プロローグ
口の中に広がる鉄の味と
頬に伝う、小石や土の感触
逆の頬は、異様に熱く
匂いは……よく分からない。
多分、鼻血が出ているな。
「君のせいで、パーティーは全滅するところだったんだぞ!」
僕を殴りつけた青年は
ハァハァと肩で息をしていて
ひと目で満身創痍だと分かる。
彼は名は『ジャレス』、僕の所属する
パーティーのリーダーだ。
「ケホッケホッ! ご、ごめん……」
僕はすぐさま、ジャレスに謝る。
今のパーティーの惨状は自分の責任
という自覚があったから。
僕の名前は『マイト』 16歳
Fランクの魔物使い。
冒険者の中では底辺にあたるFランク
更には不遇職と言われる魔物使いという二重苦を抱える冒険者だ。
それもあって、約1年間冒険者を続けていながら
まともにパーティーを組んだ事が無かった。
そんな中、2ヶ月前に僕を拾ってくれたのが
現在のパーティー『セイクリッドティア』だ。
Dランクの剣士ジャレスをリーダーとして
Eランクの狩人『リド』
Eランクの僧侶『マーシャ』
Eランクの魔法使い『アリサ』
そして、Fランクの魔物使いの僕。
駆け出しの『セイクリッドティア』はクエスト中に
想定外な魔物に遭遇し
逃げる事も叶わず、死闘の末に勝利した。
パーティーを見渡せば後衛の
マーシャやアリサさえもボロボロだ。
全部僕のせいだ……。
「すまない、マイト。さすがにやり過ぎた……」
そう言ってジャレスは、僕に手を差し伸べ
起き上がらせてくれる。
「僕の方こそ……みんな、ごめんッ!!」
涙が溢れそうになるのを必死堪え
みんなの顔を見ながら頭を下げる。
みんなは、事情を知っているからか
責めるに責められず、気まずそうに俯く。
そうなるのはジャレスも分かっていたのだろう
リーダーとして僕に言葉をかけてくれる。
「君にとって、その彼らが特別だということは理解しているつもりだ! でも、あの状況では! あの状況だからこそ、仲間を優先して欲しかった!」
そう、僕の契約しているモンスター
スライムの『リム』とスケルトンの『カルトン』は
亡くなった両親から受け継いだモンスターだ。
家族というものが、この2体しか残されて居ない僕は
自分のテイムモンスターかわいさに
瀕死の2体を契約の小匣に帰還させた。
契約の小匣に帰還させた
テイムモンスターは再度、召喚するには
クールタイムがあるにも関わらず、だ。
通常テイマーの役割は、敵が格下ならば
簡易使役というスキルを使用し
相手モンスター同士を戦わせたり、自傷ダメージを
発生させ、その戦力を減らす。
相手が強敵ならば、あらかじめ契約というスキルで
契約したモンスターを、契約の小匣から召喚し
手塩にかけて育てたテイムモンスターと共に戦う。
とは言え、簡易使役が有効なのは
魔物使いの戦闘力以下のモンスターという制限があり
魔物使いにとって強敵と言うことは
テイムモンスターにとっても強敵であり
テイムモンスターと共に、ヘイトを分散させたり
最悪の場合、彼らを盾に皆が逃げる隙を作ったりという
運用が関の山だ。
さらに言えば魔物使い自体の戦闘力補正が
他の戦闘職に比べ控えめであり、ある程度連携のとれるパーティーならば
簡易使役に頼るまでも無く処理できる。
その上、強敵に挑む際は簡易使役も効かず
契約したテイムモンスターを使い捨てにする覚悟で挑む他なく、その都度
テイムモンスターを手に入れて、世話をして……と
手間も時間も、そしてお金もかかり過ぎる
雑魚狩り専門職。
いわゆる外れ職業というのが
世間一般の共通認識であった。
「本当に、ごめん……」
初めてパーティーを組み
そして幸か不幸か、初めて命の危機とも
呼べる瞬間に
覚悟出来ているつもりでいた自分ですら
驚きを隠せない程に素早く
反射的にとも言える程のスピードで
テイムモンスター達の帰還の為に動いていた。
だからこそ、言い逃れが出来ない。
自身のテイムモンスターを犠牲にすれば
無事に皆が逃げ切れた可能性が高かった事も、肌で感じて分かった。
