2話
(まずい。大の大人が、女の人の胸にしゃぶりつくなんて! いやご褒美ではあるが、非常にまずい!)
そう思うと、一段と泣き声が高くなった。本来なら言葉やジャスチャーで伝えるものが、今や泣き声しかない。
たった一つのツールでしか、自身の感情を表現することが出来ない。なんと不便の極まりないことだろうか。上手く操れない体は、喉から出続ける声も、瞳から流れる涙も、調節どころか止めることすらできない。
どうすることもできず、ただただ泣き叫ぶ。だが、泣いているだけで、頭の中は、存外とスッキリしていた。その爽やかなままの頭で、何故こうなったのかを考える。
まずは初めにだ、泣いている理由を探さなければならない。困難は分割するべきなのだ。そして、出来るだけやりやすい困難から手を付けるべきである。それに、泣いている理由なんて簡単だ。言葉の代わりに発しているだけなんだから。よし、まずは一点。次だ、次。
二つ目である。自分の身に起きた不可思議なこの現象、ひいては不可思議な現状についてだ。
小さな手のひらに、満足に開けない口。どこか寂しげな頭には、髪の毛が無いのだろう。十中八九、男は赤子に生まれ変わっているのだ。まぁ、頭の禿げ上がったナニモノカに生まれ変わった可能性もゼロでは無いが。
生前、ファンタジー小説やライトノベルを読み込んでおいて良かった。無駄に過ごしたあの日々も、今なら、ただ浪費しただけとは思えない。無駄だったことに異論は無いのだが。
いやちょっと待て。生前? 生まれ変わり?
物の例えで使っただけだが、言われてみればだ。言われてみれば、男は、ビルからその身を投げ打った。
空中漂う浮遊感も、その間に耳へ届く死神の吐息も、地面と接触するあの一瞬の痛みも。鮮明で無いにしろ、全て記憶していた。
ならば、男は一度、死んだのだろう。さして生まれ変わる。なんとも奇妙な巡り合わせだ。
なんだか申し訳なくなる。生まれるはずだった生命は、堕落した魂が乗っ取ってしまったのだから。
深く考えれば考えるほど、深刻に思えてくる。男のダメな所だ。思えば、いつもそうだった。
小さいときも、また大きくなってからも。内面は成長しないで、幼いままだったのだ。弱点を鑑みず、ただただ周りに他責して。そう、ならないようにしなければ。と、男は考えた。少ない容量の脳で、そう思考したのだ。
そんなことよりなにより、今から一番困っているのは、実はもっと生理的なことだった。
(キーボしちゃってる)
頭の中では赤提灯のように顔が真っ赤だ。柔らかく穏やかな香りの腕に包まれ、眼前には桃の実二つ。
女性経験皆無の男には、少々どころか大々刺激が大きい。隠しきれない膨らみを抱えながら、含羞する。
どうも宿明朱里です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
転生ものを描いてみたいなと思って描いてみました!




