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019 あの男



 オーケイ。着地完了。

 アドナイ、尖塔の内部に敵は?


『かなりいます。実数にして五十二名』


 ええ……多いな。

 自動誘導レーザーでも一度じゃ全員は無理か。

 倒すのにモタつけばベアトリアさんが危険だし……

 一網打尽にするには……

 よし、アレを使うか。


 右腰のポーチから小さなカプセルを取り出す。

 上部のスイッチを押し、尖塔の小窓に投げ込んだ。


 さん、に、いち。


 数秒ほど待機し、尖塔へ侵入した。

 実際は一秒も要らないのだが念のためだ。


 眼前には倒れた兵士が二名と扉。

 躊躇なく扉を開け内部へ。


 そこには椅子に縛られ腰かけたままうなだれるベアトリアさんの姿が。


「無事みたいだな」

『眠っているだけです』

「上等」


 ガスカプセルは覿面だった。

 あの小ささでも数百人は一瞬で昏倒させられる。

 効果は八時間。

 しかも強烈な拡散性のガスなので、この尖塔の最下部に至る五十二人は全て眠ったはず。

 上手くすればこの城の全体を夢の世界へご招待だ。


 さてと、アドナイ。この部屋にも結構な人数いるけど、目ぼしいのは?


『アンダルシア侯爵です』


 やたら立派な全身鎧の男に赤いマーカーが点る。

 スケベそうな太った爺さんだ。

 鎧は特注かよ。

 もしベアトリアさんにイタズラとかしてたら、あんた後で絶対ベルモンド様に拷問されるぞ?


 んで、そのアンダルシア侯爵はどんな人?