「マイト、君の家族を想う気持ちがどれ程の物か改めて知った。だがそれだけにパーティーとしてやって行けないと、僕は感じた」
「!」
ジャレスの判断はもっともだ。
でも頭では分かっていても、僕の身体は
一気に力が抜けたように、膝から崩れ落ちた。
「安心してくれ、ここで置き去りにするわけじゃない。街へ戻り、ギルドで正式に脱退手続きを踏んで貰うつもりだ。直ぐに食べるのに困らないように、少しだけならお金も渡そう」
まさに至れり尽くせりとも言える条件だ
しかし、この条件に乗る訳にはいかない。
こんな状況下ですら
僕の身を案じてくれる
『セイクリッドティア』の面々に、これ以上
迷惑をかける訳にはいかない。
「ありがとう、ジャレス。脱退手続きは必ず提出すると約束するよ。だけど、お金は受け取れない。駆け出しの『セイクリッドティア』だって、色々と必要なはずだから」
「そうか……すまない」
ジャレスは申し訳なさそうに謝る。
そして、クエストの達成と
想定外の魔物の発生を報告するために
パーティーは街へと帰っていく。
その間、誰一人として口を開くことは無かった。
街へと着いた僕らは
『冒険者ギルド』へ足を運ぶ。
「皆さんっ! ご無事でしたかっ!?」
ギルドの若い女性職員の1人が駆け寄ってくる。
彼女の名は『ローリエ』冒険者ギルドの窓口業務を主に
こなしている。
彼女自身も駆け出しの身なので
『セイクリッドティア』に親近感を感じてか
何かと気にかけてくれる。
「皆さんがクエストに行かれた方面で想定外の魔物が発生したという噂が──」
ジャレスは大きく息をすい、短く息を吐く。
「まさにその報告をしにやって来たんだ」
「!?」
ローリエさんはジャレスの言葉を聞き
『セイクリッドティア』の様相を見て
察したのか、あわてて自身の窓口へと
案内してくれる。
「分かりました! どうぞ!」
僕達はクエストの達成報告、想定外の魔物討伐の報告をする。
「スゴいです! ルーキーなのに想定外の魔物討伐なんて! これは、将来有望ですね!」
そんな言葉に、メンバーは力なく笑い
ジャレスと僕は、すぐに沈痛な面持ちを浮かべる。
ローリエさんはその様子を不思議に思い
尋ねてくる。
「どうかしましたか?」
その言葉を受けジャレスは口を開こうとするが
僕が片手で制止して、首を振る。
「僕が言うよ。ローリエさん、セイクリッドティアからの脱退を申請したいんですが」
僕の言葉でメンバー達は暗い表情になり
ジャレスも下を向く。
ローリエさんは手を口にあてて驚く。
「ええっ! せっかく実績として認められそうな功績なのに!」
パーティーにもランクがある。
実績とはパーティーとしての
格付けの判断材料とされるもので
ダンジョンの攻略や、大規模討伐依頼への寄与、想定外の魔物の討伐等の国やギルドへの貢献が認められた場合、実績として記録される。
僕は小さく首を降ってローリエさんに伝える。
「みんなの様子を見れば分かると思うけど、奇跡的に勝てただけで、本来は逃げるべき相手だったんだ。それを僕のせいで戦うことになってしまった。僕は、その責任を取りたい」
ローリエさんは困ったように眉を下げ
あらためて僕に確認する。
「本当に良いんですか? ギルド職員の規定として、あまり私情には口を挟まない事にはなってますが……」
「はい、ここに来るまでに覚悟は決まりました」
僕があえて力強くうなづいてみせると
ローリエさんもしぶしぶといった
感じではあるものの、必要書類を用意してくれた。
「これが……書類になります。これらに記入の後、冒険者カードをこの魔道具にかざして、最後に署名をお願いします」
「分かりました」
僕は言われたとおりに書類の記入を進めていき
最後に魔道具に冒険者カードをかざす。
名前 マイト・フルール 16歳 Fランク
職業 魔物使い
使役魔 スライム(リム)
スケルトン(カルトン)
スキル 契約
簡易使役
真化融合 New
7月6日ならば、なろうと読めるのではないか?と
私が思う、『なろう』らしい作品を書いてみました。
連載設定ですが、続くかは未定です。