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聖王メルテアへの軌跡  作者: 遠野月
戴冠式
19/28

聖なるかな

「どうしたの、シェトレ?」


「……殿下、……殿下の髪が……」


「髪?」



メルテアは首を傾げ、自らの髪に手を触れる。

その手に、光を生んでいるような白い髪が揺れた。

ほんの少し前まで真っ黒であったはずの、メルテアの髪だ。

メルテアはさらに首を傾げ、白い髪を掴んでみた。

すると頭皮にしっかりと引っ張られたような感覚が走った。


間違いない。

この白髪は、メルテアの髪だ。


メルテアは白銀のティアラを受けた直後、一瞬のうちに白髪となった。

しかし老人のような白髪ではない。

星月の光を宿しているかのような、美しい白である。


奇跡のような一瞬を目撃した貴族たちは、叫ばずにいられなかった。

「聖なる祝福を与える」という言葉とともに、輝く髪を受けたのだから。



「聖なるかな! ストロゼアの聖なる王女!!」



誰かが叫ぶと、倣うようにして五人が叫んだ。

それから二十人が叫び、やがて全員が声を揃えて称えた。

もはや誰ひとり、メルテアを値踏みしようなどと思ってはいない。


予想外に起こった称賛の嵐の中。

メルテアは必死に、動揺しないよう努めた。

きっと今は、澄ました顔で称賛を浴びておいたほうがいい。

ラアトなら間違いなくそう言うだろう。

メルテアはラアトの太々しい顔を思い出して、どうにか慌てふためく姿を晒さずに済んだ。



「神殿長」



目の前で呆然としている神殿長に声をかける。

間を置いて、神殿長がはっと我に返った。

声をかけたメルテアをしばらくじっと眺め、長い深呼吸を一度だけする。



「つづけます、王女殿下」


「はい」



メルテアは静かに応え、立ち上がる。

すると騒いでいた貴族たちがぴたりと静まり返った。

戴冠式の最中であることを思い出したのか。

それとも聖なる王女の礼を目に焼き付けたいからか。


メルテアは翻る。

百の貴族たちを見据え、最初の礼。


礼をした直後、メルテアの白い髪がふわりと揺れた。

揺れるたびに光がこぼれでて、数人が感嘆の息を吐いた。


つづけて六度礼をする。

礼をするたびに式場の空気が熱を帯びた。

皆、声をあげない代わりに興奮を高めている。

この様子だと、戴冠式が終わればメルテアの噂は風よりも速く広がるだろう。


七度の礼を終えると、神殿長がメルテアの傍へ寄った。

奥にある扉へ、ゆっくりと誘導してくれる。メルテアは神殿長のすぐ後ろに付いて歩いた。



(ラアトは外で待っているかな)



歩きながら、ラアトの姿を思い浮かべる。

真っ白な髪になってしまったから、驚くだろうか。

それとも似合わないと一蹴するだろうか。


奥の扉へ辿り着くと、神殿長自ら扉を開いた。

扉の先から光が飛び込んでくる。

メルテアの白髪に光が浸み込み、さらに強い輝きを放った。

それは常識を超えた神々しさであった。

メルテアの後ろに付いていたシェトレだけでなく、式場内に残っている多くの貴族の感嘆がメルテアの背に届いた。



扉の先は、バルコニーとなっていた。

眼下に群衆が見える。


メルテアは群衆を見下ろしながら、ついついラアトの姿を捜した。

しかしあまりの人の多さに、ラアトだけを捜すことは出来なかった。

もちろん、見つけたところで声をかけられるわけでもないし、手を振ることも出来ないのだが。


メルテアは神殿長に促されるがまま、一度目の礼をした。

すると眼下の群衆が歓声を上げた。

初めてメルテアの姿を見た者もいるのだろう。

メルテアの白い髪を見て驚いている者もいれば、首を傾げている者もいた。


二度目の礼をすると、かすかに風が流れた。

メルテアの白い髪が風と光を受け、煌めいて揺れた。


三度目の礼をしたときは、群衆の歓喜が賛美へと変わっていた。

新たな王女を見ることができた喜びより、類まれなる存在を崇めたいと見える。

幾人かがその場で膝をつくと、その周囲の者も倣って膝をつき、ついにはすべての群衆がメルテアに向かって跪いた。



(……ど、どうしよう)



三度目の礼を終えたメルテアは、引き際が分からなくなった。

とはいえ誰かに相談することも出来ない。

下手に動けば、これまでの都合よい流れが水の泡だ。

仕方なしと、メルテアはしばらくそのまま笑顔を維持して群衆に顔を晒しつづけた。


神殿長が助け舟を出したのは、だいぶ時が経ってからであった。

メルテアの斜め後ろに立ち、祈りの言葉を歌いはじめる。

それは事前に決められていたことではなかったが、メルテアを退場させる機会を作るには十分の演出であった。

第三章はこれで終わりとなります。


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