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016 死神



 ラクール王国国王バルバドル・ラクリオンが死んだ。


 殺ったのは俺だ。


 大それたことをしてしまったと言う自覚はあるが、後悔は微塵も無い。

 自ら望んだことだ。


 あれは王宮から二度目の注文を受け、武具一万を四日で納品と言う無茶振りを余裕綽々でクリアした次の日だった。

 言い値でいいと言うから三倍額を吹っ掛けて大いに儲かった俺は、その日は店を開けずに休日としたのだ。

 それがいけなかった。


 俺が清風亭でベロンベロンに酔っ払っている時、買い物に出ていたシェリンが攫われたのだ。



「ウィ~ッ、ヒック。飲んだ食ったぁ~」

『暴飲暴食はナタロウ様の健康を害します。お太りになられたいのですか』

「うるさいよアドナイ。昔を思い出させんな……ん? なんだこれ」


 自動ドアに挟まった紙片。

 別段不審とも思わず、何の気なしに開く。

 奥さま方からのラブレターだったらどうしよう。


 小娘は預かった。

 返して欲しくば必ず一人で来い。


 在り来たりな文句だが、俺の頭は一瞬で酔いから醒め、代わりに血が昇った。

 今までに感じたことのない怒りで身体が燃えるようだ。

 私は今、冷静さを欠こうとしています、的な。

 いや、頭がフットーしちゃうよぅ、的な?

 これでも中学の頃はキレると怖いって評判だったんだぞ。

 駄目だ、かなり混乱してるな俺。

 なんでシェリンが攫われるんだよ。

 可愛いからか?

 ありそうだけど、わざわざ置手紙を残すのはおかしい。

 つまり敵は俺に用があるってこった。

 なら話は早い。

 そっちが強引な手段に出るなら、それ相応の覚悟があると言うことだ。

 いいだろう。俺も覚悟を決めてやる。


「アドナイ。考え得る限りの店舗強化を頼む」

『よろしいのですか、ナタロウ様。更に負債が嵩みます』

「構わない。やれ」

『承知致しました。ナタロウ様、私は今、歓喜に震える心地です』

「んー、後は……」

『はい。なんなりと』

「俺用の武装を発注してくれ。剣は使いにくい。出来れば地味なヤツでな」

『お任せください』


 命じながら店舗に入るなり、ドサッとバックルームで音がした。

 武装が納品されたのだろう。


「店舗機能と武装のマニュアルを脳内にダウンロード」

『了解いたしました』


 頭に入ってくる膨大な情報量にクラクラしながらバックルームに入り、番重を確認。

 武装を開封し、装着する。


「紙片に記された場所をミニマップに表示してくれ」

『了解。マップオン。マーカーオン』


 赤い光点が視界右隅の地図上に浮かび上がる。

 ここからはだいぶ西だ。

 西と言えば貴族街にほど近いはず。

 そんなところに監禁するものだろうか。

 まぁいい。

 どちらにせよ行くのだから。

 行けばわかるさ。


 外へ出て周囲を索敵。

 見張りなどはいないようだ。

 意外と甘い。


「店舗縮小。シャッターモードオン。ステルスモードオン。商品保護オン。アタックモードオン」

『了解』


 万能屋一一七は見る間に縮小し、手の平サイズとなった。

 そのままステルスが発動。輪郭しか見えなくなる。

 胸のアタッチメントに店舗を固定。


「行くぞ、アドナイ」

『御存分に。オーナーリミッター解除』


 トンと軽く地を蹴り、お隣の倉庫の屋根へ飛ぶ。

 そのまま屋根伝いで走る。

 日も落ちてきた。

 夕焼けの逆光もあって俺に気付く者はいまい。


 しかしこの鎧服アーマーウェアは凄いな。

 足音すらしないぞ。


『はい。ナタロウ様の次元と近しい第五次元製で、やや重さに難点はありますが、耐熱、耐寒、耐電、耐衝撃に優れ、フードを被ればどのような環境下でも生存が可能です』


 いいねぇ、その未来感。


『第三次元の発達が遅いだけです』


 ほっとけ。

 政治家が無能なせいだろ。


 頭に血が昇ったままだが、楽しくてぴょんぴょんしているうちに目的地へ到着した。

 屋根から建物の前に下りる。


 ふむ。普通の家屋にしか見えんな。

 周りの家よりはかなり立派だし、屋敷と言ってもいいくらいだ。

 建物が大きいのなら、中にいる敵の人数も多いのだろう。


 知ったことか。

 両開きの扉を押し破り、内部へ侵入。

 待ってましたとばかりに剣を振り上げる男たち。

 ほほう。問答無用で斬りかかるとはな。

 殺す気満々じゃねぇか。


 パチュ。


 軽く払っただけのつもりが、剣を叩き折ったついでに男たちの頭まで粉砕してしまった。

 騒然としかけた玄関ホールが一瞬で静寂に包まれる。


 うへ、こりゃ汚い。

 家の持ち主に悪いことをしたな。

 後で清掃用品でも贈ろう。


『流石はナタロウ様。アフターケアも万全でこそ万能屋一一七です』


 うるさいよ。

 意外と血は落ちにくいんだぞ。

 地球で酔っぱらい同士が喧嘩した時も掃除が大変だったんだからな。

 それよりもシェリンだ。

 手近で硬直中の半泣きな男に尋ねる。


「おい。攫った子はどこだ」

「ち、地下だ……です」

「そうか、ありがとう。ちゃんとトイレに行けよ」


 素直だった。

 全身を鎧服に包まれた俺が悪魔にでも見えたのだろうか。

 ま、当たらずとも遠からずだ。

 お前らにとってはな。


 地下へ急ぐ。

 別に階段が隠されているわけでもなく、あっさりと見つかった。

 こいつらが間抜けなのか、首謀者が阿呆なのか。


『娘はこの部屋です』


 アドナイに従い一室に入った俺は、愕然とした。


 遅かった。遅すぎたのだ。

 怒りに任せ、高揚感に浮かれた結果がこれだった。

 せめてもう少し急いでいれば、結果は変わっていただろうに……


「シェ、シェリン……」


 シェリンは無惨にも服を引き裂かれ、野蛮な男共の慰みものになって……たりはしていなかった。

 一人佇む彼女の代わりに、床へ転がった数名の男。

 一目でわかる。

 全員が絶命していた。

 血反吐を撒き散らして。


「シェリン、無事か? これは一体……」

「えへへ。みんな死んでます」

「なんでこんなことを」

「だって私、【死神】シェリンですよ?」

「……」


 絶句してしまう。

 ギルドで出会ったヤツらが吹聴していた噂。

 噂には多少なりと真実が含まれている場合が多い。


 彼女は本当の意味で死神の二つ名を持つのだ。

 そして思い当たる節が無いでもなかった。


 殺し合いの果てに全滅したと言う、いくつものパーティー。

 シェリンが店舗に置いていた売れない薬草。

 あれは全てが毒草だった。


 そうだ。

 こいつらはシェリンにやられたのだ。


「だってこの人たち、ナタローさんを殺すなんて言うんですもん。自業自得ですよね? ね?」


 いつも通りの可憐な笑みを浮かべるシェリン。

 返り血が頬を伝うまま。


『私は以前、この娘に気を付けるべきだと御忠告いたしました』


 アドナイの声音はいつもより無機質に響いた。



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