018 既に盛られてた
「ジョバンニさん。もしやベアトリアさんは誘拐されたんじゃ?」
「その可能性も否定できません……王城付きの公爵家侍女はベアトリアお嬢さまの『家に帰る』とのお言葉を聞いております。ここでの家とは公爵家王都別邸のことであり、その別邸には未だ戻っておらず……」
決まりだな。
ベアトリアさんを攫ったのは、シェリンを攫ったのと同じ貴族、ないしはその共謀者。
二つの事件が同時に今日起こったと言うことは、狙いがどちらも俺だからだろう。
なんでこんな回りくどいことをするかねぇ?
最初から俺を襲えばいいものを。
将を射んと欲すれば……的な、こういうセコい策謀が一番ムカつくんだよな。
いきなり将を射ろよ。ヘタクソか。
あー、ヤバい。
どんどん腹が立ってきた。
首謀者とそれに加担したヤツらは、二度とそんな気が起きないよう完全に叩き潰す。
それがどんな大貴族であろうとだ。
例え王都に居られなくなろうとだ。
「ジョバンニさん。俺に心当たりがあります。任せてもらえませんか?」
「い、いえ、それは……」
「大丈夫です。必ず連れ戻して見せますよ。ベルモンド様にもそうお伝えください」
「しかし、ベルモンド公爵様は現在王城に向かわれておりまして……」
ほう?
さてはベルモンド様も気付いてるのかな?
あの人なら有り得る。
察しがいいからな。
「とにかく、一度別邸へお戻りください。ここは王都の外れとは言え、人目もありますから。もし何か進展があればまた来てください」
「……わかりました。くれぐれもお頼み申します、ナタロウ様」
綺麗な礼をして去っていくジョバンニさん一行。
さて、後は……
「シェリン」
「はい。嫌です」
ニッコリ笑いながらキッパリ言うシェリン。
「えーと、シェリンさん? 俺まだ何も言ってないんだけど……」
「俺は王城へ行ってくるから、シェリンは留守番してくれ。ですよね?」
「ぐっ!」
「嫌です」
すっごい笑みで、すっごい読みだ。完璧。
「どうして嫌なんだ?」
「私はベアトリアさんのお友達だからです」
「まぁ、それはわかるけど……」
「そして、ナタローさんが好きだからです」
「……は?」
「えへ」
「ああ、友人としての好きってことか。びっくりしたー。ははは、脅かすなよ」
「違います。男の人としてです」
「…………あの……理由を聞いても?」
「だってナタローさんは私の毒が全然効かないんですよ!? 初めてですもん! そんなの、絶対好きになるに決まってます!」
「……」
『……』
二の句が継げない。絶句。七言絶句。違うか。
とにかく、俺とアドナイは完全に沈黙した。
一体どんな環境で育ったらこんな価値観になるんですかねぇ。
ってか俺、ちょくちょく毒を盛られてたってこと?
怖っ。
まぁでも、連れて行くわけにいかんよなぁ。
「あのさ、シェリンには大事な役目があるんだ」
「役目、ですか?」
「うん。店に誰も居なかったら、もしもベアトリアさんが来た時に困るだろ?」
「それは……そうですけど」
「だからこれを渡しておく」
手に乗せた小さな品を見せた。
「なんですかこれ」
「次元通信インカムだよ」
「じげんつうしん……?」
「詳しい説明は省くけど、これを耳に入れておけば、いつでもどこにいても俺と話せる」
「本当ですか!? 嬉しいです! 今日は記念日ですもんね!」
最後に何か聞こえた気がするけれども、スルーしておこう。
決して突っ込んではいけない。
深く考えてもいけない。
『忠告は再三いたしました』
うるさいうるさい。
「ベルモンド様やジョバンニさんから連絡があった場合も伝えて欲しい。頼んだよシェリン」
「はいっ」
いい返事過ぎて逆に不安だが、彼女は聡い。
万能屋一一七の中にいれば安全だろう。
「じゃあ行ってくるよ」
「いってらっしゃい! おいしいご飯を作って待ってますね、あ・な・た。なんちゃって! きゃ~!」
「……」
『……』
何故か戦慄すると共に、絶対毒入りだな、と思う俺なのであった。
アドナイも多分同様だろう。
そんなこんなで王城へ。
まずは様子を窺うため正面大門に向かう。
おっとぉ、早速揉め事ですかな?
ん、ありゃベルモンド公爵様だな。
大勢の松明を持った衛兵と押し問答になってる。
ははーん、きっと敵の手が回っていて城内に入れてもらえないんだな。
ってか、公爵家の私兵と王城の衛兵とで小競り合いになってるけど、大丈夫?
ベルモンド様、反逆罪で失脚したりしないだろうな?
ま、こっちの目立つ場所で騒ぎになっているのは俺にすればラッキーかな。他が手薄になるし。
アドナイ、王城のマップを表示。侵入経路を探してくれ。
『了解。城の外周は多くの兵が巡回しております』
さすが王城。
普段から厳重なんだな。
『いいえ。今宵からです』
……わっかりやすいな。
他にルートは?
『下か上がよろしいかと』
ん、どっちかね。
下は掘るのに時間がかかりそうだな。
よし、上にしよう。
アドナイ、城内をスキャン。
ベアトリアさんの位置を特定しろ。
『了解。完了。マーカーオン。公爵家令嬢は右奥の第三尖塔にいます』
そうか、やっぱりいたな。サンキュー。
ほんじゃ、行きますか。
足をたわめ、思い切りジャンプ。
軽く数十メートルは飛び上がり、上空から第三尖塔とやらを確認。
背部スラスターを少し吹かして着地点の調整。
これで自在に飛行できたら便利なのになぁ。
『噴射式飛翔型は騒音に難があります。隠密性は皆無です』
ですよね。
その時、ピピッと耳元で音がした。
シェリンからの通信か。
「私の大大だ~い好きなナタローさんへ。美味しいご飯が出来ました。今日は特別な日なので、とっておきの竜悶草を入れちゃいます! だから早く帰ってきてくださいね。ではでは、使い方がよくわからないので勝手に話しました~」
「……」
『……』
「ラブレターかっ!……そういや使い方の説明してなかったっけ」
『竜悶草とは、耐性の高いドラゴンでさえも一口で悶絶することから名付けられた超猛毒です』
「帰ったらそんなの食わされるのかよ、俺……」
ガン萎えしながら、いっそ頭から尖塔に突っ込んでやろうかと思ったりしつつも、着地体勢に入る俺なのであった。




