10話
フリンギラの後に続いていくと、集落というような、小さな家の集まりがあった。両手で数えてもお釣りがくるほどには少ない。
もり仮に、誰かが二軒三軒と所有しているとしたら、集落でもないのだろうか。とにかく少ない。
こんな場所に集まるぐらいなら、少し頑張って町の中に家を持てばいいと思うが、アリアの家族も町からは、距離を取って暮らしている。自分が言う資格はない。
慣れた足取りで次々と歩を進めるフリンギラ。といっても、迷うくらいの密度ではないのだが。
「着いたよ、ここ」
小さなと言った通り、ここには、豪華な住居や大きな建物はない。
フリンギラの家も例外ではなく、平屋の物だった。 他と違うところと言ったら、少し長くて長方形となっている点だろう。
(うーん、素朴な木材の家。やっぱり奥行きがあるな。昔の家って幅が狭いんだな。なんか、ゲームといっしょで感動しそう)
心の中で呟いているが、口では、別の事を聞いていた。
「入ってもいいの? 怒られたりしないの?」
「なんで? 友達連れてきただけなんだから、怒られるなんてことないよ」
意外だった。それは、フリンギラが友達と言ってくれたことに対してだった。自分からは、あまり主張をしない性質な気がしていたから、自分のことを友達と言ってくれたのが意外だった。
なんだか、認めてくれたようで少し嬉しくなった。
「それじゃあ、お邪魔します」
引き戸を開けて、遠慮がちに中へと入る。フリンギラは、我が家なので、立ち止まらずに部屋に進んでいく。
アリアは、玄関で立ってフリーズしてしまった。
まず、女の子のお家に遊びに行く。そんな事は、生きている内にはあり得ないと思っていたからだ。それが今、現実となっている。
この状況に感銘を受けている。
もう一度も前世に関係する事だが、アリアの前世は日本人。大和魂がもえる日本男児だった過去のアリアは、靴は脱ぐものだと、幼い頃より英才教育を受けていたからだ。
女の子の家ということが重なり、この世界の常識を一瞬間違えてしまったのである。
「早く来て。部屋の中だったら紙あるから。それで、押し花っていうのを教えて?」
「あそっか。うん、今行くから待って」
そういえばと、忘れていた常識を思い出す。郷に入っては郷に従えと言う言葉もある。異常者的行動にメリットもないことだし、そろそろ動き出そう。
フリンギラのいる部屋の中へと体を持っていく。
質素なものだ。机に椅子、棚に小さな台。ミニマリストと言うやつだろうか。とにかく、物が少ない気がした。
(椅子が2脚っつーことは、親が片方いないのかもしれんな。変に刺激しない方が身のためだ。口に出す言葉は、今一度考えてから発言ですな)
気分的には、顎に手を添えて思案している。
「それじゃあ教えるね。初めに、2枚の紙を用意するんだ。なんでもいいからさ。なんなら紙じゃなくても、挟めるものならなんでもいいんだ」
ジェスチャーでどうするかを伝える。
両手で、押さえる紙を表し、花を挟む動作をした。腕は3本も4本もあるわけでは、なかったから、重しを乗せるジェスチャーは、手の平の上に拳を乗せて表現する。
「そしたら、次は、重しを上に乗せるんだ。そして、そのまま一週間ぐらい放置するとできあがるんだ」
「一週間何もできないの? 時短テクニックとかさ」
「できないよ。魔術ですら時間の操作なんて、できっこないから」
「そうだよね、そんな都合良くはいかないよね。」
よし、と意気込んで、二人は作業を開始する。役割分担はこうだ。アリアが監督、フリンギラが押し花作り。9対1の割合である。もちろん、アリアが1割の方だ。
机を境に、対面して椅子に座る。
下地を敷いて、その上に大事に抱えていた花を置き、そしてそれに一枚の紙を被せる。
アリアは、拾った石をジャラジャラ鳴らして、どれが一番使えるかを吟味する。
大きければいいってもんじゃない。ある程度の性能で扱いやすい。それが大事だった。
何個か小石を乗せて、後は、待つだけ。一週間も。短時間で終わった作業。つけ加える工程も、オリジナリティを出す工程もない。まぁ一瞬で終わるものだ。
「それじゃあ俺、帰るね」
「待って。また遊ぼうよ。今度は、あの草原に、私が行くから」
「本当! 約束だよ」
フリンギラは頷いた。アリアは、喜びながら引き戸を開けて外に出た。そうして、自身の家へと帰っていった。
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