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聖王メルテアへの軌跡  作者: 遠野月
晩餐会
20/28

本物

「お疲れさまでございました、殿下」



戴冠式を終えて、自室。

倒れるように椅子へ腰を下ろしたメルテアに、シェトレが声をかけた。



「……もう限界」


「晩餐会まで時間があります。少しお休みください」


「……明日まで寝てしまいたいです」


「そうは参りません。マッサージをいたしますから、それでなんとか」


「分かりましたあ……」



がくりと項垂れる。

すでに戴冠式用のドレスは脱いでいたので、シェトレがすぐにマッサージをはじめてくれた。

メルテアはその心地よさにすぐさま落ちる。

固い椅子でないことをこれほど感謝したことはないと思いながら。




眠りに落ちた先。

メルテアは誰かに声をかけられた。


夢の中であるためか。言葉が分からない。

声をかけた者が男であるか、女であるかすら分からなかった。


メルテアは声をかけた者になにかを答え、頷いた。




瞼の裏に、白い光が揺れている。

自分の髪の光だと気付いたのは、しばらく経ってからであった。



「起きたか」



ラアトの声。

マッサージを終えたらしいシェトレの隣で、ラアトが腕を組んでいた。



「……晩餐会は、もう終わっていたり……?」


「するわけなかろう」


「ですよね……」



メルテアはがくりと項垂れる。行かずに済めばいいのにと、何度も願ったのだが。

戴冠式とは違い、晩餐会ではなにひとつ喋らなくていいというわけにはいかない。

ラアトとシェトレも近くにはいるが、そうそう助け舟を出せはしない。

出来るかぎり、メルテアの力だけで乗り切らなければならないのだ。



「それほど構えずとも、今の君に気安い言葉をかけられる者など、まずおらぬ」


「……どうしてです?」


「容姿だけは人の美しさを超越している。容姿だけはな」


「……言い方ぁ」


「国主とグムヴァレも傍にいるであろう。安心して良い」



そう言ったラアトの手が、メルテアの頭の上に乗った。

分厚い手が、白い髪を優しく撫でていく。


しばらくの間、メルテアはラアトの手の下で甘えていた。

歳相応に扱われる安心感が、今は非常に心地良い。

しかしふと見上げたとき、メルテアは心の内で首を傾げた。

ラアトの目に、寂しさを混ぜたような色が垣間見えたからだ。



――どうしたのだろう?



メルテアは尋ねようと思ったが、叶わなかった。

「晩餐会のための支度をお願いします」と、部屋の外にいた者が伝えに来たために。


メルテアは再びドレスで着飾った。

支度を手伝ってくれた侍女は、シェトレ以外に二人。

どちらもメルテア専属の新しい侍女である。


ひとりは、ユーファという名であった。

シェトレより背が高く、やや無表情。しかし忠義に厚いということで推薦された。

もうひとりは、リリナという少女。

メルテアよりも幼く、年齢は十四だという。



「ユーファとリリナも一緒に来てくれるの?」


「私たちは外で控えております。ご用があればすぐに参りますので」


「そう……残念だわ」


「あとで晩餐会のお話を聞かせてください、殿下!」


「そうね、リリナ。お話ができるよう、気をしっかり持っておくわ」



活発なリリナの頭を撫で、メルテアは気を引き締める。

これまで徹底的に仕込まれた、食事の作法。

もはやこの日のために学んだといっても過言ではなくなった。

もちろん明日以降も王女としての生活はつづくが、今日以上の緊張感はきっとないだろう。


支度を整え、シェトレら侍女とともに部屋を出る。

ラアトが外で待っていた。

メルテアよりも控えめの格好であるのに、やはりラアトのほうが王族らしく見える。

立場が逆であればどれほど良かっただろうと、これからも定期的に思わされるに違いない。



「やはり容姿だけは良いな」


「それはもう。本物には敵いませんが」



メルテアは苦笑いする。

ラアトの正体を知らないシェトレたちは首を傾げ、「殿下は間違いなく本物です」と口を揃えて言った。

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