6.レイと魔力
ライファがターザニアに旅だったその日、私は兄さんの部屋に来ていた。
「兄さん、ちょっと話があるんだけど、いい?」
「いいよ。」
兄さんはそう言うと、魔力で扉を開けた。騎士団の仕事を持ち帰ってきたのだろうか。
兄さんはソファに座ってなにやら書類に目を通しているところだった。
「仕事中?」
「いや、ちょうど終わったところだ。どうした?」
「ライファの事件のことで兄さんに話しておきたいことがあるんだ。」
「まぁ、座りなよ。」
兄さんはそう言うとズンを呼び出し、お茶を二つ持ってきてほしいと告げた。
ズンの双子の子供たちもズンに着いてきて現れたが、兄さんに頭を撫でてもらい嬉しそうに帰っていく。
「それで話って?」
「ライファの事件の犯人は、レベッカだと思う。」
「根拠は?」
私はレベッカ宅でのパーティーでのライファへの態度、レベッカに想いを告げられたこと、その時の様子から先日の食事での様子までを話した。
「確証はないんだ。でも先日の食事の時の様子を見ると間違いはないと思う。」
「確かに動機はあるな。ライファだけを狙ったのにも納得はいく。だがレベッカはそこまでするような子か?」
「私も未だに信じられない部分はある。でも、先日会った時のあの態度は、レベッカが黒だと思わずにはいられない。」
「アーガルド家については私も調べてみよう。それで、今後ライファに危険が及ぶ可能性は?」
「ライファがターザニアにいる間は少ないと思う。ターザニアにはアーガルド家の執事の親戚がいるけど、魔力ランク3の平民だし、レベッカにはライファとはしばらく会えないと話してある。私がレベッカと仲良くさえしていれば、ライファに危害は及ばないと思う。」
話しながらもレベッカと仲良くするのか、とため息を吐きたくなった。
「そうか。ライバルとして言うのなら、ライファに危害が加わらないならそれでいい。だが、」
兄さんは一度言葉をくぎってから続けた。
「兄として言うとすれば、お前はそれでいいのか?レベッカと会い続けていれば、レベッカも周りもお前がレベッカを好きなのだと誤解するだろう。勿論、ライファもだ。それはお前の望むことなのか?」
「そんなこと望んでなどいない!でもライファがあれ以上危険な目に合うことは嫌なんだ。」
自分の力の小ささを思い知り、唇を噛む。
「いっそのこと、ライファを諦めるか?喜んで俺が引き受けるぞ。」
「それは絶対に嫌だ。」
「絶対・・・ね。」
兄さんは面白そうに笑った。
「まさかお前とこんな話をすることになるとはな。レベッカの件はこちらも注意しておく。兄としてお前に言ったこと、ちゃんと考えてみろ。」
「わかった。ありがとう、兄さん。」
私はむしゃくしゃした気持ちのまま、自室のベッドに寝転んだ。
最前が何なのか、わかんねぇよ。
翌日の夜、ライファが順調に旅をしているかが心配でリトルマインをすると、ライファの隣に能天気な男がいた。ライファが私の魔力を身に着けていることを察するように仕向けたが、この男には何の効き目もなかった。魔力ランクが低すぎて私の魔力でさえ感知できないらしい。嘘だろ。
挙句の果てにライファと結婚したいとまで言いだした。
世の中にはこういう人間もいるのだと思い知った瞬間だった。
私の魔力を身につけさせても、全然効力のない人間もいるだなんて。
また子供じみた嫉妬を向けては、リトルマインが終わった後に後悔する。
なんでこんなに上手くいかないのだろう。
理性と感情がバラバラに動く。
ライファに会いたい。でも、こんな自分は見せたくない。
こんなにも思い通りにならない自分自身は初めてだった。
ライファがターザニアに行って4日目。初めての休みが来た。
私はいつもの時間に起きると昨日購入しておいた恋愛本を手にとる。
「レイ様おでかけですか?」
私の気配を察したのかズンが顔を出した。
「あぁ、これからしばらくは休みのたびに出かけるよ。みんなにも伝えておいて。帰宅は夜遅くになると思うから。」
「承知いたしました。お気をつけて。」
ズンに伝言を頼み、家の裏口から森へ行くと飛獣石に乗った。向かうは魔女の家だ。
3時間ほど飛獣石を飛ばし、魔女の家に着いたのが8時すぎ。
家への入り方が分からず、前日ライファが結界内に入って行ったあたりで「スージィ?」と呼んでみた。3回ほど呼んだとき、スージィの声が聞こえた。
「やぁ、レイじゃないか。リベルダから話は聞いているよ。さぁ、どうぞ。」
スージィに結界を開けてもらい魔女の家に行く。
玄関に行くと、リベルダが待っていた。
