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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛の不具合

作者: 超音波8号

 妻が子供を連れて出ていった。机の上には妻の名前が書かれた離婚届が置いてあった。

 私はなぜ妻が出ていったのか、その理由がわからなかった。私なりに彼女を、妻として愛していたと思っていたのに。彼女が私の愛を理解できなかったのは、私が愛を理解していないからだと考えて、私はロボットを買った。


『愛UIⅠ』


 それがこのロボットの名称だった。『愛がわからないアナタにおすすめ』という電気屋の店員の言葉につられて購入した。

 説明書を読む。


『このロボットはあなたの携帯端末と連動することができます。

 本当の恋人と連絡のやり取りができるように設定しております。

 うなじ部分にあるQRコードを読み取り、ロボットの名前を決めましょう

 起動ボタンは、のどの部分です。

 起動したら、名前を読んであげましょう』


 私は、ロボットを段ボール箱から出して、自分の携帯と連動させた。QRコードを読み取ると、やけにピンクとハートマークが目に痛いホームページが出てきた。『名前を決めてね♡』とロボットがデフォルメされたキャラクターが言っている。

 名前は、妻の名前でいいだろうか。私は妻以外の女を知らない。妻一筋だったのだ。

 妻の名前を記入すると、私はロボットを起動しようとした。のどの部分にあるボタンを押すには、人差し指を押し込めばいい。

 それなのに、私はロボットの首を両手で掴み、親指でボタンをグッと押した。

 首を絞めるように。


 ロボットが起動した。いや、彼女は起きた。


『はじめまして、わたしはアイ。あなたの恋人です。あなたのことはなんて呼べばいいかしら?』


 首を絞められて目覚めた彼女は、滑らかな電気音声で私に話しかけた。


「はじめまして、私のことは名前で、いやそのまま『あなた』と呼んでもらいたい」

『わかりました、あなた。これからよろしくね!』


 ロボットの彼女は、明るくてよく笑い(高性能ロボットだから表情も豊かなのだ)、掃除洗濯はもちろんだが、ロボットでありながら料理もお手の物だった(もちろん実際の食事は無理だったが)。

 妻は、そんなことはなかった。優柔不断な性格で私がいないと何もできない。家事も苦手で、その中でも料理が一番できなかった。私はそれをけなしたことはなかったが、こうしたほうがいいと助言はしていた。彼女に自信をつけてもらうために。


 そんな違和感と共に、ロボットの彼女と生活し始めて一年が経った。


『わたしたちが出会って一年ね。ねえあなた、おいわいをしましょう。わたし、美味しい料理を作って待っているから今日は早く帰ってきてね』

「わかった。なるべく頑張る」


 その頃、私は仕事が忙しかった。早く帰ろうと努力したが、私が帰宅できたのは、夜の十二時を一時間過ぎてからだった。

 慌てて家に入ると、玄関でロボットの彼女が倒れていた。部屋はきれいに飾り付けられていたが、料理は冷めていた。

 彼女はいくら充電しても再起動しても起きてくれなかった。

 早く帰らなかったから怒っているのか。私は言われないとわからない。君はいつも何も言わない、意見を言わないじゃないか。

 妻も記念日を大事にする人だった。私も記念日には祝おうという気持ちはある。しかし、仕事の都合で間に合わないことも多々あった。妻は文句ひとつ言わなかったが、目や雰囲気が不満を表していた。


 私は、直らないロボットの彼女を、彼女を購入した電気屋にもっていった。事情を説明して、どうにか直してもらうように頼んだ。

 しかし、店員は首を横に振った。


「アイの不具合は直らないのか?」

「この愛UIⅠ(あいゆいいつ)は愛を受信しないと動き続けられないんですよね。

 残念ですが、愛の不具合は治りません」


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