記憶を頼りに
俺は、記憶を無くした。灰崎の記憶を無くしたんだ。灰崎を傷つけた。
灰崎に、ゆっくりでいこうと言われた次の日のこと。さなにあるものを持ってきてもらおうとした。
それは、手帳と日記帳だ。リハビリや検査の合間に見ることにしようと思った。
最初は、さながその二つを俺に渡すのを拒んだ。俺の体のことを思っての行動だった。灰崎との質問形式で、思い出そうと思ったけど。
灰崎は、どこか無理をしてる顔をしていたから。それだったら、自分で調べたらいい思い出したいと考えた。
その二つは、お父さんとお母さんかさな達がいるときしか見てはいけたないという条件を出された。
俺は、その条件をのんだ。灰崎も絡んでいることだから、一応許可をもらいたいと考えた。
俺は、彼女にとって酷のことじゃないかと思った。それは、彼女も拒んだ。
彼女の願いは、きっと俺の記憶が戻って欲しいと思う。だからこれは、俺なり考えた彼女の記憶を無くした償いの方法だった。
彼女は、俺の想いを分かってくれたのかもしれない。彼女なりの考えがあったのかもしれない。
一度だけという約束でとお願いをした。
そうすると、彼女もその場に立ち会わせて欲しいと条件を出された。
決行したのは、その二日後だった。
結果、頭が痛くなってしまった。灰崎の記憶を思い出したのは、喫茶店で何度か会ったっていうのはなんとなく思い出した。
でも、その先が思い出せない…。白くモヤがかかっている感じがする。なぜだ。灰崎は、俺を見て辛そうにした。泣くのを我慢しているようだった。
「灰崎、すまん。俺は、目を覚ましてから……。灰崎を傷つけることしかしていない。謝ってすむ話じゃないよな」
謝罪をする俺に、灰崎はそっと右手に手を重ねて言った。
「成瀬君が言う通り、確かに傷付いたよ。でもね。うちは、嬉しいの」
「えっ? 」
「だって、成瀬君が目を覚ましてくれたんだから!先生は、大丈夫って言っても不安だったんだよ。成瀬君が、目を覚ましてくれなかったらどうしよう。もし、このままだったらって…。不安で不安で…。成瀬君が記憶をなくしてもうちは、覚えてる。だからね、焦らなくて大丈夫。一緒にどんな困難にも、乗り越えよう……」
「「時を進めるために」」
「えっ?! 」
「えっ? 」
「しゅ…成瀬君。思い出したの? 」
「灰崎、すまない。思い出してしないと思う。俺も分からない。でも、聞いたことがある気がするんだ」
「そうなんだね……。でも、一歩前進だね! 」
「あぁ……。さっきの言葉は、何か大切だったのか? 」
灰崎は、最初驚いたけど次の瞬間笑顔だった。
「うん!そうだよ。うち達にとって、とても大切な言葉なの! 」
「そうだな!みや! 」
「隼。今、みやって……!! 」
「えっ? 」
「記憶をなくす前に、うちのことをみやって、呼んでたよ」
「そうなのか? 」
「そうだよ。うちは、それをきっかけに成瀬君のことを隼って、呼んでたんだよ」
「……。だから、あのとき俺のことを隼って、言ってたんだな」
「うん!思い出してくれてありがとう」
「こっちこそ、礼を言わないといけないと思う。今日は、大切なことを思い出すことが出来て良かった。ありがとう。みや」
「隼、どういたしまして! 」
ふたりで、笑う。これもなんだか懐かしいと感じた。そして、いつの間にか病室には、俺とみやしかいなかった。
俺は、これからみやの記憶を頼りにゆっくり思い出そうと誓った。
読んでいただきありがとうございます!