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聖王メルテアへの軌跡  作者: 遠野月
戴冠式
15/28

厳なる下で


ストロゼアウルは、成人した子にも戴冠式を執り行う。

王だけでなく、ストロゼアウルそのものを聖別しているためだ。


メルテアに対しても戴冠式を行う必要があった。

そうしなければ王女として公には出来ず、ストロゼアウルの聖なる血を受け継いだと認められないのである。

ハイマーラントとラズフロスカルの両家は、メルテアの戴冠式のために幾十もの会合を重ねた。

わずかな障害も残さず、より多くの者がメルテアを祝福するために。


しかしメルテアがその会合に参加したのは、四度だけであった。

細かな摺合せに、わざわざメルテアが顔を出さなくてもいいという。



「……本当に、私は何もしなくていいのね」



ラズフロスカル家と初めて会った日から三十日。

冬の寒さが和らいできても、メルテアは暖炉の傍から離れられないでいた。

とにかく寒いのだ。

部屋にいるだけで何もやることがない。身体を動かすこともない。

些細なことでもいいからなにか仕事があればいいのだが。



「女王になる決心が出来たなら、何かをすることになるだろう」



相変わらず数多くの書物を読み漁っているラアトが、笑うように言った。



「国主様がいるではないですか。私なんて必要ないです」


「国主はあくまで代理であろう」


「ハイマーラント家が王になればいいのでは」


「それは難しいだろう。ストロゼアは、ストロゼアウルの血を聖なるものとすることで権威を保っている」


「別の家が王位に就いたら、不敬ということですか?」


「少なくともパスズ神教が、他の家を聖別することはないであろうな」



ラアトが呆れたような声で言う。

元王様としては、融通の利かない国の姿がもどかしく見えるのかもしれない。

もしくは、ペルフェトラスを滅ぼしたストロゼアに苛立ちを覚えているのか。



「少なくとも今は、王女殿下がいらっしゃいます。ハイマーラントが王になることはあり得ません」



傍に控えていたシェトレが口を挟んだ。

メルテアを無碍にするような話がつづくことを嫌ったのだろう。

表情に若干、苛立ちの色が見え隠れしている。


とはいえメルテアは、王位に就くつもりなどなかった。

現状上手く政が回っているならば、メルテアが女王になる必要などない。



(むしろラアトが王になるべきじゃない?)



メルテアは秘かにそう思っていた。

メルテアが見るかぎり、ラアトの姿は邪王とは程遠い。

熱心に学び、自らに不足しているところを補おうとしている。

こういう人こそ、王様というものだ。


呪いが解けたのなら、なおのこと。

メルテアではなく、ラアトこそが封じられていた祝福を受けるべきではないか。



「王女殿下ほど、王に相応しい方はいません」



悩むメルテアに、シェトレが告げた。

シェトレの声は柔らかい。短い付き合いながらも親身になる声をメルテアに添わせてくれる。

シェトレの言葉を聞くと、メルテアは本心を吐きだせなかった。

姉のような彼女を悲しませたくはない。



「でも私、すごく貧乏で、学もないし、そもそもストロゼアの国民ですらなかったのよ」


「それらはすべて解消されました。王城に住み、品も学も磨いておられます。ストロゼアに入られてすぐ、この国の貴人となる手続きも済んでおります」


「……シェトレは私に甘いから」


「お優しい殿下が何を仰いますか。先日も怪我をして泣き喚いていた子供を自ら介抱なさったではないですか」



にこりと笑うシェトレが、部屋の扉に目を向ける。

そういえばと、メルテアは立ち上がった。

そろそろその子供が訪ねてくる頃と思い出したからである。

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