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World cuisine おいしい世界  作者: SAI
第一章
7/226

7.薬をつくる

 【どうぐどうぐ】へ行った日からずっと、なんとかお金を工面しようと頭を悩ませている。

財布の中に3000オン、【どうぐどうぐ】へ卸した回復薬のお手伝い賃が10000オン。

あと半分足りない。あと半分、半分・・・。

じっとしていられなくてベッドから立ち上がり部屋の中を歩いた。


「そういえば父さんから貰ったキノコ、調べてないな。」


ふと思い出し、机の上に並べてみる。

じぃっと見つめて心眼を使うと【ヒーリング効果5】の文字。

これは…すごいモノなんじゃないか?


 

 そもそもヒーリング効果を持つ植物は少ない。

少ない上に効果を持っていても1のことが多い。

ヒーリング効果1といえばせいぜい擦り傷を治す程度の効力なので、ヒーリング効果のある植物を苦労して探し出すよりも自然治癒の方が効率が良いのだ。

ヒーリング効果5の効力がどれほどかはわからないけど、薬にして販売すればいい値段になるに違いない。


ありがとう、父さん!


思いたったら即行動、とキノコを持って師匠の元へ向かった。



「師匠~っ。」


呼びながら廊下を歩けばテンが出てきて、こっちこっちというように先導してくれる。

右手で頭を押さえながら、オットットと私の前を小走りする姿は案外かわいい。

テンはリビングまで行くソファを指さして消えた。

リビングのソファの上には寝転がって恋愛物語を読む師匠がいた。


「師匠、父さんからキノコを貰ったのでこれで薬を作りたいのですが、良い調合レシピありませんか?」


視線を上げた師匠が本越しにこちらを見た。


「おぉ、ワラワラ茸じゃないか。これは珍しい。ワラワラ茸は生息地不明の茸なのだ。

どこにでもいるし、どこにでもいない。見つけるのはもはや運だな。

そして見つけたとしても、こちらの気配に気づくとワラワラと逃げてゆく。

捕まえるのは至難の業だ。大勢で繋がって移動しているから1つ捕まえればあとはズルズル捕まえられるんだけどな。」


師匠はササッと私に近づくとワラワラ茸を手に取り、これは良いモノを貰ったなと微笑んだ。




 調合室はいつも、いくつもの薬草が混ざった少し苦みのある臭いがする。

調合台にキノコを並べると、「全部薬にするか?」と師匠が言う。


「師匠、ワラワラ茸で薬を作って売るとしたらいくらくらいで売れますかね?」


「そうだなぁ、骨一本折れたくらいならすぐ完治するし、30000オンくらいはいけると思うが。」


「30000オン!!」


思わず大きな声が出た。これ一つで本を買ってもおつりがくるとは・・・。


「じゃあ2つを薬にします。」


分かったといって師匠がキノコを3つ手にした。不思議に思って師匠の顔を見れば、


「ただで教えるわけがないだろう。お代はキノコ1つでいいぞ。」


とニヤリとした。そうですよね・・・。




 「いいか、こういう良い素材を使うときは慣れないうちは複雑なことをせずにシンプルに作るのが一番なんだ。余計なことをしてせっかくの効果を減らしたくはないからな。」


「慣れたらどうするんですか?」


基本を知らないうちに応用を聞いてどうする、とため息をつきながらも師匠は教えてくれる。


「効力の高い素材の能力を邪魔しないように調合してゆく。

その効力の助けになるように。たとえばこのワラワラ茸なら眠りの効力を持つものを混ぜてやる。

飲んだ者は深く眠ってしまうが、生命を維持するための最小限の気を残してその他の体中の気が傷の部分に集中することができる。

眠りが深ければ深いほどより気は集まる。よってヒーリング効果が上がることになるのだ。」



師匠はそう言い、乾燥したワラワラ茸を水で戻すようにと言った。

水を張ったボウルにキノコを1つ入れる。

いつものように師匠が時短魔法の魔方陣を書きボウルの上に飛ばした。

あっという間にむくむくっとキノコが大きくなる。

深緑色だったキノコの笠が水を含んだことで鮮やかな緑色になった。


「次にキノコの笠の部分をみじん切りにする。

キノコの繊維を潰さないように鋭く切れ味の良い刃物を使うこと。力は入れるなよ。」


手に取った包丁を目に高さに持っていき、刃の状態を確認する。

