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World cuisine おいしい世界  作者: SAI
第一章
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5.ライファの一日 後編

お店を出ると次に向かうのは観光案内所だ。

観光案内所で働いている母さんに元気な姿を見せようと、町に来た時には必ず立ち寄ることにしている。観光案内所は大通りに面していて【どうぐどうぐ】から100mの距離にある。

当たり前のようについてくるジェイスの方を向けば


「俺はライファが変な行動をとらないように見張っているんだ。ライファのお母さんからも頼まれているんだぜ。」


っと、ニヤリとされた。

むむぅ。

観光案内所のドアを開ければ、入ってすぐのカウンターに母さんの姿が見えた。

魔力ランクが5ある母さんは案内所の用心棒も兼ねているので、危ない客をすぐに排除できるようにと入口付近にいることが多いのだ。


「あら、ライファ。元気そうでお母さんはうれしいわ~。ジェイス、お役目ごくろうさま。ふふっ」


ジェイスの言っていたことは本当だったのかと、むぅっとする。

母さんがカウンターから身を乗り出すとクルンクルンと波打った茶色の髪の毛が肩のあたりで揺れた。

色白の肌にゆっくりめの口調で話す姿はとても魔力ランクが5あるようには見えない。


「久しぶりに見たら、ライファは本当に綺麗になったわね~。

お父さん譲りのすらっとした鼻筋にクリっとした二重。お母さん譲りの色白の肌に、ピンク色の唇っ。

あぁ、あんまり男の子を惑わせちゃだめよ~。」


何やらかにやら褒めながら唇をちょんっと触ってくる。親バカなのだ。

恥ずかしくなるくらいの親バカ言動だが、いつものことなのでスルーする。


「母さんと父さんは元気にしてた?」


「元気にしてたわよ~。そうそう、父さん3日前に帰ってきてね、また出発したんだけどライファにお土産もってきてたわよー。」


「さすが父さん。」


やった!とばかりに顔の前で小さくガッツポーズを作った。

お父さんからのお土産と言えば、何かしらの食材にちがいない。

母さんはそんな私の姿を見つめると

「家のキッチンにある食材棚に置いてあるから持っていきなさい。」と微笑んだ。




 「ライファのお父さん、今度はどこに行ってきたんだ?」


早歩きで家に向かいながらジェイスが聞いてきた。父さんは魔力ランク5の狩人だ。

各地を回り、魔木や魔花を採って市場に卸す。一度旅に出れば大抵1週間は家に帰ってこない。

そのかわり、帰ってきたときにはいつも珍しい食材や食べ物をお土産にくれるのだ。


「カランの向うまで行くって言ってたなぁ。」


先日、父さんからチョーピンが届いてそんなようなことを言っていた。

今回のお土産にはカランの美味しい食べ物もあるかもっとワクワクすれば当然足も速くなる。

人ごみをスイスイすり抜けていると、目の前を歩いていたジェイスが急に立ち止まったので、その背中に顔をぶつけた。何事かと、目深にかぶっていたフードをずらして前を見る。


「騎士団だ。最近、多いんだよな。貴族に関わると面倒だから、あっちから行こうぜ。」


5、6人で歩く騎士団を背にジェイスが私の腕を掴んで人ごみを縫っていく。

あっ、と何かを見つけたような声が聞こえた気がしたが、雑踏に紛れてすぐに気にならなくなった。



 数か月ぶりに帰った家は懐かしい臭いがした。

背後からおじゃましまーす、というジェイスの声が聞こえる。

母さんの趣味で育てている魔木がペットのように家の中をウロウロしていた。

ザンイーという名前のこの摩木は40cm以上大きくなることがなく、秋になると赤い実をつけては私たちに振舞ってくれる。鎮静作用のある赤い実はお茶にいれて飲むのがよいのだ。


「このちっこいの、何気にかわいいよなぁ。」


ザンイーは私が小さい頃から家にいるのでジェイスともお馴染みだ。

ジェイスはザンイーの葉っぱをやさしく撫でた。


 食材棚の扉を開けると、ライファ用とかかれた袋の中に乾燥したキノコが5つと四角い箱に入ったお菓子が入っていた。深緑色でやたら笠が大きい、見たことのないキノコだ。

これは魔女の家に帰ったら調べてみねばならぬ。

次に箱を開けてみると1.5cm角の焦げ茶色の上に乾燥させた果物が乗ったお菓子がたくさん入っていた。

これはカランで流行っているというトトルートに違いない!!一度食べてみたいと思っていたのだ。

父さん、ナイス!


