いつもいる存在
今日は、俺達の結婚式だ。そういっても、婚姻届を出して、いつものように喫茶店で、祝ってもらった。
「隼兄、みや姉。結婚、おめでとう」
「おめでとう」
「「ありがとう! 」」
さなと叶翔が、祝いの言葉をくれた。
「隼咲、みやこさん。本日は、結婚おめでとうございます」
「お父さん、ありがとうございます! 」
「二人とも、幸せになるんだよ」
「はい! 」
「お父さん、お母さんは? 」
「あぁ、お母さんは、あっちでおばあさんといるよ」
お父さんが、言ってくれたところを見た。お母さんは、ハンカチで目元の涙を拭っていた。おばあちゃんは、そんなお母さんの背中をさすり、自宅に通じるドアの中に消えた。
「すみません」
「謝ることは、ないんじゃ。悲しくて流す涙じゃないんだからね。嬉しくて流す涙は流せばいいんじゃ」
「……はい」
お母さんが、少し落ち着いたときのこと。
「隼咲が、結婚してくれて嬉しいんです。隼咲と、さなえの中で一番心配してたのは、隼咲だったんです。いつも、遼君やさなえのことばかり大切していて、自分のことは、二の次で。遼くんが、亡くなってから脱け殻のようで。それでも、私達に心配かけないようにしてくれるんです。誰か、好い人に出会えばいつもの隼咲に戻るんじゃないかと思っていたんです。それで、みやこさんに再会して、少しつづいつもの隼咲に戻ってきて嬉しかったんです。でも、事故にあって、もうあの子は家族の幸せを知ることが出来ないのかと不安でした。みやこさんは、隼咲のことを諦めずに支えてくれる人で、良かったです。すみません、泣いてしまって」
「泣いてもいいだよ。そうだね。隼咲君には、遼のことですごく世話になりました。さなえちゃんが来る前からよく来てくれてたから、もう一人の孫の感覚でした。遼が亡くなっても、ここに来てくれましたが、いつも笑顔の裏で辛そうな顔でした。みやこさんが、来てくれるようになってから笑顔になったので、嬉しかったです。きっと、遼が再び二人を巡り合わせたのだと私は思います」
「そうですね。遼君ならしそうですね」
おばあさんは、うんと頷いた。
「少ししたら、戻りましょうか? 」
「はい。ありがとうございます」
二人が、いないなかのこと。お兄さんは、盛大に泣いて、お姉さんは、すみませんと謝る。
玲ちゃんは、叶翔楽しく話してて、おじいちゃんとお父さんも楽しく話している。つまり、主役の二人は、おいてけぼりだ。
遼の写真が、置かれているカウンター席のところで、俺達は話している。
「みや、なんだかいつもとあまり変わらない気がするんだが。気のせいじゃないよな? 」
「うん。そうだね。気のせいじゃないよ」
「遼達の時も、こんな感じだった気がする」
「そうなの? 」
「あぁ」
いつもと変わらない、みんながそれぞれに楽しむ様子を遼は、楽しそうに見つめていたのを思い出した。
「隼、幸せになろうね! 」
「あぁ。その台詞は、俺が言おうとしたやつだ」
「ごめんね」
「大丈夫だ」
なんだか、視線を感じる。いつの間にか戻ってきたお母さん達、さっきまで賑やかだったお兄さんをはじめとする人達が、俺達を見つめている。
「早速、ラブラブを見せつけてきとるわ!負けてられない。ママ、やるぞ! 」
「やりません。パパ、いい加減にしないと、またげんこつするわよ? 」
「ごごめんなさい! 」
そして、みんながいっせいにわらう。これは、夫婦漫才をみてるようで、面白い。笑い声にお姉さんは、恥ずかしいそうにする。
「すみません。いつも、夫が迷惑をかけてお見苦しいとこを見せて……」
「お姉さん、大丈夫ですよ。面白いので。仲良しって感じで」
「そう?みやこちゃんありがとう。隼咲君とみやこちゃん、結婚おめでとうございます!幸せになってね」
「ありがとうございます!! 」
こうして、俺達の結婚式はみんなに祝福されて終わった。
そして、みやとの帰り道は、恒例となっているマジックアワーをみた。
「これを、見ないと今日という日が終わらない気がするの」
「なんとなく、分かる気がするな」
「うん」
「遼に、感謝しないとな」
「そうだね! 」
「みやに、再会出来たこと、付き合ったこと、結婚出来たことを」
「うん!もしかしたら、うちと楠木君が再会してなかったら、隼とも再会しなかったかもしれないね」
いつも、俺達には遼という存在がいた。
「それは、怖いな」
「うん……」
「みや」
「うん? 」
「これからも、どんな困難にも、一緒に乗り越えよう。時を進めるために」
「うん! 」
みやの笑顔は、マジックアワーの光でよりキラキラと輝いていた。
読んでいただきありがとうます!
次回は、エピローグです。