百年先も一目惚れ
「またこのフィルムかよ。アンタ、どんだけ流し続けるつもりだよ」
色褪せた巻き取りフィルムを片手に映写室へ入ると、既に先客がミニシアターのスクリーンを見つめていた。
背筋をピンと伸ばし、姿勢良く後ろに手を組み、上映の時を待っている。もう若くはないだろうに現役同様にここへ来る男を、拓海は「変わり者」と評価していた。
「オーナーに無理を言っているのは承知です。でももうこのシアターでしか、彼女の素晴らしい演技を目に焼き付ける場所はないのです」
拓海の手からフィルムを受け取り、男はアームを起こして映写機にセットした。素早く手慣れた手つきだが、繊細に表面を傷つけないよう細心の注意を払っている。
「今までボロボロになるまで稼いだ金をつぎ込んで、ボロシアター貸切って上映するほど大切なのかよ」
「ワタクシにとってこれが最大の歓びであり、褒美なのです」
同じような事を寂しそうに語ってくれたオーナーの横顔を拓海は思い出した。唯一の宝で、生きがい。拓海には全く理解できなかった。
「……出会った時のこと、覚えてンの」
「勿論! 私がこの映画と出会ったのは完成披露試写会でした。そこには彼女も舞台挨拶に来ていて──演技もさることながら、本人の持つ美しさにも魅了されてしまいまして」
黒く感情の読めない眼差しが、うっとりとフォーカスを動かした。昔の記憶を巻き戻し、再生しているようにも見えた。
「一目惚れと言っても過言ではありません。その時から彼女を映すためだけに生きようと決めたのです」
私もだいぶ年季が入ってきましたがね。頭部の映写機を男が一撫でした。
「オーナーが言ってたけど、百年以上も動いてンだろ。もうガタがきてもおかしくないだろ」
「せめてあと少し。せめて彼女の生誕百年まではフィルムを回し続けていたいですね」
視線は始まった映画の、ヒロインに向けられている。拓海は溜息を吐いて男に近づいた。
「仕方ねぇ。定期的にメンテナンスしてやるよ」