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015 王の思惑



「……何? それはまことか」


 豪奢な一室に重々しい声が響く。

 その声の主は煌びやかな衣装を纏い、卓上の書類を睨みつけたままだ。


「ハッ! かの商人めは期日通りにたった七日で武具五千を完納いたしました」

「我々も驚いております」

「ベルモンド公爵は一体どこであのような者を……」


 跪いた貴族服の男たちの口上を聞き、ようやく興味が湧いたものか、初めてその顔を上げた。

 見事な髭を蓄えた金髪の老人。

 とは言っても、まだ六十を過ぎたばかりで見た目は非常に若々しい。

 しかし、その瞳は老獪さを湛え、全てを喰らい尽くさんとばかりにギラついていた。

 眼光に射すくめられた三人の貴族たちが口を噤んでしまう程に。


 この男こそ、ラクール王国現国王バルバドル・ラクリオン二世である。


「……続けよ」

「それだけではございません」

「かの商人に勧められた術薬液を試しに兵へ与えて見たところ」

「なんでも、疲労感がなくなり、頭も冴えるとかで、もっと寄こせと暴動になりかけております」

「武具の品質も良く、兵の間で取り合いになる始末」

「他の貴族からも入手先をしつこく尋ねられ……」

「万能屋一一七そのものが市井の女どもの絶大な支持を受けており……」

「もう良い。わかった」


 バルバドル王は呻るしかなかった。

 無茶を吹っ掛けたのは彼自身であったのだ。


 公爵家の若造がこそこそと武具を仕入れ、領地へ送っているとの情報を得た。

 それも大量に。

 しかも出店の許可を出したのが公爵本人だとくれば、国王としては看過できない。

 とは言え、公爵家は王家筋ゆえ下手に口を挟めば揉めるのは必至。

 本来、王族の本家本元は公爵家のほうなのだから更にタチが悪い。

 そして、妹狂いと言えど若く聡明で美形のベルモンド公爵の人気と評価は、国内外に於いて己よりも高い。

 だからこそ腹に据えかねる。


 つまるところ、ぶっちゃけてしまえば『何かムカつくからあいつが贔屓してる店に無茶ぶりして困らせたい』であった。そんなに可愛いレベルではないが……

 しかし、こうも見事に達成されては、ぐうの音も出ないのが本心。

 実際のところ、武具は大幅に補給されたのだ。

 感謝こそすれ、恨む道理は無い。

 無いのだが苛立ちは収まらぬ。

 むしろ募るばかりだ。

 どうにかして一泡吹かせたい。

 例えどんな手を使っても。


「……倍の数を注文せよ」

「ハッ……は?」

「倍、でございまするか」

「ば、倍とはまた……」

「四日以内に納めさせよ」

「陛下!」

「いくら何でもそれは……!」

「恐れながら、不可能かと存じまする!」

「向こうの言い値で構わぬ。出来ぬのなら首を刎ねると申し渡せ」

「し、しかし……」

「流石に……」

「およそ万能屋一一七と言えど……」

「ほう、貴公らも首が要らぬと申すか」

「め、滅相もございませぬ!」

「必ずやお伝えいたしまする」

「お任せあれ」


 泡を食って退室していく貴族たち。

 王は少しばかり昏い笑みを覗かせた。


 件の商人が失敗するのは目に見えている。

 商人の助命を懇願するべく公爵家の青二才が飛び込んでくる様も。


 思い浮かべるだけで少しばかり溜飲が下がる心地だった。

 バルバドル王は、詰まらぬように再び書類へ目を落とした。

 しかし、思考は先程の出来事へ戻っていく。


 それにしても、だ。どのような手を使えば武具数千をたった七日で揃えられると言うのか。

 数日前には、またもや青二才ベルモンドの荷馬車群が公爵領へ向かった。

 あれも武具食料の類いであろう。

 如何に太筋の仕入れ先を持っていたとしても有り得ぬことよ。

 聞けば不可思議な術薬液を以て兵を熱狂させたとも……

 『不可思議』な……?

 そうだ、全てが不可思議なのだ。

 突如として王都に現れ、瞬く間に公爵の信頼を得て店を構え、大いに女衆の支持を勝ち取る。

 人間業とはとても思えぬ。

 では、かの商人とは何だ?

 どこから来た。

 東方の出だと報告にはあった。

 容姿人相からして間違いなかろう、とも。

 だが、それも虚偽だとすれば?


「……よもや……わたりか?」


 わたり渡人わたりびととも呼ばれる存在。

 その者らはそれぞれが不可思議な業を持つと言う。


 途轍もない魔術を放つ者、虚空から物質を取り出す者、凄まじい膂力で破壊を齎した者。

 伝承を紐解けば実に多彩だ。


 実際、三十年ほど前、このラクール王国でも渡人が出現した。

 その者は黒髪に黒目を持ち、やはり東方より来たと語った。

 名は失念したが、術具製造に稀有な才覚を示した男だ。


 男が造り上げたその術具は先王に献上された。

 しかし先王は術具を使うこともせず宝物庫に固く封印したのだ。


 愚かなことだ。

 実に愚かだ。

 あの恐ろしくも蠱惑的な術具を使わぬなど……


 だが、余にとっては僥倖だった。

 男が先王と内密に語る使用法を、図らずも聴いてしまったのだから。

 余は折を見て術具を奪い、その力によって玉座も手にした。

 惜しむらくは渡の男をのがしてしまったことだが……

 あのような者を野放しにしては危険すぎる。

 いつ寝首を搔かれるか知れたものではない。

 伝承にて渡を危険視し、抹殺に及んだ連中のほうが全く正しいと断言する。

 もしも件の商人が渡ならば、その時は今度こそ余も躊躇せぬ。


 まあ、良いわ。

 それは後々に考えるとしよう。

 はてさて、万能屋一一七の店主とやら。

 どれほどの面白い命乞いをするのか、公爵家の青二才がどのような情けなき顔で助命を求めるのか。

 余を楽しませるために精々踊り狂うが良いわ。道化どもよ。

 ククク、決して聞き届けはせぬが、な。



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