再会
俺は、さなから渡された手紙を何度も読み返していた。
遼は俺のことを理解して、心配してくれる心友。お前は、俺のことを何でもお見通しなんだ。
またそんな人に、出会えたらいいと思う。
さなえから手紙を渡されて数日たったある日のこと。俺は、昔ながらの喫茶店に行った。
「さな、来たぞ」
「隼兄、いらっしゃいませ! 」
さなと話していた一人の女性は、カウンター席に座り俺の名を聞くやいなや振り返った。そしてなぜか、驚いた顔をしたと思ったらすぐに嬉しい顔になった。
「あっ!久しぶり、成瀬君。うちのことを覚えてる? 」
俺は、じっとその女性を見た。黒く肩より少しの髪の長さをしていて、顔はどこかあのときの面影が残っていた。
「小学校から高校まで一緒で、同じクラスだった。灰崎みやこ? 」
「そう!覚えていてくれたんだ。嬉しいな。最後に、会ったのいつだっけ? 」
灰崎は、本当に嬉しいそうだ。
「最後に、会ったのは高校卒業のときだったな」
「それじゃ、あれから九年たったんだね」
「そうだな。横に、座っていいか? 」
「どうぞ。なんだか、懐かしいね」
「あぁ、そうだな。灰崎は、県外の大学だったよな。元気にしてたのか? 」
「うん、元気だったよ。最近こっちに、戻ってきたの。それで、楠木君の実家が昔ながらの喫茶店をしてるのを思い出して、ふたりに会ってみたいなって、思って来てみたっていうわけだよ」
「そうなのか。でも、遼は……」
「うん、知ってるよ。さっき、奥さんに…妹さんに聞いて驚いたよ。一年前に、肺炎で亡くなったんだよね」
「そうだ」
「うちね。後悔してるんだ。だって楠木君、中学校の卒業から、会ってなかったから。楠木君とも久しぶりに話してみたかったんだ。あっ、でも、一度だけ会ったことがあるな。楠木君が、亡くなる二年前だったかな」
「「えっ」」
さっきまで、黙って話を聞いていた、さなも驚いていた。
「すみません。驚いてしまって……」
「大丈夫ですよ。妹さんも、知らなかったんですね」
「妹さんじゃなくてさなえって呼んでくださって大丈夫ですよ。私より、歳上なんですから、敬語ものけてください」
「それじゃ、さなえちゃんって、呼ぶね。私のことは、みやこでいいよ」
「はい!みやこさん! 」
「うちが、たまたまこっちに帰ってきたときでね。近くにあるスーパーに行ったら、そこにいた楠木君に、思わず声をかけたんだ」と、灰崎は前置きをしてから話始めた。
「こんにちは、楠木遼君だよね? 」
「はい、楠木です」
「うちのことを覚えてる? 」
楠木君は、最初はいきなりのことで、きょとんとしていた。というよりも誰だこいつ、何で自分の名前を知っているんだって警戒していた。
「え~と」
「うちは、小学校~中学校一緒で、同じクラスだったよ。あとは、学級委員をしていたよ! 」
「あっ、灰崎みやこさん? 」
「そう!覚えてたんだね。良かった」
「それは、学級委員で思い出したよ。それを理由にして過保護の隼咲と一緒に俺が休んだ時にプリントとかノートのコピーの準備をしてくれたって聞いたよ。それで、覚えてたんだ」
「なるほどね! 」
「それに、感謝してるよ」
「えっ? 」
「それは、隼咲が無理しないようにしてくれたんだろう?」
「えっ、バレてた? 」
「うん。バレバレだった」
「なんだか、恥ずかしい」
「俺は、よく入院してたから。授業が、どんどん進むから。追い付けるようにって、隼咲は詳しく書いてくれるんだ。それを一人でしたら大変だし、隼咲は絶対無理をするから。本当は、不安だったんだ。そう思ってたら、時々女の子の字が混じってたんだ。それで、隼咲に聞いてみたら」
『学級委員の灰崎みやこが、学級委員だからって手伝ってくれたんだ。俺は、別に手伝ってくれなくてもいいと言ったのに。どうしてもって聞かないんだ。それで、時々手伝ってもらうことにしたんだ』
「って、言ってたよ。隼咲が、気を使わないように、わざと強気で言って断れにくくしたんだろう?」
「おっしゃる通りで。それは、一旦置いておいて。さっきから、気になってたけど。左手の薬指で輝く指輪は、もしかして?」
「そのもしかしてだよ。俺は結婚したんだ!灰崎さんも知ってる人の妹。誰だと思う? 」
「えっ?誰だろう?この話の流れからしたら。まさか、成瀬君の妹さん? 」
「正解!実は、子供もいるんだ」
そう言って、ふたりが写ってる写真を見せてくれた。楠木君は、とても幸せそうに微笑んでいた。
「とても、かわいい奥さんと息子さんだね」
「そうなんだよ!さなえちゃんは、とても優しくて、かわいいんだ。叶翔は、今三才で、だんだん言葉を覚えてきてるだ!それがとてもかわいいんだ」
楠木君はとても嬉しそうに話していた。そして、ハッとなって、我に返ったようで顔が真っ赤で、恥ずかしいそうにしていた。咳払いをした。
「隼咲は、早く好い人を見つけて結婚したらいいのにね。まだ、独身なんだ。昔から、俺達に過保護で周りをみてないんだ。誰か、好い人いないかな。隼咲のことを理解してくれる人がいると思うんだ。俺にも、いたみたいにね」
って、いう感じの話をしたと言って話すのをやめた。
「あれは、そういうことだったのか。でも、遼のやつ、余計なことまで言いやがって……」
「さなえちゃん、大丈夫? 」
さなは、涙を流していた。
「すみません……。嬉しくて。確かに、二年前に遼さんが買い出しから帰ったときに、嬉しそうにしたの。どうしたのって、聞いたら」
『懐かしい人に、会ったんだ』
「それ以外答えてくれなかったの。だから、物語以外で、遼さんのことを知れて嬉しくて……」
「物語? 」
「後で、説明する」
「うん、分かった。それで、うちが後悔してることっていうのは、別れ際に楠木君と約束してたことなの」
灰崎は、切なそうな顔をしていた。
『灰崎さん、俺はこの近くで昔ながらの喫茶店を営んでいるから。もし、良かったら来て。ドリンクをサービスするよ。そして、今度は、隼咲も呼んで三人で話をしよう!俺の家族も紹介するから』
「そうね。今日はこのあと用事があるから。またこっちに来たときに絶対行くね! 」
『ありがとうございます。楽しみにしてます! 』
灰崎は、そう話をしたあとに、辛そうな顔をした。
「うちは、そのあと忙しくて、なかなかこっちに来れなかった。最近になって落ち着いてきて、やっと約束を守れると思ったのに。間に合わなかった。だから、後悔してるんだ」
「そうだったんですね。でも、遼さんは、怒ってないと思います。こうして来てくださったじゃないですか」
「さなえちゃん、ありがとう。楠木君には、会えなかったけど。こうしてさなえちゃんと成瀬君に会えて良かった! 」
さなに、言われて、灰崎は、ホッとしていた。そして、俺とさなに会えたことを喜んでいた。
「もし、良かったら。お仏壇に手を合わせてもいい?楠木君に、約束を守れなかったことと、来たってことを報告したいの」
「はい、どうぞ!遼さんもきっと、喜んでくれていると思います」
そのときの俺は、何も言えなかった。ただ、涙が零れ落ちるの必死に抑えていた。
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