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007 バージョンアップ



『オーナー認証完了。次元ネットワーク接続完了。店舗機能バージョンアップシークエンス開始』


 うおおお、早くしてくれアドナイ。

 目視するのが怖いほど近くに足音が聞こえてるって。


 見ろよ。

 ベアトリアさんとシェリンさんが悲壮感丸出しで剣を構えてるぞ。

 ありゃ完全に玉砕覚悟だ。


 ああ……四方八方に魔物が溢れていく……

 よく見れば、さっきのゴブリンだけじゃなく、頭が豚っぽいのとか、やたらデカいのとかも交じってる。獣みたいなのも一杯いる。これ全部が魔物かよ。

 くそぉ。せっかく生き返ったってのに、また死ぬのか。

 結局、俺の人生ってなんだったのかなぁ。


『バージョンアップ正常完了。ナタロウ様、いつでもいけます』


 おおっ!

 すぐにやってくれ!

 ベアトリアさんがかかって行っちまった!


『了解。お二人をナタロウ様のお傍に呼び寄せてください』


 オーケー!


「シェリンさん! ベアトリアさん! 俺に考えがあります! こっちへ!」

「わかりました!」

「むっ、良かろう」


 二人が店舗を背にした俺の隣へ来た時、アドナイが心なしか格好付けたような声音で告げた。

 もっとも、俺にしか聞こえていないのだが。


『シャッターモードオン』


 ジャキンと言う音と共に、まるで鋼板のようなシャッターが店を全て覆った。

 いや、うん、まぁ、確かに現実の店舗も非常用のシャッターはあったけどさぁ、あれは窓だけだったぞ。

 壁どころか天井まで覆うとは、さすが異次元の店舗……


『商品転倒防止重力制御オン。慣性制御オン。ヴァリアブルストアモードオン』


 え、え、え、なんじゃそりゃ。


『アタックモードオン。管制権限を全てナタロウ様へ』


 は?

 俺?


『ナタロウ様、右手を振り上げてください』


 おう。

 言われたとおりにすると、うん、しなければよかった。


「見てください! お、お店が!」

「浮いた……!? あんなに高く……」


 はい、再び驚かせてごめんなさい。

 でも一番驚いてるのは、俺です。

 まさか見えなくなるほど遥か上空まで飛んで行くとは。


『そのまま振り下ろしてください』


 なんとなく。

 なんとなくだが、この先どうなるかわかった。

 だが、躊躇している暇はないし、ベアトリアさんとシェリンさんを死なせる気もない。

 俺だってもう一度死ぬのは嫌だ。

 だから、つまらん感傷は吹っ切った。

 思い切り腕を振り下ろしてやった。


「行くぞアドナイ! おりゃああああ!」

『次元加速開始。ナタロウ様の背後へ回るよう、お二人へ指示を』

「二人とも! 俺の後ろに!」

「承知した!」

「はい!」


 これから起こる何かを察知したのか、彼女たちは素直に聞いてくれた。


『第四次元速度到達。対衝撃姿勢を推奨』


 二人を庇うように両手を拡げ、足を前後に踏ん張る。

 上空からキラリと光る何かが落ちてくるのが見えた。

 もはや目前にまで迫った魔物の群れ。

 荒々しい息遣いさえ感じられ、大いに焦る。


『第五次元速度到達。軌道修正。弾着点修正。ナタロウ様、格好良く高らかにお叫びください。【メテオストア】と』


 ええ~!?

 やだよ恥ずかしい。


『いいえ。叫ぶのが発動条件です。そもそも叫ばない必殺技に存在意義はありません。それでもナタロウ様は第三次元のお生まれですか』


 なんだその暴論は。

 わかったわかった、叫べばいいんだろ。

 こうなりゃヤケだ。


『弾着点再修正。二、一、今』

「メテオストアァァ!!」


 恥はかき捨てとばかりに叫んだ瞬間、赤黒く輝く店が途轍もない速度で地に突き刺さった。

 思ったよりも近くに。


 敵が俺たちの近くに密集してるからなんだろうけど、大丈夫かこれ。

 はっきり言って、爆発には良い思い出が無いぞ。

 こちとら一度は分子分解されてんだからな。


『衝撃波来ます』

「俺に掴まれ! うおおおおお!」

「きゃああああ!」

「きゃああ……コホン。うわあああ!」


 凄まじい衝撃波と熱波の後、轟音もやってきた。

 足が地面にめり込んで行くが、なんとか耐えられている。

 何故かはわからない。


 ところで、最後の悲鳴はベアトリアさんか?

