我慢しないで
今、俺は灰崎を車で彼女の家に送っていた。灰崎は、助手席に座っている。それは、なぜかというと数刻前に遡る。
「じゃあ、うちはそろそろ帰るね」
「灰崎、もう暗くなっているじゃないか。俺が、車で送っていっていくぞ」
「いいよ。家は、そんなに遠くないよ。成瀬君は、さなえちゃんと話すこととかあるんじゃないの? 」
「大丈夫だ。急ぎの話もないし、いつでも来れる。灰崎は、女の子だ。暗くなったら危ないだろ!遠慮しなくてもいい」
「それじゃ、お言葉に甘えて送ってもらおうかな。さなえちゃん、またね! 」
「みやこさん、今日はありがとうございます。またのご来店をお待ちしてます! 」
そんなわけで、現在に、至る。
「成瀬君、今日はありがとう。車で、送ってくれるの助かるよ」
「灰崎、こちらありがとう。良かったよ。それに、送るのは当然のことだ」
「ひとつ、聞いてみてもいい? 」
「なんだ? 」
「さっき、さなえちゃんが言っていた物語って? 」
「あぁ。それはな」
俺は、物語について簡単に説明した。
「なるほどね。楠木君らしいね」
「そうだな」
少しの間、車内に沈黙が流れた。それを、破ったのは、灰崎だった。
「成瀬君、間違ってたらごめんね。さっき、うちとさなえちゃんが話してたときにね。泣きそうになってたでしょ? 」
図星だった。
「さなえちゃんに、気を使ったんでしょ? 」
「そうだ」
「気を使わなくていいの。場合によっては、相手に失礼だよ。そういうときは、一緒に泣くの。我慢しないでいいんだよ」
俺は、車を端によけた。そこからは、マジックアワーの景色が広がっていた。
「成瀬君、うちは、景色を見てるからね」
涙が溢れてきた。さなの前では、泣かないと決めていた。俺は、我慢していたぶん泣いた。
俺が、泣き終わったのが、もうすっかり夜になっていた。
灰崎の家の前に着いた。
「灰崎、遅くなってすまなかった」
「大丈夫だよ!ゆっくり、景色を見れたから。マジックアワー綺麗だったよ! 」
「それは、良かった! 」
「また、喫茶店に行くね」
「ありがとう」
「それじゃあね」
「あぁ」
灰崎が玄関の扉を開けたとき、俺は、車から降りた。
「灰崎! 」
「えっ? 」
「今日は、ありがとう!灰崎のおかげで、気持ちが楽になった!助かった! 」
「いえいえ!こちらこそ、お役にたてれて良かったよ! 」
灰崎は、とても笑顔だった。そして灰崎は手を振ってから、パタンと玄関の扉を閉じた。
俺は、それから家に帰った。
「ただいま」
「おかえりなさい。隼咲、遅かったわね」
「あぁ、色々あって」
「そうなのね」
「おかえり、隼咲。そのわりには、スッキリした顔をしてるじゃないのか? 」
「そうか? 」
「良いことあったの? 」
「そうだな。懐かしい人に会ったんだ」
お母さんとお父さんは、なぜか、嬉しそうな顔をしていた。
ある日のこと。
さなが、久しぶりに叶翔を連れて実家で晩御飯を食べていた。
「隼咲最近になって、笑顔が自然になったわね」
「隼兄、みやこさんと再会してからだよ」
「ゲホッ、ゴホッ」
「隼咲、大丈夫か? 」
「ゲホッ、ゴホッ……あぁ、大丈夫だ。びっくりして、むせただけだ」
「しゅんにい、おみず、どうぞ」
「叶翔、ありがとう」
「えへへ! 」
叶翔は、俺のことを『しゅんにい』という。それは、さなの真
似をしているからだ。
「さなが、いきなり灰崎の話をするから」
「隼兄、ごめんね。まさか、むせると思わなかった」
「別に、いい」
「その女性は、誰なんだい? 」
「灰崎みやこ。俺と小学校から高校まで一緒で、同級生で同じクラスだった人だ」
「それでね。最近、みやこさんが喫茶店に来るようになったの」
「懐かしい人って、その灰崎さんだったのか」
「なるほどね。その灰崎みやこさんって、いう人のおかげなのね」
「えっ?隼兄。遼さんの真似をしたの? 」
「真似をしたつもりはない。変に勘ぐられるのが嫌だったんだ」
「本当かな」
「本当だ」
「ほんとう? 」
「本当だよ」
叶翔は、意味を絶対分かってない。
「怪しいわね」
「もう、お母さんまで言うなよ! 」
「ハハハハ」
「お父さん、笑うな! 」
「すまない……」
我が家の晩御飯は、久しぶりに、にぎやかだった。
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