12.ターザニア騎士団とキヨの訪問
夕方近くになって騎士団が二人、研究室を訪ねてきた。レイと同じくらいの年齢の少年が一人と20代半ばの青年が一人だ。20代半ばの男はすごく面倒くさそうな顔をして、また作ったんだって?とクロッカに言った。
「ダン、待っていたわ!今回のは期待していいわよー。ふふふふ。」
クロッカは上機嫌である。騎士団の少年の方は何を食べさせられるかとビクビクしている様子だった。
「騎士団のみさなんは鍛えているうえに魔力ランクも高いから助かるわ~。」
クロッカがケラケラ笑いながら食堂の椅子に二人を座らせた。
私は厨房へ行くと冷蔵庫を開け、コオリーンたちからゼリーを受け取る。ありがとう、と礼を言えばコオリーンたちはクルクル回って踊るように姿を隠した。
出来上がったゼリーは薄い緑色の中にクロの花びらが閉じ込めされており、なかなかの美しさだ。デザート用の三角の形をした器にそれぞれのゼリーを四角く切って盛り付け、グラスの淵にピンパをカットしたものを添える。見るからに涼しげなゼリーの完成だ。二人に完成したゼリーを持っていく。
「お待たせしました。」
「「「おぉっ。」」」
テーブルにゼリーを置くとなぜかクロッカも二人と一緒に驚いた。
「眠気覚まし効果があります。効力は・・・。」
言ってもいいのだろうかと口をつぐむ。そのとたん、クロッカが
「あ、効力を調べ忘れたわ。まぁ、でも3か4ぐらいだろ。」
と言った。確かに私のスキルによると眠気覚まし効果は4になってはいるがこんなにいい加減でいいのだろうか・・・。
少年はゼリーを見て安心したようだ。
「なかなか美味しそうだな。だが、前のやつみたいに酸っぱくはないよな?」
ダンはクロッカに疑いの目を向けつつ、ゼリーを口にした。その姿を確認してから、慌てたように青年もゼリーを口に入れる。
「おぉっ!」
ダンは声をあげ、少年は目を見開いた。
「これは、口の中がスースーして頭がすっきりする気がする。」
「とても爽やかで美味しいです!」
二人はパクパク食べた。
「このピンパのゼリーも爽やかでうまいな。つるん、として食べやすいピンパだ。」
「そうでしょう。夏のゼリーとして食堂に出すつもりよ。商品化してもいいわね。」
のびケーキの一件で売ることが楽しくなったのかクロッカの発言がどんどんお金儲けの方へ流れていっている気がする・・・。
「リュン、今日は当たりの日だぞ。」
ダンが少年騎士に囁いた。クロッカはそれを否定せずに、今度はブラウニーを持ってきた。
「驚くのはまだ早いわ。今日のメインはこれよ!」
自信満々に2cm四方の黒い四角を二人の前に置いた。
「これは?」
「脚力増強効果のあるトトルートよ!さぁ、さぁ、召し上がれ。」
二人はブラウニーを一気に口の中に入れた。
「これは、おやつだな。ティータイムに出てくる上手い菓子だ。」
その隣でリュンが頷いている。
「僕、これ好きです。中に入っている果物がトトルートとすごく合う。」
美味しいおやつを食べた時のようなリュンの反応になんだかほっこりする。そんなリュンを見ているとレイを思い出し、レイならどんな反応をするのだろう、と思った。
「く、クロッカさん、騎士団の皆さんには裏庭に出ていただいた方が良いのではないですか!?」
ここにきて、ようやくトトが喋った。騎士団の前だと緊張するらしい。
「確かにそうね、普段から鍛えている足のパワーが増強されるんだもの。私たちの比じゃないわ。ほら、あなたち、行くわよ!」
クロッカは二人を引っ張ると研究所の裏庭に連れて行った。
その後姿を見ながら、トトはハッと何かを思いついたらしく研究室へ戻ると記録石を持ってきた。
「せっかくなので、記録しておきましょう。何かの役に立つかもしれません。」
「おぉっ、さすがトトさんですね。」
私は案外しっかりしているトトに感心した。勢いで突っ走るタイプのクロッカと、引っ込み思案でしっかり者のトトは良いチームになりそうだ。
3人を追いかけて裏庭に行くと丁度二人が走っているところだった。
「そう、その調子よ!」
クロッカがまるでコーチのように二人に声をかけている。
「この感覚を覚えていて。効果が発動したらどうなるのか教えてほしっ、あーっ!!!」
言っている最中に効果が発動したらしい。二人はビューっと森を駆けていき、ダンはなんとか自力で止まったがリュンは木に激突して止まった。
「大丈夫ですか?」
慌てて駆け寄ったが、さすが騎士団。無傷で立ち上がった。運動神経がよいと簡単には怪我をしないものなのか。
「クロッカさん、走らせない方が良かったんじゃ・・・。」
というトトの声は、ダンの喜びの声にかき消された。
「これは楽しいぞ!」
トトはその後すぐに時計を確認する。どうやら効果の持続時間を調べるらしい。さすがはしっかり者だ。
