涙の意味
みやこと隼咲の視点の変わり方が分かりにくいかもです。
隼が、気を失う直前に、うちのことを愛していると言っていた。ひょっとしたら何か思い出したのかもしれない。
お兄ちゃんが、心配だからといって近くで様子を見てくれた。だから、スマホを置いていった。
置き手紙は、していたけど。何はともあれ、すぐに対応ができた。救急車を呼んで、病院に搬送した。
医者の話では、気を失っただけで命に別状はないそうだ。
数時間後、隼は目を覚ました。最初は、寝ぼけていた感じだったけど。すぐに、覚醒した。
「みや?ここはどこだ?」
「ここは、病院だよ」
「そっか、俺…」
「うん。隼、まだ安静にしないといけないの動き回ったから。疲れが出たんじゃないかって、先生が言っていたよ」
「今何時だ?早く行かないと」
みやが答える前に、腕につけられた点滴をはずそうとした。それをみやが俺の腕をつかんで止める。
「隼!落ち着いて!」
俺は、それを振り払った。
みやは、辛そうな顔をしたが、すぐさま、ナースコールを押す。すぐに、駆けつけた医者達に止められた。
少しして落ち着いてから診察をした。担当の医者は、事故前から親しくしてくれている。
その人は、遼経由で、顔馴染みになった医者で現在俺も世話になっている。その医者と二人で話をした。
「先生、俺」
「うん」
「記憶を全て思い出したのかもしれない」
「かもしれない?」
「はい」
「それは、どういうことかな?」
「全て、思い出したのか不安です。また、みやを傷つけたらって…」
「なるほど…。それは、難しいね」
「でも、彼女さんは違うんじゃないかな?」
「えっ?」
「だって、彼女さんは隼咲が記憶を思い出したって、聞いたら嬉しいじゃないかな?」
「…はい」
「人間誰でも人は、不安になる。人を傷つける。これを直すことは、できる。人の心の力だ。不安になると怖くなるだろ?その時に、人から大丈夫だ。一人じゃない。一緒に考えよう。隣でいるから。って、言ってもらったら嬉しい。不安から勇気や希望になると先生は思うんだ」
「・・・」
「隼咲は、彼女さんが傷ついて別れを切り出すと思うの?」
「ち、違う!」
「じゃあ、どう思うの?」
「みやなら、俺が記憶が戻ったことを喜んでくれると思う」
先生は、微笑んだ。
「この話は、これで解決だ」
「えっ?」
「実は、先生。彼女さんから隼咲のことについて聞いたんだ」
「えっ?それを俺に話しても大丈夫なのか?」
「隼咲に話してもいいって。ちゃんと、彼女さんに、許可をもらってるから大丈夫だよ」
「それだったら、話してください」
先生は、うなずいてから話してくれた。
「彼女さんは、言ってたよ」
『気絶する前に、愛しているって言ってくれたんです。その後、何か思い出してかけてる言葉も言ってました。期待をしていいのかって。隼が倒れたのに思ってしまったんです』
「って、嬉しそうにね。彼女は本当に好い人だね。先生にも、そんな奥さんが欲しいよ…」
「また、奥さんじゃない!先生。まずは、彼女を作らないとな」
「そこを言わないでよ…」
先生は、とてもフレンドリーな人だ。この先生の名前は、吉滝和則だ。
彼は、病院内で人気だ。吉滝先生を頼りにする人が多く、そのため多忙。
そのため彼女がいたとしても、時間を作れないのでフラレる。災厄、浮気をされる。
それでも、彼は自分が悪いと思っている。彼女の心に気付いてやれなかったといつも嘆いてる。優しい人だか、かわいそうな人でもある。そして、吉滝先生は、患者想いの人だ。
この先生がいなければ、遼の物語は完結が出来なかった。医者なら、止めなければいけなかったと思う。体に負担がかかるから。それでも、この人は違った。
遼の心残りを考えてくれたのだ。上の人に、周りの人に、非難をされたかもしれない。俺が、そう思いながらも頼みに行った時に、先生はこう言ってくれたのだ。
『大丈夫だよ。遼が、物語を書いても大丈夫だよ』
『本当に、いいんですか?』
『うん。これは、患者のために必要なこと。代わりに、出来る人は、いると思う?』
『いません』
『うん。だから、物語を書くことを許可する代わりに約束して欲しいことがある』
『何ですか?』
『遼が物語を書くときには、家族の誰かが必ずいること。本来なら、体に負担がかかるから許可できない。そうなったら、遼は心残りなると思うんだ。遼が、無理をしすぎないように、見てくれる人が必要なんだ。出来るかな?』
『出来ます。ありがとうございます!』
この先生のおかげで、遼の物語を完結することが出来た。遼に、このことを伝えると涙を流しながら喜んでいた。遼と俺は、吉滝先生を医者として、人として吉滝和則を尊敬してる。そんな先生に、俺は、無理難題をもう一度言おう思う。もちろん、申し訳ないと思いながら。
「吉滝先生」
「どうしました?」
そう言って、にこりと微笑む。俺が何を言うのを分かっているように。
「退院したい。どうしても今日、みやと行かないと行けないところがあるんだ」
先生は、ため息をついた。
「隼咲。さっきも、彼女さんから聞いたと思うんだけど。なぜ、倒れたのか忘れたかな?」
「俺が、無茶したから...」
「そうだね。まだ、安静にしないといけない。隼咲の場合は、記憶を取り戻すことに結果的になったから良かったんだけどね…。本当なら、検査入院をしてもらいたいんだけど。その顔で、見られたらダメって言えない。」
「本当ならってことは、退院していいんですか?」
「でも、条件は、あるからね。明日の朝に、必ず来ること。必ずだからね」
「はい」
「少しでも、異変を感じたら必ず連絡すること」
「はい」
「もう次はないからね。約束してください」
「はい、分かりました」
吉滝先生は、頷いた。
「彼女さんは、好い人だね。ご家族には、先生から話をするね。その間に、着替えて準備するように」
先生は、大事なことだからというように、二度同じことを言った。
「はい。分かりました」
吉滝先生は、病室を出ていった。少ししてから、勢いよく扉がひらいた。
「みや。病院は、静かにしないといけないぞ」
「隼!」
みやが病室にやって来て俺に飛び付いてきた。そのとき、俺は、病室のベットの上に座っていて、みやが、飛び付いてきた拍子にバランスが取れずベットに二人して倒れた。
「みや」
「隼?」
「痛い。俺は、一応怪我人なんだけどな」
「ご、ごめんね。なんだか、嬉しくて思わず」
そう言って、体を起こしたみやの瞳には、涙が輝いていた。その涙は、悲しくて流したんじゃなくて、嬉しくて涙を流してくれたんだと思った。
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