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21話

読んでいただきありがとうございます!

 ヒルトにブレード。おおよそ剣と言える要素を満たしたそれを、アリアは、片手で持って外へと向かう。本物と違う点と言えば、ブレードもヒルトも木材で構成されており、鍔は紐で括り付けられている点だ。

 愛情の籠った、ハンドメイド品。

 本当ならハティも真剣を持たせたいのだろうが、木刀を持つのがやっとの子どもに、鉄で出来た殺しの道具は、扱いきれない。理由の列挙を始めると、それだけで一日が潰れるほど、待たせない、あるいは持てない理由が山程だ。


(もっと筋肉つけて、重い物持てるようにならないと。でも俺まだ子どもだわ。くぅー、なんだか、ムズムズする)


 日は昇っているが、まだ本調子ではないように感じられる。朝方の空の青色で、地上の暗さを塗り替えている。けれども淡い色だ。夜のような深い闇は、既になく、人の目でも十分に遠くを見通せる程度。

 外気を吸うと、冷たい空気が喉を通って肺に運ばれる。大きく息を吸い込まずとも、その冷たさは、喉と肺だけでなく、全身を引き締めてくれた。

 覚悟を決めて臨まなければ、怪我をしてしまう。だからこの冷たい空気が、今は嬉しかった。


「お、来たか。それじゃあ、さっそく今日の訓練、開始しようか」


 草原で木刀を握りながら、一人で、ある一点を見つめていたハティ。何処を見ていたのかわからない。過去の冒険の思い出だろうか、それとも、冒険以外での思い出だろうか。まぁどちらにせよ、アリアには、わからないことだ。気にするだけ無駄だ。


「うん、準備万端」


「よし、じゃあ構えて。すぐに始めるよ」


 ふぅ…と息を吐く。その後吸い込み、また吐く。稽古が始まる前、毎回あるのが、この構えてからの間だ。息を整えて、体を戦闘体勢にして、木刀を構える。頭を、日常から稽古に切り替えるための、儀式のようなものだ。

 これをやるのとやらないのとじゃ、心の持ち様がだいぶ変わる。これをするから、剣を握れるのかもしれない。


「よし、アリア、打ち込んでこい!」


 ハティがそう言った。するとアリアは、遠慮なく、木刀を両手で持ち、振り上げる。下されたのは、唐竹割り。いくら子どもの一撃とは言え、こいつを喰らっては、ひとたまりもない。が、二つの刃が交わったという事は、アリアの一撃は、ハティに受け止められたということだろう。だが想定内だ。

 防がれたのなら、次の手を考えなければいけない。

 かち合った二本の木刀は、アリアの刃が上になっている。それを勢いよく上に引き上げるのも手だが、あまり良い手ではない。過去にそれをしたら、木刀が離れた瞬間に攻撃を喰らってしまった。その際は、一日中ベットに括り付けられる事となった。あれは、もう勘弁願いたい。

 だからアリアは学んで、どうすればいいか自分なりに考えた結果、身を後ろに引く事にした。

 もちろん、この後に待っている出来事はわかっていた。バックステップのせいで、足が地面にしっかりと付いていない隙を付き、一気に距離を詰められる。


(っと危ない。攻撃は最大の防御って言ったやつ殴りたくなるな)


 全霊の集中でアリアは、鋭い突きの一撃を躱す。予備動作も見えていた。飛んでくるのも、恐ろしい素早さで行動してくるのもわかっていた。

 予測が出来、準備も出来たのなら身体能力の問題ではない。足りない分を他で補えばいいのだから。

 脇腹と腕の間を通した刃を、アリアは、避ける事が出来たと考えていたが、それは誤りだった。

 思慮が足りなかったのだ。相手は、隠居したとは言え、元々は冒険者だ。数多の怪物に肉博し、野党共と刃を交えていた人間。経験が身体を駆け巡る剣捌きは、アリアの予想など簡単に越えてくる。


「うげぇ!」


 腹部が破裂するような感覚。鳩尾をやられたらしい。

 防御する考えが、そもそも浮かんでいなかった。突きが、次の瞬間には横薙ぎになっているなど、誰が予想できるものか。冷静になればわかる事かもしれない。だが、3秒と立たずに変化する剣技に、どう対処すれば、アリアは吹き飛ばずに済んだのだろうか。剣戟の中で涼しい思考を保ち続けるのは至難の業なのだ。

 草の上で横たわり腹を抱えて、左右に揺れる。鳩尾の痛みに耐えかねて、全身を動かさなければ意識を保てないのだ。


「大丈夫? 剣の腹で打ったから、そこまで酷くはないと思うけど。手当てしに行こうか?」


 剣の腹で打ったから大丈夫だと? ふざけるのも大概にしてほしいものだ。アリアは今、昨夜の夕食が口からリバースできる様な状態なのだぞ。幸い、腹の中に何も無かったから良かったものを、本来なら、ここら一帯が吐瀉物まみれになっていたかもしれない。


「おぉぉ……い、家で、療養を、しないと」


 途切れ途切れになる言葉に、自分でも不思議と思う。痛みでここまで言葉を紡げなくなるのかと。

 ハティにおぶられて、アリアは、家の中に戻っていった。外に出てからというもの、10分と経っていなかった。

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