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011 シスコン公爵



「なるほどなるほど。そう言う経緯で我が愛しの妹を救ってくれたんだね。ふむふむ、そうかそうか」


 ニコニコと人当たりの良い笑顔を浮かべる金髪長髪長身のイケメン。

 彼は実に優雅な動作でティーカップを傾ける。


 逆に全く落ち着けないのは俺とシェリンだ。

 いや、シェリンは完全に硬直中と言っていい。

 さっきから小声で『私はカカシ。私はカカシ』と繰り返している。


 あまりにも豪華な調度品に囲まれた一室が威圧感を与えてくるのだから無理もあるまい。

 それにこのイケメンのせいでもあった。

 彼は何と、ベアトリアさんの兄であり、現公爵のベルモンド・ラクーリアさんだと言う。

 つまり、ここは公爵家の王都別邸なのだ。


 冒険者ギルドに突然現れた彼は、半ば強引に俺とシェリンを馬車に乗せ、向かった先がこの大豪邸。

 通されたこの部屋に座る間もなく、ベアトリアさんとのこれまでを語れと迫られ、今ようやく話終わったと言うのが現状である。


 無論だが、俺が別の次元からやって来たことや、渡人ワタリビト関連については口をつぐんだ。

 と言うか、何故かこの公爵様はその辺りのことに全く触れず、訊いてくるのはベアトリアさんのことばかりだった。

 ちなみに魔物の大群を倒した件は、魔物の小群と言い換えてある。


 余談だが、尋ねられた時のために、俺の出自をベアトリアさんやシェリンと決めておいた。

 俺は遥か東方から来た大商家の跡継ぎで、王都に店を出したい。

 太い伝手もあるので武具の大量仕入れも可能だと。

 やや設定的に雑だが、あまり細かく定めてしまうとアドリブが効かなくなる。

 多分、訊かれることはあるまいがな、とベアトリアさんは言ってたけど、なんでだ?


 しっかし驚いたねぇ。

 貴族なのは知っていたけど、ベアトリアさんが公爵家の令嬢とは……

 シェリンなんて泡吹きそうになってたし。

 ってか、ちょっと吹いてた。


「実に良くやってくれた。きみが身を挺して魔物から妹を庇ってくれたと言うのは感謝しかないよ。私の見立てでは傷ひとつなかった。若いのに何とも紳士的だね、きみは」

「お褒めいただき光栄です」

「もしも傷もの……ゴホン。傷など付けていたら即刻処刑するところだったよ、フフフ。いや、勿論冗談だがね」

「……」


 うん、目が笑ってない。

 間違いなくこの公爵様、重度のシスコンだ。

 それもかなりヤバいレベルの。

 ヘタこけないぞ、これ。


「よもやとは思うが、きみはベアトリアを口説いたりしてはいないだろうね?」

「滅相もありません」

「そうかね? ベアトリアはきみを絶賛していたが」

「僭越ながら友人の栄誉を賜りました。その友人をわざわざ悪く言いはしないでしょう。ベアトリアさまはお優しい御方ですので」

「……きみの言う通りだね。そしてベアトリアの言う通りでもあった」

「? と、申しますと?」

「我が妹は私に似て酷く優しい。そのベアトリアはこう言っていたよ。『ナタローの人となりは、私が保証する』とね」

「そうでしたか……恐縮です」

「どうやらきみは誠実な人物のようだ。そして謙虚さも持ち合わせている。合格だよ」


 はて?

 俺は何に合格したのだろう。


「アオ・ナタローよ。ベルモンド・ラクーリア公爵の権限に於いて、この王都ラクルーカでの出店を許可する。これが証書だよ」


 おおっ。

 流石は『例の件は任せてくれ』と豪語したベアトリアさんだ。

 お兄さんをうまく丸め込んでくれたらしい。

 なるほど、公爵家の公認で店を出せるなら、その威光で細かい出自なんかを訊かれるようなこともないってことか。

 やるじゃん、ベア子さん。はい不敬!

