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聖王メルテアへの軌跡  作者: 遠野月
温石なる
10/28

学び鍛えて

翌朝。メルテアはシェトレに起こされた。

外はまだ薄暗い。

起きるには早すぎると思ったが、シェトレが首を横に振った。



「朝は鍛錬の時間です」



騎士は身体を鍛え、学士は精神を鍛える。

そう言ったシェトレが、いくつかの書物を持ってきた。

手に取り、数頁めくる。

ほとんど読むことは出来なかった。

いくつかの文字は分かるが、文章としては理解できない。



「まずは読み書きからです。メルテア様」


「……教えてくれるの?」


「もちろんです。朝と夜はそうした時間といたしましょう」


「ありがとう、シェトレ!」



メルテアは跳ねあがり、シェトレの手を取った。

貧しい生活の中では、勉強をする時間などほとんどなかったからだ。


ひとつひとつの文字を丁寧に教えてくれるシェトレ。

その姿はなんだか母に似てるなと、メルテアは思った。

母もメルテアが幼いころにいろいろと教えてくれた。

今も生きていれば、こうやって教えてくれただろうか。



「覚えが早いですね」


「母が少し教えてくれていたの。思い出しただけよ」



メルテアは小さく笑う。

その笑顔を見て、シェトレの表情がわずかに曇った。

どうやらメルテアの事情をある程度知っているらしい。



「今は優しいお姉さんが傍にいるから平気よ」


「それは私のことですか?」


「そう」


「畏れ多いことでございます。そう仰られてしまうと、これからあまり厳しく出来ませんね」


「それは良かったわ。もう少し甘えていたかったから」



メルテアはそう言って、シェトレの手にとんと触れた。

シェトレの顔。少しずつ晴れていく。

やはり母に似ているなとメルテアは思った。



文字を習った後の食事は、部屋で済ませることとなった。

数日の間、誰とも会わずに食事をしたほうがいいのだという。

そのことをシェトレが申し訳なさそうに言ってきたが、メルテアは気にしなかった。

むしろ都合がいいと喜んだ。食事の作法も知らないからである。


部屋で食事をする時も、シェトレに作法を教わることにした。

ラアトも同席してくれたので、メルテアは二人がかりで作法を叩きこまれた。



「しかし、綺麗になったものよ」



食事を終えた後、ラアトが感心したとばかりに唸った。

作法はともかく、ドレスを着たうえで食事をしていたので、見た目だけは一応良い。



「洗髪もしたので」


「そのようだ。メルテアは十五歳であったな。幼さの艶と、大人の艶が混ざっておる」


「褒めてます?」


「褒めておる。その艶を、これから有効に使うとしよう。良いな、シェトレ殿」


「ええ。そのように」



シェトレが楽しそうに頷く。

それからしばらくして、メルテアは品よく着飾り、部屋の外へ出た。


気分転換にもならない程度の時間であるが、それでもいい。

メルテアは外の空気を思いきり吸いこんだ。

しかしシェトレがメルテアに声をかけてくるまでの時間は、メルテアの想定よりはるかに短かった。

早々に数人の目に留まったので部屋へ戻るべきだという。

メルテアは心の内で少し落ち込んだが、表情には出さないように努めた。



「こんなことでいいの?」



部屋に戻るや、メルテアはシェトレに疑問をぶつける。

なんの意味もなさそうに思えたからだ。



「明日、明後日とつづけていけば、必ず大きな価値を生みます」


「シェトレもそう思うなら、いいけど」



もう少し外に居たかったという気持ちを抑え、メルテアは息を吐く。

察してくれたのか、シェトレが小さく笑った。

すぐさまメルテアのドレスを脱がせ、楽に着れる服を勧めてくる。

メルテアは喜んで着替え、暖炉の前で寛ぐのだった。

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