、魔法の類が溢れている。
母であるルーナが拵えた物だ。
勝手に着いては消える蝋燭や、自動で開閉されるドアに、危険を知らせるアラート。全て高位の魔法使いである母の作品。
そんな人間から、魔法を学ぼうと言うのだ。才能がなくとも、多少は、それっぽくなるだろう。その考えが現れてから、アリアの歩くスピードは、速さを増していった。
それでもまだまだ遅かったが、家には、確実に近づいていた。
「インヌ、俺は、魔法を勉強しようと思うんだ。うんうん、みなまで言うな、インヌよ。わかってる。剣の稽古も続けるさじゃないと、冒険者には、なれないからね!」
補足しておくと、冒険者は、剣の心得がなくともなれる。種々雑多な諸共が、一つのパーティーとして冒険に出ているのだ。違う技能を持っていないと早死にする。冒険とは、そういうものなのだ。
だから、剣が冒険の象徴と言うのは、アリアの勝手な想像に過ぎない。そのせいもあって剣の稽古をしているのもあるが。
とにかく、アリアの魔法勉強計画は、上手くいくかは置いておくとして、やり方としては、正解だろう。
何事も、早くから初めておいて損はない。仮に出来なくとも、これからの人生で、無駄な事に時間と労力を削ぐ必要が無くなるのだ。それだけでも価値はあるだろう。
軽くなった身体は、心の有り様とリンクしている。弾む気分で家へ、母の元へと帰っていく。
「驚くかな、俺が魔法教えてなんて言ったら」
「ワン!」
はっきりと耳に聞こえてくる声は、つんざくように甲高いが、やはり、言葉の意味はわからなかった。




