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幸せを願って(改正版)  作者: 宮原叶映
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忘れられても

 隼に、忘れられて辛かった。でも、少しずつ隼は記憶を取り戻してくれた。あの言葉。大切な言葉を思い出してくれた。

 

『一緒にどんな困難にも、乗り越えよう。時を進めるために』

 

 うち達にとって、とても大切な言葉。楠木君の言葉を借りるなら隼は過去にいた。

 うちは、過去にいた隼に前を向いて欲しいという想いを込めて彼に贈った言葉だった。

 それを思い出してくれた。それが、凄く嬉しかったんだ。

 今は、それだけでいいと思った。少しずつで、いいから思い出してくれたらいい。

 

 たとえ、忘れられてもうちが覚えている。前にしたように、したらいいんだ。

 また一緒に、喫茶店で会って話したら自然と思い出してくれる。うちは、そう信じているから。

 ねぇ、隼。焦らずに、ゆっくりでいこう。ふたりでなら乗り越えれるよ。

 だから、今は、体を治すことを優先して欲しい。一番近くでうち達を見てくれた楠木君にもさなえちゃんにも分からない。

 うちと隼が過ごした日々をうちは、知っているから、覚えてるから。

 それは、とても大切なことだから。そう思えるようになったきっかけには、ひとりの生徒がいた。

 

 カウンセリングをしたことのあるその生徒が、数年後手紙で教えてくれた。

 

『灰崎先生へ

 

 どこにいけばいいのか、分からなくて悩んでいました。あの当時は、学校も家も辛かったんです。死のうとさえ思ったんです。

 自分が死んでも悲しんでくれる人は家族以外でいないとも思ったんです。

 

 自殺して、自分の名前がテレビや新聞に載って最初は、取り上げられるかもしれない。

 でも、次の日は誰も自分の名前も覚えてないと思うんです。でも、先生は、こんな自分でも覚えてくれて悲しむじゃないかなって、思ったら、死ねませんでした。

 

 それが、何度もあったんです。自分は、どこかで誰かに忘れたくない。

 家族以外で、自分のことを忘れられても、誰か、一人でも自分のことを覚えてくれたらいいな。知ってくれたらいいな。

 その人が先生だったらうれしいなって、思うんだ。

 

 先生、ありがとうございました!   』

 

 うちは、その手紙を読んで何かあったのかもしれない。その生徒は学校を卒業してから会っていなかったので余計に心配になった。

 

 その時、テレビのニュース番組で、あるニュースに驚いた。嘘だと思いたかった。急いでその生徒の実家のアパートに向かった。

 その生徒の母親に家に入れてもらった。リビングの端にお仏壇があった。

 そこには、その生徒の写真が置かれていた。うちが、お仏壇に手をあわせた。

 そのあとに、生徒のお母さんがお茶をだして話をした。

 

「先生、わざわざ来てくださりありがとうございます。うちの子も天国で喜んでくれるでしょ」

 

「それだったらうれしいです」


「うちの子ね。彼女がいたの。その彼女の元カレがフラレたショックでストーカーになって彼女を襲って殺そうとしたんです。警察にも相談してたのですが、なかなか対応をしてもらえなかったんです。うちの子は、それを知って彼女をかばったんです。そして、彼女を……人を助けて。先生に出したその手紙は、あの子が亡くなる二日前に書いたものです。一度、意識が戻って突然、手紙を書きたいって言い出して。でも、あの子にその体力は残って無かったんです。代わりに、私が、あの子の書きたい内容を聞いて書いたものです。そのあと容態が急変して亡くなりました。私は、子供を亡くしたショックでなかなか手紙を出せませんでした。ふっと、思い出したんです。あの子がいつも言ってたんです」

 

『灰崎先生に、助けてもらったんだ。勉強がなかなかできなくて、いじめられてそれを親に言えなかった心を助けてくれたんだ。だから、自分も誰かを助けれる人になるんだ。それが、出来たら先生に会いに行くんだ』

 

「って、……言ってたんです。あの子が、大変なとき、私達親は気づいてやれなかった。知ったときに辛くて、悲しかったです。でも、あの子の方が辛くて、悲しかったですよね。人を助けるのは立派なことでも、死んで欲しくてなかったです」

 

 生徒の母親は、泣きながら話してくれた。うちも泣いてしまった。


「……す……すみません」

 

「大丈夫ですよ」

 

「私も、お母さんと同じです。人の命を救うことは立派です。でも、生きて欲しかったんです。また、灰崎先生って、呼ばれたかったです。笑顔の素敵な生徒でした」

 

 その生徒の事件については、うちが家に訪れた日の夕方に放送されるそうだ。

 

「お母さん。私は、息子さんのことを忘れません」

 

「先生、ありがとうございます」

 

 そして、高良歩夢(たからあゆむ)君の家を出た。

 彼は、勉強が苦手な生徒で、クラスや自分の知らないせいとにキモいと言われていじめられた。

 してはいけないことをしている人に、自分では止めれないから教師を大人を頼った。

 そうするとチクリマンと言われいじめられた。それから、彼は、パニックを起こして、泣くようになった。

 そうすると泣き虫と言われていじめられた。それでも、彼は、不登校にならずに学校を卒業した。


 彼は、最後に人を救って亡くなった。大人を頼ったらいけないことなのだろうか。


 自分には、出来なくて頑張ろうとしても無理な問題を教師に大人に頼ったら、いじめられるのはおかしいと思う。

 その勇気を壊さないで受け止めて欲しい。

 

 うちは、願った。誰か一人でも自分という存在を知って欲しい。覚えて欲しい。

 自分自身のことをダメだと思っていても誰かに自分を見て欲しい。

 

 誰だっけ?じゃなくて、確かに存在したっていう証が欲しい。

 多人数じゃなくていい、少数でいいから。

 ひとりじゃないって思って、いつも影から見てくれる存在がいるって幸せなこと。

 

 人を見た目で判断しては、いけない。人の外ではなく、中身を見れる人が増えて欲しいと心から願う。

読んでいただきありがとうございます!

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