『親国王派の筆頭です』


 国王派、ねぇ。

 どれ、直接聞いてみるか。


 俺は侯爵の頬を容赦なく張る。

 往復ビンタだ。


「ぶっ! ぶっ!」


 ブーブー鳴くだけで起きやしない。

 あ、ガスはこれくらいじゃ目覚めないんだったな。

 ポーチからカプセル状の薬剤を取り出し、鼻先で割ってやると、すぐに覚醒した。


「なっ、なんじゃ貴様は!? 魔族か!?」


 おっと、真っ黒な鎧服アーマーウェアをフードまで被っていたんじゃ人間には見えないかもな。

 ペロンとフードを外し、ガシガシと髪を擦る。


「人間だよ」

「く、黒髪に黒目……! 貴様が万能屋一一七の店主か!」

「おや、よくご存じで」


 って、そりゃ見たことは無くとも知ってるよな。


「お前たち! 何をしている、早くこやつを殺さぬか! 衛兵! 衛兵!」

「誰も来ねぇよ。みんなおねんねさ」

「ぐぬっ!」

「なぁ、ベアトリアさんを拉致監禁したのはあんたの独断か?」

「……」

「ゼルシオ伯爵とあんたは共謀してるな?」

「……」


 だんまりか。

 それは賢いようで賢くない選択だと思うぞ。

 ほほぅ、こりゃあいかにも高価そうな金属の兜ですなぁ。


 メキメキメキ。


「あ゛っ! いだいいだい! 砕けるッ! 頭が砕けるゥ!」

「いいんじゃないか? つまらねぇ悪事ばっかり考える頭なんかいらねぇだろ。この国にとってもな」

「ヒィ! ヒギィィ!」

「あのさ、事態を正確に把握していないようだから言うけど、俺は本気で怒ってるんだ。なんでわざわざ人質を取る。俺に話があるなら直接言えばいいだろうが」

「し、仕方が無かったのだ! 儂とてあのイカレた公爵を敵に回したくなどない!」


 おや。

 風向きが変わってきたぞ。

 この狒々親父は公爵家と事を構える気は無かった。

 ベアトリアさん絡みとなれば、ベルモンド様は絶対にキレるもんな。

 あの人はキレたら何をするかわからん怖さがある。

 この爺さんはそれを知っているってことだ。

 なのに、ベアトリアさんを拉致監禁すると言う強行に及んだ。

 侯爵相手にそんな無茶を命じられる人物……


「国王か」

「うぅっ!」


 返事になっていないが、爺さんの表情は雄弁だった。

 目は口程になんとやらってな。

 黒幕が判明すれば用は無い。

 額にベシンとデコピンを入れて気絶させる。

 骨折と脳震盪くらいで済めば御の字だろ。

 下手すりゃ脳挫傷で死ぬかもしれんが、別に構わないよな。


「王にマーキングしてマップに表示」

『了解』


 へぇ、流石は王様。堂々としたもんだ。

 城で一番広い部屋、つまり謁見の間の玉座に座ってる。

 ピクリとも動かないところを見ると、ガスが効いたみたいだが。

 ほんじゃまぁ、お邪魔するか。


 俺はベアトリアさんを担いでポヨンポヨンを楽しみつつ廊下へ。

 邪魔な兵士を階下へ蹴り飛ばして、スペースを作った。

 そこにベアトリアさんを横たえ、カムフラージュシートを被せる。

 次元迷彩が作動し、彼女の姿は完全に風景と化す。

 捨てていくわけではない。帰りに拾っていくつもりだ。


 眠りこける兵を踏ん付けながら螺旋階段を降り、一階へ到着。

 さてと、ここからは兵士以外の人間もいるだろうしな。

 気軽に踏んだりできないぞ。


 鎧を着ていない者は避け、大股で静かすぎる城内を進む。

 存外に複雑な構造だったが、アドナイの誘導とマップがあるので楽勝だ。

 しかし兵士の多いこと多いこと。

 普通なら交代制だろうから、非番の連中まで駆り出されているのかもしれない。

 それはつまり、首謀者の国王も俺を殺すのに本気だってことだ。


 理由がよくわからんけどな。

 納品もきっちりしたのに、何が不満なんだ。

 まぁ、かなり吹っ掛けたけどさ。

 でも、言い値でいいって言ったのはそっちだぞ。


 などと思い耽るうちに謁見の間へ到着。

 うじゃうじゃいる横たわった兵士。

 その奥の玉座でグースカ眠る国王。

 真っ直ぐ歩いて王に覚醒薬を嗅がせる。


「……む? 貴様は……」

「よう、王様。拝顔の栄誉を賜り恐悦至極ってか」

「黒目、黒髪……似ておる……あの男に」

「あん?」


 誰に似てるって?

 しかし、この王様。俺を見てもあんまり驚いてないあたりは肝が太いな。


「貴様が万能屋一一七の店主……名は確かナタローとか言ったか」

「ああ。アオ・ナタロウだ」

「アオ……? そうだ、思い出した。あの男もアオと名乗った。アオ・ジョーイチローと」

「なっ」


 何だ? 何でだ?

 何でこんなところで親父の名前が出てくる。

 あのクソ親父なら三十年も前に失踪したきりだぞ。

 母を泣かせ、どこかで野垂れ死にしてるはずの。

 七人の姉弟全員が、もしどこかで見つけたら絶対殴ってやると決意したほどの。

 まさか……まさか……


「……そいつがどうしたって?」

「あの男はわたりだった。特異でおぞましく、恐ろしい術具をいくつも造り上げた鬼才だった。そんな人間がこの世にいてたまるか」


 渡……?

 渡人ワタリビトか!?

 冗談だろ?

 親父も死んでこの世界へ来たってのかよ。


「貴様もそうだ、アオ・ナタロー。公爵家の青二才に数万もの武具を売った挙句、更に一万の武具をたった四日で揃えられる商人などおらぬ。ましてやこの時勢に。しかも貴様の店は出たり消えたりすると言うではないか。俄かには信じられぬが、そのような真似が出来るのは渡のみ」


 バレテーラ。

 国の頂点だけのことはある。

 情報集めは重要だもんな。


「渡人だから俺を狙ったのか? 人質を取る卑劣な手を使ってまで」

「そうだ」


 おやまぁ、あっさりと。


「貴様らは危険だ。野放しにしては国が滅びかねぬ。かつての大帝国のように。返す返すもあの男を逃してはならなかった。そして、今度は逃がさぬ」

「くっだらねぇ。そんなどうでもいいことに二人を巻き込んだってんなら、俺はあんたを許さんぞ」


 本当にくだらない。

 昔の渡人はそんなに好戦的だったのか?

 ……昔の?

 どのくらい以前の連中かは知らないが、どの時代から来た連中なのかによっては有り得るかもな。

 例えば、戦国時代とか。

 近代でもヤバい思想のヤツらはかなりいただろうし。

 そんなのが強力な能力を持っていたとしたら?

 ……なるほど、そりゃ危険視するわな。


 んで、親父は一体なにをやらかしたんだ?

 何だよ、おぞましくて恐ろしい術具って。

 ラブドールでも作ったんじゃないだろうな。

 ありそうで怖いぞ。

 そういや俺が子供の頃は工房みたいな部屋で何かやってたような……

 なんだっけ、あれ……


「貴様は短絡的な渡にしては思慮深い、なぁ!」

「ッ!?」

『自動反撃モードオン』


 完全に不意を突かれた。

 いつの間に抜いたのか、王の剣が眼前に迫る。

 意外と武闘派なのか。

 それほどに鋭い剣筋だった。

 一体どっちが短絡的なんだ。


 それよりも、俺の腕だ。

 俺の腕が勝手に動いた。

 くそ、アドナイか。

 アドナイが鎧服を操作したんだな。

 まだまだ聞きたいことが山ほどあったんだぞ。

 何もかも台無しじゃねぇか。

 馬鹿野郎。


 王の剣は俺の頭に当たって砕け、俺の拳は王の胸を深々と穿った。



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