「うわー、おいしそうなお菓子じゃんっ」


隣を見ればジェイスが顔を輝かせてお菓子を覗き込んでいた。うっ・・・


「ひとつ食べるか?」


「お、いいの?」


ジェイスのあんな顔を見たらダメなんて言えるはずもない。

トトルートを一つジェイスに渡し、自分の分も取り出すと口に入れてみた。

なんていうことだろう。ポン花の蜜とは違った重厚な甘さが微かな苦みと共に口の中に広がる。

表面についてある乾燥させた果物に酸味があることから、重厚な甘さも喉を過ぎれば案外さわやかになるのだ。


「「おいしいっ」」


思わずジェイスと顔を見合わせた。この流行は廃れることがないだろう。



 用事が済めばあとは魔女の家に帰るだけ。


「もう帰るけど、ジェイスはどうする?」


「んー、帰るなら近くまで送ってくよ。騎士団もウロウロしてるし、万が一ってこともあるからなぁ。」


万が一ってなんだよ、なんて言いながら二つ目の角を曲がった時、


「やっと捕まえた!」


と腕を引かれた。ジェイスが私の掴まれた腕を放そうと、私を掴む腕に手を添え、離せ!と言いかけたところで口をつぐんだ。

騎士団だ。フードをずらして見上げると見たことのある顔があった。あ、あの時の。


「あ、いや、驚かせてすまない。ずっと探していたから・・・」


サラリ、とした金髪が目元に揺れる。

森で会った時よりもカチッとした雰囲気を醸し出していて、騎士団らしいなと思った。


「その節はありがとうございました。本当に助かりました。」


きちんとお礼を言いながら、

ジェイスにブンの木の実を採りに行ったときに助けてくれた騎士様だと説明する。


「それは、本当にありがとうございました。

騎士様が助けてくれなかったらコイツ、どうなっていたかと思うと・・・。」


ジェイスはそう言いながら私の頭に手を置く。


「君は?」


不審人物でも見るかのような眼差しにジェイスもちょっとビクッとした顔をした。

貴族の機嫌を損ねたら最悪処刑されることもあるのだ。


「し、失礼いたしました。私は、こいつ、いや、ライファの友達でジェイスと申します。」


ジェイスが喋りなれない言葉をなんとか使って挨拶する。

騎士様はうむ、というように頷いただけだった。


「それにしても、どうして私を探していたんですか?」


「どうして・・・、いや、その、ほら、クッキーだ!クッキーの話をしていたから、どうなったかと・・・。」


頭をガシガシと触りながらしどろもどろに答える騎士様を見て、クッキーを食べたかったんだなーと推察する。クッキーが食べたくて私を探していたなんて、なかなか可愛いじゃないか。

しかも、食べ物に対するその情熱。気に入った。その上、騎士団員だ。

騎士団員と言えば高い魔力ランクを持ち、いろいろな場所への遠征も多い。

つまり、いろいろな食べ物を知っているし、貴重な食材を手に入れやすい環境だといえる。


なんと素晴らしいことだ。ぜひ仲良くなりたい。


「すみません、クッキーを今持っていなくて。

騎士様、明日、お時間ありますか?お時間ありましたら、クッキーをお持ちしますが。」


騎士様は一瞬驚いたような顔をしたがすぐに笑顔になって、

「明日の今くらいの時間なら大丈夫だ。」

と言った。その笑顔に、空気が和らいだのを感じたのかジェイスが


「俺も食べたい・・・です。」


と手をあげた。


「ジェイスは明日、仕事だろ?」


私の言葉にジェイスが悲痛な面持ちをする。


「そうか、君は仕事か。残念だな。」


騎士様の言葉を聞いた私は、そうか、騎士様はジェイスと一緒にクッキーを食べたいのか!と受け取った。平民の友達が欲しいのかもしれない。


「ジェイス、明日はいつもの場所で木を切るんだろう?なら、ジェイスの仕事場の近くでみんなでクッキーを食べよう。お茶も用意するから、ピクニックにしようっ。」


私はいいことを思いついたかのように声高に宣言した。


「明日は、ピクニックだ!」


横を見れば騎士様は困惑したような顔をしているし、ジェイスは頭を抱えている。

だが、私のウキウキは止まらない。食べ物好きのピクニック、なんて素敵な響きなのだろう。

しばらくウットリしたところで、気付いた。


「あ、私、ライファと申します。」


「・・・レイ・ジェンダーソンだ。」


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