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幸せを願って(改正版)  作者: 宮原叶映
7/25

原点

 灰崎とは、あの日を境に何度か会うようになった。

 

 彼女とは連絡先を交換して、いつ喫茶店に行くかと予定を合わせている。何せ、お互い仕事をしている。そして、職業的にも忙しい。

 

 灰崎は、スクールカウンセラーをしている。俺達は、会う度に学生時代の思い出話に花を咲かせたあるときは仕事の話をする。同級生が会って話すだけのそんな仲でいた。

 

 そして、一ヶ月たった。今日もそうだった。


「灰崎は、どうしてスクールカウンセラーになったんだ? 」


「えっ?急にどうして? 」


「気になったんだ」


「そうなんだ」


「あぁ」


「うちね。スクールカウンセラーになったきっかけは、楠木君なんだ」


「はい? 」


 灰崎は、どう言おうか、少しの間考えて、話始めた。


「うちね。心理学もだけど、元々勉強も好きなんだ。テストは、時々だけど一位になったこともあったよ。うちが一位じゃないときは成瀬君が一位だった。成瀬君が一位なのは納得した。頭が良いのは知ってたから」

 

 灰崎は、水を飲んだ。

 

「でも、一回だけ三位だったことがあったの。じゃあ、二位は誰だろうって思ってた。調べたら三位は楠木君だった。体が弱くて、よく入退院を繰り返すのに、授業ついていくことは出来ないのにって。その順位を取れるのがすごいと思ってた」

 

 確かに、遼は頭が良かった。誰もが遼の順位に驚いていた。俺もすごいと思った。

 

「うちの考えは間違っていたって気がついたの。入退院を繰り返して学校にいけないぶん努力してた。なぜ、それを知ったかというと。うちね。委員会がある日に限って体調をくずしたことがあったんだ。放課後も保健室で寝てて、親の迎えを待ってた。そうしたら、カーテンの向こうで声が聞こえた」

 

 灰崎は、水を飲んだ。そして、静かに語りだした。



 

「楠木君。そのノートは、何度見ても、すごいと思う。この間のテストで二位とるのも分かるわ」


「先生、やっぱりそうですか……。俺が、授業を受けれない時があるからって、このノートを隼咲が書いてくたんですけど、もう参考書ですよ」


「そうね」


『これを見てやれ。テストで、高得点狙えるぞ』


「って、言って渡してくれるんです。テストで、二位取れたのは、隼咲のおかげです」


「なるほど。それでも、すごい。確かに、成瀬君のお陰かもしれないけど。それを見て、成瀬君が頑張ったからだよ。二位、おめでとう」


「ありがとうございます。先生、すみません。教室に別のノートを忘れたので行ってきます」


「どうぞ。行ってらっしゃい」


 成瀬君が、ガラガラっと保健室から出ていった。それから、先生に呼ばれた。


「灰崎さん、起きてる? 」


「はい。起きてます」


「具合いは、どう? 」


「さっきよりは、マシになりました」


「良かった。じゃあ、熱を計ろうか」


「はい」


 そう言って、先生はカーテンをシャーと開けた。



「灰崎さん。さっき話してたノートが気になってるでしょ? 」


「はい」


「こっちに、おいで。楠木君が、忘れ物を取りに行ってる間に見においで」


「いいんですか? 」


「先生と灰崎さんの秘密にしたら大丈夫」


「分かりました」


「先生、これ参考書ですか? 」


「そう見えるでしょ。成瀬君お手製の楠木君用の授業ノート。楠木君は、これを見て勉強してるの」


「すごいです」


 そう言ったところで、プルプルっと、電話が鳴った。


「はい。保健室です。分かりました。すぐに、そちらに行きます」


 そう言って、先生は、受話器を置いた。


「灰崎さん、お迎えが来たみたい。行きましょ」


「はい」


 先生と一緒に保健室を出た。事務室前まで先生と歩いていた。

 そこまで、話をしたところで、灰崎は、辛そうな顔した。


 廊下の向こうから走ってくる楠木君がいた。そして、すれ違った。その時の楠木君を、一瞬しか見てないけど。目に涙を浮かべていた。

 うちは、何かあったんだって、思った。苦しそうな顔をしていたから。

 最近は、学校に来れていたのに、明日から来ないかもしれないって、思った。

 でも、楠木君は一度も休まずに学校に来ていた。楠木君の表情は、どこか辛そうに見えた。

 

 成瀬君と再会したときに、話をしたことなんだけど。ノート作りは、成瀬君の手伝いをしたいってのも本当なの。


 もうひとつの理由がある。それは、他のみんなに、分からないように、悩みを聞いてあげたかった。


 楠木君との交流をもちたかった。楠木君なら、成瀬君に、知られたくないと思った。成瀬君にバレないように、考えながら相談に乗りたかった。

 そのノートに、メッセージを書きたかった。ひとりじゃないよって、伝えたかった。

 うちは、楠木君の意思を尊重したかった。



 そんなある日。


 廊下で、楠木君は、すれ違いざまに、うち以外の人に聞こえないように「大丈夫」と言った。

 うちは、楠木君に「大丈夫」と言われても、ノート作りを手伝ってメッセージを送り続けた。

 

 それから、楠木君は志望していた高校を受験するのをやめて、自営業してる喫茶店で働くと進路を変更した。


 それを知って、助けれなかったと思った。楠木君は、成瀬君に心配をか来ないように無理をしている。

 自分自身を責めてしまったって、本当は高校に行きたいのにやめたんだ。色々なことを考えてた。

 

 灰崎は、懐かしむ表情をした。

 それは、卒業式の前日だった。家に帰ろうと思って下駄箱から靴を取ろうとしたら、一枚の紙が入っているのに、気が付いた。それは、楠木君からの手紙だった。


『灰崎さんへ

 灰崎さんからのメッセージに、救われることがあったよ。灰崎さんが、俺のことを思って隼咲に言わなかったんだよね。ありがとう。

 たとえ、それが隼咲のためであっても良かった。誰にも、言えなかったことを灰崎さんは、知ってくれてたから。ひとりじゃないって思えた。

 俺は、高校に進学しないことには後悔はないと言えば、嘘になるけど。隼咲から離れて、頑張って生きたいって思ったんだ。

 確かに、今の状態は、恐い。高校では、違うかもしれない。やっぱり、同級生がたくさんいるところは、恐い。

 それに、俺は、体が弱いから、弱いを理由にしてはいけないけど。迷惑をかけたくないんだ。そんな、俺にたくさんのメッセージを贈ってくれて、ありがとう。

 灰崎さん、誰かのためでも良い。人のために、行動することは、良いことだよ。それは、救いになるから。

 これからも、誰かのためでも良い、俺を助けたように誰かを助けて欲しい。

 俺も、誰かを助ける人になりたいと思ったんだ。

                 

                     楠木』


「今のうちがあるのは、楠木君のお陰なんだ。この手紙が原点なんだ。自分のしてきたことは、良かったんだ。こんなうちでも、人を救えたんだ。これからも、人のために何かをしたいって思ったんだ」

 

 そう言って、灰崎の話は、終えた。


 灰崎の話を聞いて感じた。遼もそうだか、灰崎も俺のことを思ってくれてたんだ。

 遼の手紙に書いている、俺のためって、どういうことだろう?心友の俺に迷惑をかからないようにしてくれたのか。

 そして、俺は、色々な感情が、浮かんだ。

 遼が、高校に行かなかったのは、自分だけじゃないという安心感。だけど、自分も悪いと思う怒り。葛藤。


 何かその言葉にもっと深い意味がある気がする。

読んでいただきありがとうございます!

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