偽りの俺で
今日も、灰崎と喫茶店で会って話をした。そして、今は車で送っていた。
「成瀬君。今度の日曜日って、何か用事ある? 」
「別に、用事はないぞ。どうした? 」
「連れって行って欲しいところが、あるんだけど」
「どこだ? 」
「楠木君のお墓参りをしたいんだ」
「えっ? 」
「最近、夢に楠木君が出てくるの。あの約束を守って欲しって……」
「ハァ?!?そ…その約束っていうのは、あのとき言ってたのと違うのか? 」
「ううん。ここで、車を止めて」
そう灰崎に、言われた場所は灰崎と再会した日に、マジックアワーを見た場所だった。
灰崎は、俺の方を向いて真剣な顔をしていた。
「うちね。成瀬隼咲君のことが、ずっと好きなんだ!成瀬君が、楠木君に過保護なところも、自分のことよりもさなえちゃんのことを気遣っている不器用なところも全部好きなの! 」
「えっ?いつから、俺のことを? 」
「好きだって自覚をしたのは中学校の時。成瀬君が、楠木君のために頑張っている姿を見て、カッコいいって思った。前に、うちがスクールカウンセラーになった原点の話をしたでしょ。楠木へのいじめで高校に行かなかったのがずっと気になってた。うちのせいなんだ。ずっと、自分を責めた。楠木君は、久しぶりに再会したときに言ってくれたんだ」
『灰崎さんは、悪くないよ。俺が、止めたんだ。そのおかげっていったら、変だけど。そのおかげで、今の俺がいるんだ。さなえちゃんに出会えたんだ。家族が、出来たんだ』
「楠木君は、そう言った。強い人って、思った。強い人って、本当は、心が弱いの。成瀬君やさなえちゃんは、そういうところを支えていたんじゃない?だから、うちは、成瀬君を支えたいんだ」
俺は、色々な感情が、浮かんだ。灰崎に、告白されたことへの驚き。そして、灰崎が、俺に思いを伝えてくれたことへの喜び。喜びじゃない。もっと別の言葉があるはずだ。
「そう、想うようになってから、成瀬君のことが好きになった。うちは、成瀬君に恋をしたんだ」
そうだ。これは、恋なんだ。遼のいう通りだ。俺は、いつも周りをみていない。
でも、こんな俺でもみてくれる人は、いるんだ。灰崎は、俺にこんなにも真っ直ぐに思いを伝えてくれた。
だけど、俺にとっては、初めての経験。学生時代は、告白してくる女子は何人もいた。
でも、俺のことをここまで理解してくれる人は、今までいなかった。全員見た目だけで俺のことを好きになっただけだった。
だから、初めての経験だ。どう言ったら、良いのか分からない。
「うちね。二年前に再会したときに、楠木君に言われたの」
『自分の気持ちに、素直になる。たとえ結果が、悪くても必ずその先に、良いことがある。これは、経験談だよ』
「うちも、そう思いたい。うちは、成瀬隼咲君と付き合いたいんだ! 」
「ズルいじゃないか…。そんなことを言われたら断れないじゃないか! 」
「えっ?それって……」
「こんな、偽りの俺でも良いのか?時が止まった俺で……」
「成瀬隼咲が、いいんだよ!うちは、成瀬隼咲が、好きなんだ!時が、止まったなんて関係ない。時が、止まったら、また動かせばいいんだよ。どんな困難にも、一緒に乗り越えよう。時を進めるために」
「あぁ。俺も、灰崎のことが好きだ。灰崎みやことなら、一緒に時を進めると思う。こんな、俺だげど。よろしくお願いします! 」
「うん!こちらこそ、よろしくお願いします! 」
俺たちは、満点の星空が見える車中で付き合うことになった。
俺は、車を走らせていた。
「また、遅くなってしまったな」
「いいよ」
「灰崎……」
「どうしたの?」
「みやって、呼んでもいいか? 」
「うん!!うれしいい。なんだか恋人みたいだね」
「みたいじゃなくて、恋人だろ」
「そうだね! 」
「あぁ! 」
「成瀬君のこの隼って呼んでもいい? 」
「あぁ!いいぞ! 」
「やった! 」
「みや」
「隼、どうしたの? 」
「ふと、思ったんだが。遼には、俺達のことバレバレだったんだな」
「そうだね。色々とバレてたね」
「遼は、こうなることが分かっていたのかも知れないな」
「そうかもしれないね」
「みやが、さっき言ってた。遼の言葉は、みやだけじゃなく、俺にも言ってると思うぞ」
「えっ?そうなの?」
「あぁ。遼は、自分が死んだときに俺が立ち直れないって、思ってただろ。そして、みやと再会した。遼は、前からみやが俺のことを好きなのを知っていた。みやなら、俺に必ず伝えるって思ったから。自分が言えない、代わりに、俺に素直になるように言わせたんだ」
「なるほど……」
「みや、聞きたいんだが」
「何に?」
「俺に遼の墓に連れてって欲しいって言ったのは、俺がいい返事をするのを確信していたからか?」
「さぁ、どうでしょ? 」
「みや! 」
そうこうしているうちに、みやの家に着いてしまった……。
「あっ!家に着いた!じゃあね! 」
「おい!みや!まだ話は、終わってないぞ! 」
「秘密! 」
そう言って、みやは、車から降りた。その表情は、秘密をしていることを楽しんでいるようだった。
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