ゆっくりいこう
隼が、事故にあって、うちは両親のこともあってショックで倒れた。
隼の事故から二日たったとき、眠っていた彼が目を覚ました。
うちは、目を覚ましてくれたことが嬉しかった。でも彼は、違った。『何で、いるんだ』と、不思議そうな顔をしていた。
そのあと『灰崎? 』と、言ったんだ。最初に聞いたときは、辛かった。いつもの隼なら、『みや? 』と、言ってたはずだ。間違いだ。
記憶が、混乱してるだけだと、思った。思いたかった。でも、違ったんだ。
『いつもは、成瀬君って、呼ぶのに何でここに来たときに隼って、呼ぶんだ? 』
その言葉を聞いたときに、違うんだって気が付いた。耐えれずに、帰ってしまった。いや違う。あの言葉が、耐えれなかったんだ。
だから、逃げて来たんだ。どうしたら、いいのか分からなかった。
どうやって、家に帰ったのか覚えてない。家に帰り、誰もいない真っ暗な部屋で独りで泣いた。
泣き終ったあとに、部屋の電気をつけて、ベットに倒れこんだ時に、スマホから着信音が流れた。
さなえちゃんが電話をかけてくれた。その話によると、うちの記憶は、あの再会してからのが無いらしい。
電話の向こうのさなえちゃんも泣きそうな声だった。お礼を言って、電話を切った。また、泣いた。
隼は、記憶を無くした……。うちだけの記憶を無くした……。そして、そのままベッドで眠った。
隼が、目を覚まさない間も当然仕事がある。気持ちを切り替えて仕事に挑む。
仕事が終わる度に、隼の病室に行く。そこには、必ず誰かはいた。隼のご両親、さなえちゃんと叶翔君だったり、おじいちゃんとおばちゃんだったりする。
みんな、うちを温かく迎えてくれる。なかなか、隼が目を覚ましてくれなくて、自分を責めて失言をしてしまった。
『私が、悪いんです。私が、約束をしなければ、こんなことにならなかったんです』
そして、隼のお父さんが言ってくれた。
『みやこさんのせいじゃない。悪いのは、信号無視をした車です。自分を責めては、いけません。今は、信じて待つんです。隼咲は、先生が言ったように体は、強いんです。安心してくださいね』
うちは、その言葉に救われた。信じて待った結果がこれだ。それでも、いい。隼が、無事ならいいんだ。
こういうときこそ、前向きに考えないといけない。一番大変なのは、隼なんだから。周りが、支えないといけないと思う。
そして、仕事に励む。仕事を終わらせて、病院に向かう。
「成瀬君。こんばんは」
「……灰崎。こんばんは」
「体調はどう? 」
「あぁ、大丈夫だ」
「良かった」
「俺さ、来ないと思ってた」
「えっ? 」
「だって、あの時灰崎を傷つけたから」
「……」
「あとで、聞いたんだ。灰崎は、俺が目を覚めるのをずっと待ってたって。それって、もしかしたら俺達の間にって…。そうしたら、頭が痛くなって……」
「焦らなくていいよ。少しずつでいいの。うちは、来たいから来てるの。理由は、それだけだからね」
「そうなのか? 」
「そうだよ。ゆっくりでいこう。成瀬君が、気になることがあったら質問してね」
「いいのか? 」
「うん」
「でも、そうだな…。一日一回にしよう。それなら、体にも負担をかけなくてすむと思うから」
「分かった。そうしよう! 」
「最初の質問するぞ! 」
「いいよ」
「俺と灰崎は、会うのは何年ぶりだ? 」
「そうだね。九年ぶり? 」
「なぜ疑問形なんだ?あっ、もうひとつ質問してしまった……」
「大丈夫だよ。本当は、一週間ぶりだよ」
「えっ? 」
「はい!今日の質問は、ここで終了です! 」
「何でだ? 」
「何でもです。最初の答えを、うちは疑問形で答えてしまったから。サービスしただけだよ」
「……分かった。今日のところはそれでいい……」
本当は、今すぐでも思い出して欲しい。
でも、急がしたらいけない。隼に思い出して欲しい。だから、成瀬家には、うちのことを言わないで欲しい時頼んだ。
何年かかってもいい。うちの隼に対するお想いは、それ以上だと思うから。
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