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聖王メルテアへの軌跡  作者: 遠野月
晩餐会
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晩餐会

晩餐会が開かれる中央会場には、三つの回廊がある。

ひとつは、正面出入口に繋がる回廊。多くの貴族はこちらから入場する。

もうひとつは、控室に繋がる回廊。休憩をする者や、使用人の出入りに用いられる。


最後のひとつは、ストロゼアウル家と三大貴族が用いる回廊だ。

メルテアたちはその回廊を通って、会場へ向かっていた。



「お待ちしておりました、王女殿下」



国主エルダが、会場の前で待っていた。岩のような顔を緩ませ、恭しく礼をする。

エルダの後ろにはグムヴァレと、ラズフロスカル家のテンドラとゼムが控えていた。



「だいぶ緊張しています。お力添え願います」


「とてもそうは見えませんが、御意のままに」



エルダが深く頭を下げる。

後ろにいたテンドラが太った腹を揺らし、同様に頭を下げた。



「ネロブロムシア家がすでに入場し、会場を整えております」


「それは心強いですね」


「殿下はなにも心配せず、お寛ぎください。御意に添わぬものはすべて整えなおしますゆえ」



テンドラが胸を張って言う。傍にいたゼムもまた、父に倣って胸を張った。

正礼装をしているからか。ゼムの印象は以前に比べて好ましかった。

元々顔立ちが良い分、清々しさがある。比較するのは失礼であるが、太っているテンドラの子とは思えない。


それからメルテアは、エルダに導かれるがまま会場の扉前まで歩いた。

扉前には、ひとりの若い男が立っていた。

「彼がネロブロムシアの当主です」と、テンドラが教えてくれる。



「お初にお目にかかります、王女殿下」



ネロブロムシアの当主が恭しく礼をした。

メルテアは返礼し、男の顔を窺う。

というのも、当主の男の顔には大きな傷があった。

眉間から右頬にかけて刀傷らしき古傷。表情を動かすたびに傷が歪み、ほんの少し恐ろしい。



「オウラと申します」


「メルテアです。オウラ様、これより宜しくお願いいたします」


「誠心誠意尽くします、殿下。会場はすでに整えており、皆が殿下をお待ちしております」



オウラの両目が、メルテアに向く。

オウラの瞳は、どこか冷たかった。

メルテアを見ているようで、どこか別の場所を見ているようでもある。

その目にメルテアは少し気圧された。しかし表情に出ないように努め、微笑みを保った。



「ありがとう存じます、オウラ様」


「過分なお言葉痛み入ります」



互いに礼を交わし、扉の前へ進む。

先にオウラが扉に手をかけ、四度叩いた。

すると扉の先にいた使用人がゆっくりと扉を開く。

晩餐会会場の灯りが、揺れながら溢れでた。

合わせて甘い香りも流れでてきて、メルテアの鼻をくすぐった。



「メルテア=レニ=ストロゼアウル王女殿下の御着きに!」



扉の先で控えていた高官らしき男の声が、高らかに鳴った。

直後、ややざわついていた大広間の空気が一変。

しんと静まりかえる。

すべての目がメルテアに向かった。

まるで無数の釘でつつかれているようだと、メルテアは心の内で苦笑いした。


大広間は三段に分かれていた。

メルテアと三大貴族は最上段に。

残りの二段は貴族の階級によって分けられているらしい。

メルテアから見れば、すべての人が華やかで格差など感じられなかった。



「殿下の御座はこちらにて」



高官らしき男が、最上段の中央を手のひらで示す。

促されるがままに目を向けると、そこには仰々しい玉座が置かれていた。

どう考えても王様が座る場所である。

女王になるつもりはないのだがと、メルテアはエルダに視線を向けた。

しかしエルダは微笑むのみ。「どうぞ」と小声をこぼして、メルテアの背を押した。



――騙された気分だわ。



メルテアは心の内で項垂れる。

玉座に座れば、いずれ女王になることを示すようなものだ。「御意のままに」とは言いつつ、ここにいる貴族たちはメルテアが断れない状況を作ってくる。

そして、ここまで来てメルテアも引き返すわけにはいかない。


ゆっくりと進み、玉座に座る。

直後に、静まっていた大広間全体がわずかにざわめいた。


どうしたのだろうと一瞬思ったが、すぐに理解する。

目端に揺れているメルテアの白い髪が光っていたからだ。

玉座の周囲に設置されていた灯りにより、輝きが増したらしい。きっと計画的なものだろう。


メルテアが座ってすぐ、国主としてエルダが挨拶をはじめた。

挨拶は格式ばったもので、メルテアにとって退屈以外のなにものでもなかった。

しかし初めてメルテアの姿を見た者からすれば違うのだろう。

特に最下段から注がれる視線は、メルテアの全身を深く刺した。

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