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017 本日二度目



『解析終了。全員が猛毒によって死亡したようです。死因は接触毒で皮膚から容易に浸透移行するイナイイナイ草によるものです。本来なら死亡まで非常に時間がかかるのですが、娘は薬魔術によって効能を高め劇症化、即死に至らしめたようです』


 ふむふむ。

 凄いなシェリン。

 微毒を劇毒にするってことかよ。

 ヘタな戦闘職より強いじゃないか。


『はい。毒を消す魔術は存在いたしますが、毒を無効化する魔術は存在いたしません』


 へぇ。

 なら俺にも効くってことか。


『いいえ。以前も申し上げた通り、ナタロウ様の肉体は高次元存在の……』


 やめろやめろ。

 あの野郎の話は聞きたくない。

 じゃあなんだ、つまり俺は平気なんだな?


『はい』


 毒を盛られても死なないなら、安心してシェリンといられるな。


『推奨いたしません』


 うるさいよ。

 俺の交友関係に干渉するな。

 ところで、この屋敷の持ち主は誰なんだ?


『情報収集ビットのデータによると、所有者はゼルシオ伯爵です』


 で、ベルモンド公爵様との関係は?


『敵対中です』


 ふーん。

 じゃあ、潰しとこう。

 そいつはここにいるのか?


『いいえ』


 あ、そ。

 だったらもう用は無いな。


「シェリン。帰るぞ」

「ナタローさんが私を助けに来てくれた。ナタローさんが私を助けに来てくれた……嬉しい……! あ、はいっ」

『この娘ごと潰しては如何ですか』


 アドナイの発言は無視してシェリンの手を取る。

 鎧服アーマーウェア越しだが、小さく柔らかだった。


 廊下へ戻るとだいぶ男たちが集まっていた。

 俺たちが無傷で現れたことにギョッとしている。


 すると何やら火の玉や氷の粒などが飛んで来た。

 これが攻撃魔術なのだろう。

 シェリンを庇いながら魔術は鎧服へ当たるに任せ、俺は周囲を見渡した。


 んーと、十二人か。


 腰のホルスターから武器を抜き、安全装置セーフティを解除して男どもに視線を向けると、胸に青いマーキングが付く。

 それを確認後、おもむろに引き金を引いた。

 途端に男たちは糸が切れた操り人形の如くバタバタと倒れていく。

 無論、後ろ側の連中も同様に。


「えっ、今、何が……この人たち、急にどうしたんです……?」

「死んだよ」

「ええっ!?」


 シェリンが驚くのも無理はない。

 元々はただの無反動レーザーガンだ。

 しかし、第四次元の技術によって大きく昇華されている。

 レーザーの焦点を相手の体内に指定でき、特定の臓器のみを焼き潰すことが可能なのだ。

 なので見た目は綺麗なまま殺せる。実にスマートだ。

 更に、視線ロックオン自動誘導機能付き。

 一度でも目視でロックさえしてしまえば、俺がどこを向いて撃とうが必ず命中する。

 とんでもない兵器だが、やっぱり弱点はあるもので、遮蔽物には極端に弱い。

 目標との間に壁一枚でもあれば、壁の中を焼くだけになってしまう。


 一階へ戻り、同じように始末する。

 索敵はアドナイ任せなので撃ち漏らしは無い。

 現在も目に見えぬほどに小さなナノマシン製の情報収集ビットが無数に飛び回り、データをアドナイに送っている。


 アドナイ、上の階はどうだ?


『無人です』


 なんだ、あっけないな。

 わざわざ店舗を持ってくる必要はなかったか。

 千人くらいいればプチメテオストアを喰らわせてやったのに。


『見せ場を奪われ、非常に残念です』


 なんだか俺も消化不良な気分だ。

 胃がムカムカする。


『それはただの食べすぎです』


 うるさいよ。

 たまにはいいだろ。


 すっかり暗くなった夜道をシェリンと歩く。

 待ち伏せなどもないことから、なんちゃら伯爵の手勢は全滅したのかもしれない。

 そもそもが盗賊や冒険者崩れの連中だろうし、怖くなって逃げた可能性もある。

 賢明だ。

 命あっての物種だぞ。


「あれ? ナタローさん。お店ちゃんの敷地の辺り……何か騒がしくないですか?」

「ん?」


 シェリンの言う通りだった。

 通りには立派な乗用馬車が二台も停まっており、塀に囲われた敷地内からは何やら複数名の声が聞こえる。


「無い、無いぞ!」

「万能屋一一七が無くなってる!」

「馬鹿な!」

「参りましたなぁ……」


「はいはい、ごめんなさいよ」

「し、失礼しまーす」


 やかましい連中の間を抜け、胸にセットされていた縮小店舗を地面に置く。


「縮小モードオフ。通常営業状態オン」

『了解。シャッターモード、商品保護、アタックモードをそれぞれ解除します』

「お、おお……」

「店が戻った……」

「何と言う凄まじき魔術なのだ……」

「で、あなたがたは……おや、ジョバンニさんじゃないですか」

「これはどうも、ナタロウ様」


 騒がしい男たちの中から見知った人物が進み出てきた。

 公爵家の執事であるジョバンニさんは、ベルモンド公爵様が全幅の信頼を寄せている人だ。

 俺と公爵家の取引においても取りまとめを行っている。

 控え目に言っても有能で、何事もこの人に任せておけば大丈夫だ。


「どうしました? 注文ですか?」

「い、いいえ、大変な事態になってしまったもので……一縷の望みを胸に馳せ参じた次第でございます……思えば、ナタロウ様との出会いは、まさしく僥倖の極みにして……」


 この人、超有能なのだが前置きが長すぎるのは玉に瑕だ。

 だが、彼のこれほど悲愴な顔は初めて見た。

 嫌でも察せざるを得ない。


「何かあったんですね」

「……はい。実は、ベアトリアお嬢さまが行方知れずに……」

「ベアトリアさんが!?」


 流石に驚きを隠せない。

 隣のシェリンも口元に両手を当て目を見開いている。


 ベアトリアさんは騎士なだけあって生真面目で律儀だ。

 その彼女が理由もなく、ましてや何も告げずにいきなり居なくなるはずはない。

 つまり……


 なんて日だ。

 同じ日に二度も人攫いが起きるなんて。



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