その後はジャンプをしてみたり、全速力で走ってみたり、木を蹴って破壊してみたりと子供のようにはしゃぐダンと、噛みしめるかのようにひとつひとつ確認しているリュンの正反対の行動を記録した。
「これは確かに騎士団の役に立ちそうだな。早速帰って報告しよう。これは何という料理だ?」
とっさに聞かれて新しい名前が思いつかず、そのまま、ブラウニーです、と答えた。
「ブラウニーか。変な名前だな。まだ残りはあるのか?」
「あと10個はあるわ。」
クロッカが答える。
「貰っていってもいいか?」
「いいわよ。うちから買うか、よーく検討してちょうだい。」
クロッカがニコッと微笑む。
「あの、すみませんが効力が何時まで続いたか教えていただけますか?」
「あぁ、いいぞ。リュン、あとで報告してやれ。」
「わかりました。」
「よし、効果が切れる前に走って帰るぞ!」
ダンはそう言うと全速力で足りだし、待ってください!と叫びながらリュンが後を追った。
「ただいまー。」
帰宅するとフォレストはガヤガヤした夕方の賑わいになっていた。
「おかえり、ライファ。あなたにお客さんが来てるわよ。荷物を置いたら食堂においで。」
ナターシャさんに言われて食堂へ急ぐ。食堂へ行くと、食べ物をもらってご機嫌なベルの隣にキヨがいた。
「あっ、キヨ!久しぶり。」
声をかけるとキヨも嬉しそうに久しぶりと答えた。火焼けて肌が少し黒くなっている。
「仕事はどう?」
「俺は魔力がない分、体で勝負だから毎日クタクタだよ~。でもひとつ壁を作るたびに魔方陣を仕込んだりして、王族の建物ってこんなに魔方陣を施すんだなって勉強になってる。まぁ、なんの魔方陣なのか俺にはさっぱり分からないんだけどさ。あはははは。ライファはどうなの?」
「聞いてよ。聞いてくれる?ムフフ。」
私がのびケーキのことを話すと、キヨは凄い!凄い!と大げさなくらい喜んでくれた。
「なんかさー、ライファと会ってホッとしたわー。」
キヨがあったかいお風呂にでも入った時のような表情をする。
「なんかあったのか?」
「いや、別に、これといってなんかがあったわけじゃないんだけど。ここだけの話ね。」
キヨはそういうと声を少し落とした。
「今日、初めて第3夫人を見たんだ。すごくキレイな人だったんだけど、なんか、こわかったんだよ。」
キヨが恐る恐る口にする。
「俺、ライファの友達の・・・なんだっけ、あぁ、レイが言っていたように人の魔力を感知するのは全然だめだから、魔力のことはさっぱり分からないんだけどさ。雰囲気というか、目というか、とにかく、見てるとこっちが冷えてくる感じ。」
キヨはそこまで一気に話すと、変だよな俺、と笑った。
「気のせいだっては分かってるんだけどさ。もしかして、あれが王族の持つ威厳とか、そういうやつなんかなー。あっ、そうだ!!」
急に大きな声を出したキヨにびっくりする。
「俺、ライファに謝らないとと思ってたんだ!」
「何を?」
「俺、ライファに結婚したいとか言っておきながらさ、なんていうか、その、す、好きな人が出来たみたいなんだよね。」
キヨが赤い顔をして言う。私は飲んでいたスープを吹きだしそうになった。そんなことを気にしていたのか。私の中ではとっくに無かったことになっていたのに。ははは。
「良かったじゃんっ。私はキヨにそう言う人が出来て嬉しいぞ。どんな人なんだ?」
「ライファと別れてから、仕事場に行く時に道に迷っちゃってさ。困っているところを助けてくれた平民の女の子なんだ。すごく優しくて、職場にも何度か差し入れ持ってきてくれてて。俺が魔力ランク1だって言っても、そんなこと関係ないっていってくれる。」
キヨが嬉しそうに話す。
「うんうん。あ、そうだ。なんでその子のことが好きだと思ったんだ?」
私はここ数日疑問に思っていたことをキヨにも聞いてみた。
「んー、一緒にいると楽しくて、もっともっと一緒にいたいなって思ったんだ。あ、勿論、ライファのことも好きだし、ライファと一緒にいるのも楽しいし、一緒にいたいなっても思うんだけど。それとは少し種類が違うというか。全部の感情が濃くて、彼女が他の男と一緒にいるのは嫌だなって思う。」
キヨはそこまで言うと、これって好きってことでしょう?と聞いてきた。
「い、いや、私に聞かれても・・・。」
私がキヨに聞かれて、オタオタしているとどこで話を聞いていたのだろうか、突然ナターシャが現れ、キヨを後ろから抱きしめて頭を撫でまわした。
「もぅ~なんて可愛いのかしらっ!今度、店が暇なときにゆっくりいらっしゃい。話ならいくらでも聞いてあげるわ。」
突然現れたナターシャにキヨはタジタジである。そんな二人の姿をガロンが見つけて、「コラ!お前、ナターシャから離れろ!」と凄んだ。
次回は【ヴァンスとのデート】です。