 なんでわざわざ叫び直したの?


『状況終了。目標の九十九パーセント以上消失。アタックモード解除。シャッターモードオフ。通常営業状態へ移行。お疲れ様でした、ナタロウ様』


 アドナイの言葉を受けて、ぐるりと周囲を見渡せば、確かに立っているのは俺たちのみだった。

 あれほどいた魔物が、綺麗さっぱり消えている。

 それどころか大地は抉れ、草木も根こそぎ吹き飛ばされてしまったようだ。

 上空から俯瞰すれば、きっと巨大なクレーターが出来上がっていることだろう。

 なんという威力だ。

 はっきり言って、恐ろしい。


 ……だが、ほんのちょっぴりスッキリしたような気もする。

 言葉にするのは難しいが、背徳的な快感と言うか。


 やばいやばい。毒されるな、俺。

 こんなの環境破壊もいいとこだろ。

 市街地なんかで使ったらどれだけの被害が出るか。

 この技は危険すぎる。

 封印だ封印。

 そもそも、あんなシャッターがあるなら店内に籠城すればよかったんじゃね?


『私は攻撃型です。受けは性に合いません』


 そう言う問題か?

 まぁいい、助かったのは事実だしな。

 ありがとう、アドナイ。


『どういたしまして』


 AIに顔などないが、なんとなくアドナイは微笑んでいるような気がした。

 ふう。何はともあれ、どうにか危機を脱したようだ。

 でも、店がふよふよと浮遊して来て俺たちの前に着地したのは、ちょっとしたホラーっぽいけどな。


「助かった、のか」

「生きてますね……」


 俺にしがみついたままのベアトリアさんとシェリンさんが呆けたように呟く。

 彼女らが纏う鎧のせいで、ポヨンポヨンは感じられない。残念……じゃなくて、良かった。二人とも無傷だ。

 しかし、俺はあることに気付いた。気付いてしまった。

 完全に俺のせいだ。


『ナタロウ様、御安心を。責任を取るためのアップデートも完了済みです』


 なんのこっちゃ。

 だけどアドナイの言う通り、責任は取らなくちゃな。

 こういう時は先手必勝。


「申し訳ありません。お二人の荷物も吹き飛ばしてしまいました」


 きちっと腰を折って謝罪する。

 深々とするのがコツだ。

 カスハラレベルのクレーマーもこれで対処してきた。


「む、言われてみればそうか」

「私は背嚢を背負っていたので、それほど被害はありません。食器くらいです」

「うむ、私も簡易天幕や食料は失ったが路銀は無事……ぬわぁぁああ! 私の『らいたあ』がぁぁああ!」


 己の荷物よりも、ライターの喪失を嘆くベアトリアさん。

 そこまで大事だったとは。

 なんなら、また発注しておきますよ。


「それでですね、もう辺りも薄暗くなってきましたので、今夜はこの店に泊っていただこうかと。勿論俺は離れてますから大丈夫」

「良いのか? 我々は助かるが」

「このお店なら魔物が来ても安全ですね! 是非お願いします!」

「では、こちらへどうぞ」


 良かった。

 どちらも乗り気みたいだ。

 床は硬いが二人には広いバックルームで寝てもらおう。

 俺は事務所の椅子で充分だ。

 調べたいこともあるしな。


『お待ちください、ナタロウ様』


 ん? どしたアドナイ?


『女子をバックルームに寝かせては、ナタロウ様の沽券に関わります』


 じゃあどうするんだよ。

 売り場に寝かせるよりはマシだろう?

 事務所の仮眠スペースなんて一畳分だぞ。

 俺ですらきついわ。


『ですから先程、私は責任を取るためのアップデートも完了済みと申し上げたのです』


 は?

 なんのこっちゃって、俺もさっき言ったぞ。


『バックルーム内の扉をお開けください』


 勝手口のか?

 まぁいいけど……って、なんじゃこりゃああああ!?


 開けてみて愕然とする。

 外と繋がっているはずの勝手口は、見知らぬ空間と化していた。

 それはまるで、ホテルの廊下だった。

 通路の両側にいくつものドアがある。


 アドナイさん……?

 これは一体……?


『従業員用居住区画を増設しました。インフラ設備も充実しています。ちなみに、亜空間を利用しておりますので店舗の外観に影響はございません』


 なにそれすごい!?



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