よし。キノコの笠に刃をあて優しく引くと、緑色の光が少し毀れた。


「その光が効力だと思え。光が毀れれば毀れるほど効力は下がるぞ。」


これは難しい。優しく力を抜いて切っても緑色の光はどうしても毀れてしまう。


「貸してみろ。」


師匠がキノコを切ると、緑色に光ることもなく切れた。

師匠、すごい。


「いいか、切ることに集中しろ。

あとは緑の光が毀れないように、グッと閉じ込めるようなイメージを持つといい。」



 包丁の切っ先を見つめ、包丁が自身の手になったかのように意識を集中する。

刃が笠の表面にあたり食い込む前に包丁を引いた。こぼれ出そうになる緑の光をぎゅっと封じ込める。

すると、一つだけぽろっと光が落ちたものの、前よりは断然良くなった。


「まぁ、いいだろう。そこのボウルに入っている水を火にかけるぞ。」


先ほどキノコを戻すのに使った水を鍋にいれ、沸騰したところでみじん切りにした茸を入れた。

そこからはあっという間だった。

みじん切りのキノコを入れた瞬間、パンと音がはじけて白い煙が上がり、間髪入れずにキノコの柄の部分を入れるとまた音がはじけて今度は緑色の煙が上がった。


「ふぅ、完成だ。」


 出来上がった薬を丁寧に瓶に移す。

心眼で効果をみると【ヒーリング効果3】の文字。


「ヒーリング効果3です。」


効果を2つも減らしてしまった。

ガックリとうなだれる私を、最初からうまくは作れんさと師匠が慰めてくれる。


「もうひとつ、薬を作るんだろう?もうひとつは一人で作ってみなさい。」


師匠の言葉にキッと顔を上げ、もう一度作り始める。



結局その日出来上がった薬は【ヒーリング効果3】と【ヒーリング効果4】の2本だった。




 薬を作った後は自室に戻ってノートを開いた。

今日教えてもらった調合レシピを記すためだ。

この3年の間に教えてもらった調合レシピがビッシリ書いてある。

ノートの初期の方を見れば薬材を煮るだけ、焼くだけのタイミングも気にしなくてよいような簡単なレシピばかりだ。


もはや、レシピというよりは薬材ノートだな。


2年くらい前になると2つの薬材を混ぜることも多くなり、切り方混ぜ方細かく記されるようになった。

その中にひとつだけ何種類もの薬材と魔力の無い果物も混ぜて作る複雑なレシピが書いてあった。


これ、師匠の活力薬だ。とほほ、と遠い目をする。


このレシピ、明らかにひとつだけレベルが違うじゃないか・・・。

ノートを見返したからこそわかる、この複雑レシピ。

今でもひと月に一度は作るので私でも完璧に作れるようになったレシピだ。


この調合が面倒な薬の使い道が、師匠の活力剤だなんて。

寝不足だとか二日酔いだとかになった時に、なんとか動けるようになる為に師匠が飲むのだ。

効果は抜群で飲んで5分も経てばシャキッといつもの師匠に戻る恐ろしいほどの即効薬。

この薬は日持ちがしない為、弱っている時に作るのが大変だからと、まだまだ初心者の私にみっちり覚えこませたレシピなのだ。


ただし、この活力剤は強い薬なので魔力ランクが低い者が飲むと活力のあまりに魔力が暴走して死ぬこともあるらしい。

なので、私は飲むことができない。


つまり、自分には微塵も役に立たないレシピである。

 

それでも、このレシピのおかげで効力の低い薬材同士でも組み合わせによっては

それ以上の効力になることも分かったし、

薬材と魔力を持たない食材を合わせることもアリなのだと知った。

魔力をもたない食材の役割は主に薬材と薬材を繋ぐための役割がほとんどではあるが。



ちなみにこの活力剤、本来の用途はドゥブ毒の解毒だというのだから驚きだ。

ドゥブ毒というのは体内に入ると活力をどんどん奪う毒で、最終的には呼吸をする活力もなくなり死に至るという毒だ。

完全に体内から排除しない限り増殖し続ける。

通常の解毒薬では効果がゆるやかで解毒が毒の増殖スピードに負けてしまうのだ。

即効性のこの活力剤がドゥブ毒の解毒剤というのは納得である。



 ひととおり今までのレシピコレクションに目を通すと、満足してノートを閉じた。

魔女の弟子になれるようにと師匠に話をつけてくれた両親に感謝しながらベッドに入る。


明日は薬を売って、ようやく本をゲットするのだ!




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