表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せを願って(改正版)  作者: 宮原叶映
9/25

報告

 いつもは、さなと叶翔と一緒に来ている遼の墓参りを今回は、みやと一緒に行くことになった。

 みやの言っていた今度の日曜日は、ちょうど遼の月命日だった。あの時も遼の墓参りに行くことは、頭にはあったけど。


『今度の月命日は、私と叶翔だけで行くから』


 と、さなに言われていた。なぜだろうと、思っていたが、さなも俺達がこうなるのを分かっていたのかもしれない。それで、気をきかせた。

 さなと時間をずらすため、俺とみやはお昼ご飯を食べてから墓参りに行くことにした。


「いつもなら、喫茶店でお昼はすましてたけど。たまには、ファミレスもいいな」


「そうだね。うちも、ファミレスはたまには良いね」


「美味しかったな」


「そうだね。また行こう! 」


「あぁ、そうだな」


「うん!」


「店を出るか」


「うん」


「俺が払うから。みや、その財布をしまえ」


「そんなの悪いよ」


「おごらせてくれ!格好つかせてくれよ……」


「はい、はい分かりましたよ! 」


 店を出て車を走らせた。


 遼の墓まで、ここから数十分かかる。俺達は、いつものように近状を話した。

 そして、遼の眠る墓があるお寺に着いた。俺は、車のロック解除せずにみやに話しかけた。


「みや」


「どうしたの? 」


「俺も、遼から……」


「うん」


「手紙をもらったんだ」


「うん」


「読んで、見てくれないか? 」


「えっ?いいの? 」


「あぁ。みやは、手紙を見せてくれた。俺だけ、見せないのは、不公平だと思うから」


「分かった」


 俺の鞄に入れてある遼からの手紙を取り出してみやに渡した。みやはそっと封筒を受け取り、折り畳まれている手紙を丁寧に広げた。

 



 うちは、楠木君が書いた手紙を読んでいいると、だんだん涙が溢れてきた。隼がそっとハンカチを渡してくれた。

 改めて、楠木君には、うちが隼に対する想いは、全てお見通しだと痛感した。


 楠木君からの手紙は、心友に対する熱い想いを感じる。この楠木君の手紙によって、うちは、隼のところに導かれたのかもしれない。隼を支えるために。

 

 死んだ人よりも、これからも生きていくことになる遺されたものが辛いのだ。


 それを分かっている楠木君は、物語や手紙を遺した。その辛さや悲しみを和らげるために、残された命をかけて書いたのだ。心からの願いだと思う。


 いつも、自分のために行動してくれる心友は、いざ、遺されたら前に進めないかもしれない。今を見れないかもしない。

 そして、少し突き放すような書き方をしている箇所がいくつもある。その言葉の裏には、心友の背中をそっと押すという意味が隠されているのだろう。


 この手紙をきっかけに前に今を生きて欲しい。

 けっして、自分のためでなく隼自身のために生きて欲しい。そういう、心からの願いを託しているのだと感じた。

 

 しばらくの間、車内でうちの泣き声が響きわたった。

 



 みやの泣き声も聞こえなくなって、シーンと車内は、静まり返った。

 その沈黙を、俺が破った。


「みや、ごめん」


「何が? 」


「手紙を見せて。こんなに泣くと思わなくて」


「謝らなくていいの。隼、さっき言ってたじゃない。不公平だからって。それは、つまり隠し事をしたくないってことでしょ? 」


「あぁ」


「お互いに、隠し事なしの状態で一緒に楠木君に会おう」


「あぁ」


 そして、車を降りた。

遼の墓は、すでに掃除をされていて綺麗だった。さなと叶翔がしたのだろう。


「遼。来たぞ! 」


「楠木君。来たよ! 」


 俺たちは、心の中で遼に語りかけた。


「遼、手紙読んだぞ。遼は、俺のことを過保護だと言うが、遼も俺達に対して過保護だと思うぞ。遼の言う通り俺は、お前が死んでから立ち直れなかった。さな達に、迷惑をかけたくないと、思った。その行動が、さなを傷付けているとも知らずに。さなに、言われて気づいた。俺がしていることは、間違っている。それに、お前の手紙に励まされたよ。お前の思いを知ることができて良かった。そして、遼には、俺達のことが何でもお見通しだったんだな。今思えば、遼の思惑にすっかりはまってしまっていたのだな……。そのおかげで、みやと再会することが出来た」


 みやは、俺達と再会したときのように、遼のお墓に心の中で語りかけた。


「楠木君、久しぶり。覚えてる?三年前にも会った、灰崎みやこだよ。うちね。楠木君に、会いたかったんだ。会ってね、ゆっくり話したかったんだ。三年前は、ゆっくり話せなかったから。あのときに、無理でも喫茶店に行けば良かったね。今、言っても遅いよね。楠木君が、いないから、隼やさなえちゃんに話を聞くね。今のうちがいるのは、楠木君のおかげで、スクールカウンセラーになれたの。ありがとう。それに、再会したときに話したり、手紙を読んだりして思ったんだけど。楠木君、うち達のことお見通しだったから、びっくりしたよ。でも、これも楠木君のおかげだよ。ありがとう。これからも、隼のことを支えていくね。約束だよ。楠木君に、うち達を見守って欲しいな」


俺は、声を出して語りかけた。


「遼。だから、俺達は報告をしに来た。俺は、みやと付き合っている。遼が俺達を再会させてくれたんだな。ありがとう。少しずつでも、みやとなら一緒に時を進めようと思う。こんな俺達だけど、応援してくれるか? 」

 

 俺達の言葉に応えるかのように、風が優しく吹いて、お墓に供えた花がゆれた。

読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