 そのベアトリアさんは王城に行っててこの場にいないけど、感謝の念力を送っておこう。

 さぁ、格好良く公爵様に謝辞を述べるぜ。


「そしてもうひとつ。我が愛しの妹ベアトリアの友人であることも許可する。そちらのお嬢さん共々ね」

「きょ、恐悦至極」


 完全に虚を突かれて、どもっちゃったじゃんよ。

 シェリンもハッと我に返って『ありがたき幸せにごじゃりまする~』とか言っちゃってるし。

 ベアトリアさんのお兄さんだからってのもあるけど、高位の貴族相手は気疲れが半端ないな。


「さて、ナタローよ。妹の懇願ゆえ深く尋ねはしないが、店舗や仕入れの当てはあるのかね」

「はい。そちらは問題ありません。ですが……」

「何でも言ってみたまえ。充分な便宜を図れとベアトリアからきつく言われている。私も妹の恩人には出来る限りのことをしよう」

「ありがとうございます。では、土地をお貸しいただけませんか?」

「ふむ、いいだろう。場所は目抜き通りの一等地でよいかな?」

「いえいえいえ! 人通りは少なくても構いませんので、何も無い土地をお願いします」

「む? おかしなことを言うね、きみは。だが良かろう。王都の外れになってしまうが、公爵家の所有地がある。好きに使うといいさ」

「ありがとうございます」


 オッケー。

 店舗が置ける土地、ゲットだぜ。

 しかしこの公爵様。もしかしてベアトリアさんに頭が上がらないのか?

 きつく言われたら何でも従っちゃうのかよ……


「して、売り物は何かな?」

「主に武具を」

「……ほう?」


 おおっと。

 公爵様の目付きが鋭くなったぞ。

 ヘタこいたかな。 


「ベアトリアにでも聞いたのかね? ならば知っての通り、このラクール王国では慢性的な武具の不足が深刻化している。理由としてはラクール国王の対外政策が上手く行っていないからだ。関税に圧力をかけすぎたせいで、小国家群と紛争中なのだよ。しかし双方が本気でない以上、損耗するのは兵よりも武具と言うわけだ。一方、近年では魔物による侵攻が多発している。これは全力で当たらねばやられるのはこちらだ。しかも理由が未だ不明。西の帝国による魔物使役者説や、北の魔術連合国による新型術具説などがある。ただ、両国とも宣戦布告すらないと言うのが不可解なのだがね。だからこれはあくまでも推論に過ぎない。他にも色々と要因はあるが、割愛させてもらおう。これ以上は不敬と取られかねないのでね」


 ふむふむ。

 多方面から攻められて大変そうですなぁ。

 最後の言葉は、やや不穏ではあるが。

 でも、事情はどうあれ、やはり武具の卸は稼げそうだ。

 いやぁ、発注出来て良かったよ。

 店舗様様だね。

 ……負債の原因を作ったのは俺だけど。

 いや、正確にはアドナイか。


『いいえ。ナタロウ様をお守りするための必要経費です』


 物は言いようですねぇ!?


「ところでだがナタローくん。侵攻とは王都のみを狙うにあらず、まずは周辺から。と言うのはわかるだろう?」

「(くん!?)はい」

「ここからが本題だよ。つまりは我が公爵領も御多分に漏れず……察しのいいきみなら、もう理解できたのではないかな?」


 そうか。

 くん付けまでして急に猫なで声のベルモンド公爵様は、こう言いたいわけだ。

 ねぇねぇ、王都でお店やってもいいからさぁ、うちの領地にも武具を卸してくれよ~ん(ハート)ってな。

 うむ、ベルモンド様はそんなこと言わない。

 とにかく、便宜を図ってもらって恩義もあるし、怒らせたら怖いタイプなので逆らわんとこう。

 逆にこっちから恩を売っとけば、後でいい目を見れそうだ。


「承知しました」

「フフフ、流石だね」


 無駄にキラキラを周囲に撒き散らしながら、今度こそ本物の笑顔で右手を差し出すベルモンド公爵様。

 俺のイメージする貴族は平民にこんなことをしないんだけど、本当に気さくな御兄妹ですなぁ。

 ま、商談成立ってことで、固い握手を交わしときますか。



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