表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

謎のメモ書き(写し)


真化融合エクストラフュージョン……?」


 僕とジャレス、ローリエさんは口を揃える。


 通常、魔物使い(テイマー)が初期に覚えるスキルは

感覚共有(コネクト)や、特定の系統の魔物(モンスター)

スキルを使用させる攻撃指令(アサルトコマンド)○○

○○には系統名が入るので、

魔物使い(テイマー)としてのこの先の方針が決まる。


 ──ハズだった。


真化融合エクストラフュージョンなんて聞いたことも無いです……勉強不足でスミマセン。ちょっと詳しい先輩を呼んできますね」


 ローリエさんは、脱退手続きを途中で止め

スキルに詳しい先輩を呼んでくれるという。


「お手数をおかけします……」


 僕は頭を下げる。


 ローリエさんを待っている間、誰ひとり口を開かず

それなりに賑わっているギルド内にもかかわらず

僕らのまわりだけ、音が消えてしまったかのようだった。


 カツ、カツ、カツ……


 リズム良く硬質な音を響かせながら

歩いてくる人物は、カウンター越しに

僕らの目の前まできて止まる。


 その人物が現れたことにより、ギルド内にどよめきがはしる。


 そして、その人物を追いかけて来たのであろう

ローリエさんが大慌てで、必死の弁明をしているのが見える。


「オマエが真化融合エクストラフュージョンの発現者か。ふぅん、なるほどな……」


 その人物は、顎にたくわえた長い髭を指で撫でながら

僕の事を、矯めつ眇めつ見る。


「副ギルドマスター! ホントに、態々の来ていただくほどの事では──っ!」


「ほう? 真化融合エクストラフュージョンはワシが出る幕ではないと、オマエは言うのかね?」


 副ギルドマスターと呼ばれた老人は

ローリエさんに向き直り、鋭い視線を向ける。

 ローリエさんはすっかり怯えてしまっていて


「いえ、そういう訳では……あの……」


 要領を得ない返事をするのが精一杯だった。


 この老人は、このギルドで二番目に権力を持つ

副ギルドマスターのバウエル=アウグストース

この国で最高峰と言われる魔物使い(テイマー)だ。

 そんな人が僕のスキルを見てくれるなら

とても光栄な事だけど

バウエルさんは、その……なんというか

とんでもなく気難しい人でも、その名をとどろかせていた。


「ふん、無知な小娘は黙っておれ! して、小僧! そのスキルは使用してみたのか?」


 急に向き直り、手にした杖を僕に向け

質問を飛ばして来る。


「あっ、あの! このスキルは──」

「遅いっ! 必要な事だけ喋れば良い!」


「ま、まだ使っていませんっ!」


 僕はちょっと涙目になりながら答える。

 他のメンバーはといえば

自分に飛び火しないよう、細心の注意を払っているのが

気配で伝わってくる。


「では、ここで使って見せろ。融合(フュージョン)系統は周囲に被害が及ぶような事は無い。さっさとしろ」


 僕は真化融合エクストラフュージョン

発動させようと、集中を始める──が、

手を杖で打ち据えられて中断してしまう。


「オマエは、本当に魔物使い(テイマー)か? 融合と言うのに、テイムモンスターも出さぬとは、愚かな事この上ない!」


 もう逆らうと余計ややこしくなるのは

火を見るより明らかなので、慌てて契約の小匣(エンゲージキューブ)から、スライムとスケルトン(家族たち)を呼び出す。


 突然呼び出された2体は不思議そうに

僕の顔を見る。


 バウエルさんは、眉間にシワを寄せて

「フン、ずいぶんとくたびれたモンスターだな」

……等と言っている。


「二人とも、行くよ! 真化融合エクストラフュージョン!」


 ………………………………


 それはもう、本当にシーン。という表現が

ピッタリなほど、何も起こらなかった。


 僕はもう、申し訳ないやら情けないやらで

おそるおそるバウエルさんの顔を窺うと

バウエルさんは難しそうな表情で腕を組み

何かをブツブツと呟いている。


「フン、やはりな。──おい小娘! 資料庫27番棚F-4の本の113ページの内容の複写魔術紙(コピーグリモア)を、その小僧に渡してやれ!」


「は、はひぃっ!」


 ローリエさんは、体を硬くして返事をすると

慌てて、資料庫へと向かう。

 そしてバウエルさんは、僕には一瞥もせずに

来たとき同様、杖で一定のリズムを刻みながら

帰って行く。


 バウエルさんの姿が見えなくなり

しばらく経ってから、ギルド内にいる人々は

大きく息を吐く。


 もちろん僕らも例外では無く。




 しばらくして、ローリエさんが戻り

僕に一枚の紙を手渡してくれる。


「おそらく、マイトさんのスキルに関しての内容だと思うのですが……」


 モンスターの絵と図形、そして数字……それとほんの少しだけ文字が

書かれていて、何かの説明をしているんだろうな

という雰囲気しか伝わらない

謎のメモ書き(写し)を手に入れることになる。


「さっぱり分からない……」

「私もです……」


 僕は諦めて本題に入る。


「ローリエさん、脱退手続きの続きをおねがいします」


 僕の言葉を受けて、ローリエさんはシュンとした表情で頷く。


「はい……あとはこちらの作業なので、しばらくお待ちください」


 新スキル、メンバー達の今後

そして自身とテイムモンスターの先行きを

漠然と考えながら、整理のつかない気持ちで

ローリエさんの作業を眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