2話
暗い。目が開かない。真っ暗闇の中で彼は、息が出来ない事に気がついた。必死に呼吸をしようとするが、喉には何かが詰まっている感覚がある。液体の様なそれが、いくら努力しようとも、喉の外に出て行く気配はなかった。
自殺を選んだことに後悔が生まれてきた。五感で感じられるものは、全て曖昧になり、背中には強い衝撃を何度も与えられ続けているみたいだった。
痛みと苦しさと不快感で、涙が流れ続けていることだけは確かだった。
何が起きているかわからず、ただ眠気が襲ってきた。抗い切れない睡魔に、彼は眠りについた。だがそれは、永遠の眠りという、所謂”死”によるものではなかった。
彼が感じていた苦しみは終わりではなく、始まりの苦しみだったからだ。
「うーん、寝顔もとってもキュートね」
「どんな服を作ってやろうか。そうだ、あいつの所で仕立ててもらおう! かっこいい服…いや可愛い服の方がいいな。まだ赤ちゃんだもんなぁー」
「彼、赤ちゃんの服も作れるの?」
「趣味だから作れるんじゃないかな。でもなんか言われそうだなぁ」
次に目を覚ました時、彼は知らない声を聞いていた。睡眠を取っていた彼の事などお構いなしに、男の声と女の声がひっきりなしなしに聞こえてくる。
瞳を開けると、彼は仰向けに寝かされていた。そのせいなのか、眼前に見える男と女の顔は随分と高い場所に見えていた。
思考が纏まらず、とりあえず起きあがろうとする。膝を曲げて腕で身体を支え、それから起き上がる。いつもやっていた行為であるが、それを出来ないことに気がついた。
膝を曲げようとしてもうまく扱えず、腕に関しては碌に動かす事すら出来なかった。
(金縛り? いや待て、俺は死んだんじゃないのか。ならここは死後の世界って事か? にしては楽園感が皆無だな)
表情は見えなかったが、鏡があれば、彼が眉間に皺を寄せているのがわかるだろう。話し込んでいた男と女が、眉間に皺を寄せた赤子を見た。
「大変だ、何か具合でも悪いのか? 険しい顔になってるぞ!」
「慌てないでよ、こういうのは女に任せなさい。よーしよーし、良い子良い子。お腹が空いたの? それともお漏らししちゃったの?」
細長い腕が伸ばされて、身体を優しく包み込んでくれた。腕の中に抱かれた赤子は、驚いた様子で目を丸くしていたが、その真意が伝わるわけもなかった。
(待て待て、俺を持ち上げるなんてどんなデケェ女なんだよ。これ俺が小せぇんだ!)
腕に抱かれた赤子はずっと困惑している。表情の違いは言葉や雰囲気を伴って相手に伝えられるものだ。赤子である彼はその内、言葉と雰囲気を失っている状態。すなわち、どんな気持ちでいるのかは、この女が勝手に予想を付ける他ない。
「お漏らししてる様子もないし、お腹が空いてるのね。ちょっと待ってねー今準備するからねー」
そう言うと、胸元を止めていたボタンを一つずつ外していく。それも赤子の目の前で。
(うわぁぁぁ! まずい、この状況は非常にまずい! どうにか回避行動を!)
赤子の彼は、大きな声で泣き出したが、それは音であり、言葉という形を取れてはいなかった。
どうも飯豊ダイコンです。最後まで読んでいただきありがとうございます。
転生ものを描いてみたいなと思って冒頭描いてみました!!
面白かったら、ブクマと星をくださりますと私が跳んで喜びます。