「よろしくお願いします。」
「うむ、いい時間だ。まずはご飯の用意からだ。」
「え?私が用意するのですか?」
「そうだ。この間、ライファとキッチンに立っただろう。お前の包刀使いは最悪だ。」
た、確かに、ドーリーの肉を切った時は酷かった。私は、はははと笑うしかなかった。
「細かいことはテンに教えて貰え。」
リベルダがそう口にすると、頭でっかちの家小人が現れ頭を支えながらお辞儀をした。
「テンでございます。ご案内いたしましょう。」
「ありがとう。よろしく頼む。」
キッチンへ行くとテンに言われた通りにパンを切り、庭から野菜を収穫し、それもカットした。カットは勿論魔力でするがパンの表面はガタガタになるし、野菜は少し潰れてしまったものもあった。正直なところ、これほど自分が魔力の制御が出来ていないなどとは思ってもいなかった。いつも求められることといえば、大きく魔力を使った魔法ばかりだったし、失敗しそうになると更に魔力を注ぎ込むことでなんとか成功に持っていっていたのだ。
「レイ様、この果物は皮を薄く剥くようにと申し付かっております。」
テンから受け取ったのは初めて見る果物だった。
空のような青色の果物でぷよぷよしている。手の小指に魔力を薄く鋭く集中させ、そっと果物の皮を向き始めた。果物の形状に合わせ手を滑らせながら、魔力を鋭く保つ。果物の凹み部分にぶつかった時、ぷつっと音がして汁が顔にかかった。手で拭うとまた果物の皮を剥く。一度失敗して集中力が切れたのだろうか。その後は何度も汁をとばしながらなんとか向き終えることができた。
「終わりましたら、食器は、ぶっ、こ、こちらになります。」
テンがぷっぷっと言いながら食器を用意してくれる。食事を盛り付けてテーブルに運んだ。
「リベルダ様、お食事の用意ができました。」
「わかった。して、レイ、残念ながらその汁、今日一日は取れないぞ。」
ぷっ、とリベルダまで笑う。
差し出された鏡を覗くと、青い血でも飛んだかのように、顔のあちこちに青い汁が飛び散っていた。
「あの果物、剥くのはなかなか難しいだろう?あれが剥けるようになれば、弱い魔力の扱いも少しはマシになるさ。ライファはあの果物を上手に剥くぞ。」
ライファに出来ることも自分には出来ないのか、と肩を落とす。
「自分がどれだけ魔力を無駄に使ってきたかよくわかっただろう。お前は食べ物を切ることさえ出来ないのさ。」
リベルダが食事を終えた後は、ハートランドに住む魔女のもとへ移動した。
なるほど、トイレからトイレ・・・ね。
「全く、うちの庭をなんだと思っておりますの!」
研究を邪魔されたらしいマリアはイライラしているようだ。
青い汁が飛びまくっている私の顔を見てもニヤリともしない。
皮肉でもいいから何かしら言ってくれた方が救われるのに。
「まぁ、まぁ、そんな冷たいことを言うな。あとでお前のストレス発散に付き合ってやるぞ。レイが。」
「あら、それは楽しみですわね。」
マリアがニヤリと舌なめずりをする。
ジェンダーソン家に無事に帰れるか心配になってきた・・・。
「私は研究の続きをしますので、ストレス発散は後ほどお願いしますね。」
そういて調合へ戻ったマリアを背に、調合室のドアから庭へ出る。
そこはもはや庭というレベルではないことは確かだ。
「飛獣石を出せ。」
リベルダに言われるまま、飛獣石を出す。
「飛獣石というのは魔獣が魔力を持ったまま石化し、その魔獣の魔力で走る乗り物だ。我々同様、体を休めれば魔力は元に戻るし、使い切れば魔力が復活するまでは飛ぶこともできなくなる。ここまでは知っているな。」
「はい。」
「自身の魔力を飛獣石に注ぐことで更に早く飛ぶことが可能だ。その為には飛獣石の魔力にこちらの魔力を合わせるように調整しなくてはならない。合わせると言っても自身の魔力を相手と同じくするのは不可能だから、そうだな、飛獣石の意識に侵入し、そこから魔力を混ぜるイメージだ。魔力の消耗が激しくなるから、通常はやらない方法だが、相手の意識に侵入するということは自身の魔力をコントロールすることにもつながる。それに、これを習得すれば今の半分の時間でここまで来ることが出来るぞ。」
「それは助かります!」
「では、やり方は言ったとおりだ。とりあえず、魔力が空っぽになるまではやってみろ。空っぽになったら、お前の愛するライファが作った回復薬があるぞ。」
「・・・ありがとうございます。」
私は本当に、ジェンダーソン家に無事に帰ることができるのだろうか。本日二度目の不安が頭をよぎった。
次回は【飛獣石とマリア】です。




