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800文字ショートショート

百年先も一目惚れ

作者: 一色 良薬

「またこのフィルムかよ。アンタ、どんだけ流し続けるつもりだよ」

 色褪せた巻き取りフィルムを片手に映写室へ入ると、既に先客がミニシアターのスクリーンを見つめていた。

 背筋をピンと伸ばし、姿勢良く後ろに手を組み、上映の時を待っている。もう若くはないだろうに現役同様にここへ来る男を、拓海は「変わり者」と評価していた。

「オーナーに無理を言っているのは承知です。でももうこのシアターでしか、彼女の素晴らしい演技を目に焼き付ける場所はないのです」

 拓海の手からフィルムを受け取り、男はアームを起こして映写機にセットした。素早く手慣れた手つきだが、繊細に表面を傷つけないよう細心の注意を払っている。

「今までボロボロになるまで稼いだ金をつぎ込んで、ボロシアター貸切って上映するほど大切なのかよ」

「ワタクシにとってこれが最大の歓びであり、褒美なのです」

 同じような事を寂しそうに語ってくれたオーナーの横顔を拓海は思い出した。唯一の宝で、生きがい。拓海には全く理解できなかった。

「……出会った時のこと、覚えてンの」

「勿論! 私がこの映画と出会ったのは完成披露試写会でした。そこには彼女も舞台挨拶に来ていて──演技もさることながら、本人の持つ美しさにも魅了されてしまいまして」

 黒く感情の読めない眼差しが、うっとりとフォーカスを動かした。昔の記憶を巻き戻し、再生しているようにも見えた。

「一目惚れと言っても過言ではありません。その時から彼女を映すためだけに生きようと決めたのです」

 私もだいぶ年季が入ってきましたがね。頭部の映写機を男が一撫でした。

「オーナーが言ってたけど、百年以上も動いてンだろ。もうガタがきてもおかしくないだろ」

「せめてあと少し。せめて彼女の生誕百年まではフィルムを回し続けていたいですね」

 視線は始まった映画の、ヒロインに向けられている。拓海は溜息を吐いて男に近づいた。

「仕方ねぇ。定期的にメンテナンスしてやるよ」

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