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World cuisine おいしい世界  作者: SAI
第二章
48/226

4.はじめての調合料理

朝8時に家を出て約1時間かけて研究所へ行く。

昨日貰ったIDを門番に見せ建物内へ入り研究室に行くと、クロッカが新しい食材と睨めっこをしているところだった。ドス黒い赤が毒々しい手のひらサイズの実である。


「おはようございます。この実は何ですか?」


「おはよう、ライファ。これは魔木研究所から譲って貰ったのだけれど、どう料理しようかと考えているところなの。」


「どんな効果がある実なのですか?」


「魔木研究所が言うには何らかの回復効果があるらしいんだけど、はっきりとはよく分からなくて。」


「良くわからないってどういうことなのですか?」


「効果を調べるには検査薬を使うの。

一度目の検査薬ではその効果がどこに作用するのかを調べる。

神経に作用するのか、魔力か、体に作用するのか。

その次にそれがプラスに作用するのかマイナスに作用するのかを調べ、その次にどの部分の神経や体に作用するのかを調べて、その効果の効力を調べてという風に何度も薬品を使って調べてゆくのよ。

私たちの検査薬の枠にはまらないものの効果を調べることは難しいし、時間もかかるの。ただ、回復効果のあるものに関しては飲んでも悪いことはないだろうってことで、こうして早々と私の手元にやってくるってわけ。」


「そうか、効果を調べるって手間がかかるんですね。」


私はスキルで正確にそのものの効果がわかる。どれほどの効力があるかさえ簡単に知ることが出来る。先生が私のスキルを調合の為のスキルだといった意味が良くわかった気がした。


この実の回復効果は何をどれだけ回復させるのだろうか。私がスキルで実をチェックすると【髪の毛回復効果5】になっていた。なるほど、確かに体に害はなさそうだ。


「料理に使うにしても食べてみないとその味も食感もわからないし・・・。ライファの魔力ランクはいくつなの?」


「1です。」


「1!?」


クロッカは大きく驚いたが、こればっかりはどうしようもないものね、と同情の視線を投げてよこした。


「それじゃぁ、まず、私が食べてみるわね。それからライファが食べても大丈夫そうなら食べてみましょ。」


「はい!」


厨房に移動し、皮を剥いてカットしたもの、焼いたもの、煮たもの、の3種類を用意する。


へ~、生で食べるのが一番効果が高いのか。

カットしたものはそのまま効力は5、焼くと効力は4、、煮ると効力は3になるようだ。

勿論、クロッカはこの効力の減少を知らない。

自分は見ただけでその物が持つ効果も効力も分かるのに分からないふりをするということは意外と疲れるものだと知った。


「では、いきます!」


クロッカは勢いをつけて実を口にした。シャリっシャリっといい音がする。


「これは・・・ほんのり甘いくらいでコレと言って特徴はないわね。」


生の実を食べてそう感想を口にした。


「お、これは焼いた方がおいしい!焼くことで風味が増して口の中で広がる。煮たやつは・・・あぁ、これはダメね。マズイい。」


クロッカはそう言い終わると、特に何か回復したような気はしないわね、と首をかしげた。


「嫌な感じもしないし、体内の魔力量が増えるわけでもないから、ライファが食べても大丈夫でしょ。食べてみる?」


「はい!」


食べてみると味の薄い林檎のような味だ。


「確かに生で食べるにはあまり美味しくないですね。」


焼いたやつを口に運ぶと、これは・・・。もともと水分量の少ない実だと思ったけれど焼くことで水分がしっかり飛んで甘さと風味が増す。ポン蜜で甘さを加えて炒めてから、パウンドケーキにしたら美味しいのではないだろうか。私は頭の中で夢で見たレシピを再現していた。うぅ、作りたい。


「本当だ。焼いたものが一番おいしいですね。」


そう言ってクロッカの姿をみて、あやうく吹きだすところだった。分かってはいたけれど、ここまでとは。


「クロッカさん、髪の毛がボーボーになっています。回復ってこういうことなんですね。」


クロッカはガタッと立ち上がると、食堂にある鏡の前に立った。


「おぉーっ、こういうことね。でも、あまり役立ちそうにない効果ねぇ。」


私はクロッカの言葉を聞きながら少し考えていた。

もしかしたらこの実は良いお金になるかもしれないと思ったのだ。


「クロッカさん、この実、摩木研究室から優先的に貰うことって可能ですか?」


「可能だと思うけど、この魔木の研究を向うが続けるかどうかは分からないわよ。何かいい案でもあるの?」


「ちょっと思うことがありまして。」


クロッカを見れば、すごく聞きたそうな顔をしている。


「クロッカさん、もし上手くいって私の考えた調合料理が売れたら、利益の半分を私が貰ってもいいですか?私、ターザニアにいる間の宿代を払う為にお金が欲しいのです。切実に。」


「わかったわ。いいわよ。」


それから、二人でボーボーになった頭のまま効果の持続時間を調べることにした。

まずクロッカはそのままの状態で効力がどれくらい続くのかを確認する。

私は髪の毛を切り、その後どうなるのかを調べる。

効力が切れるのを待つ間に調合料理をしてみることにした。


「料理を作りたいのですが、手伝ってもらえますか?」


スキルがないことになっている私は、自身の手で料理をするわけにはいかない。もどかしいけれど、手伝ってもらうしかないのだ。



午前11時。お昼ご飯の準備で忙しい厨房の片隅を借りて、ひっそり料理をする。

木の実は皮を向いて細かく切り、ポン蜜に絡ませながら炒めることで水分を飛ばす。

当然、この工程はクロッカにお願いした。私は乾燥サワンヤをおろして粉末にする。


なにか、膨らますようなもの・・・。

夢のレシピではベーキングパウダーなるものを使っていた。

代用品が思いつかず、とりあえずその材料を抜いたまま作ることにする。


サワンヤに卵、羊乳、溶かした羊乳凝とポン蜜を入れてよく混ぜる。

クロッカは実を炒めながら、こちらの様子に興味津々だ。


「乾燥させたサワンヤを粉末にするなんて初めてだわ。ライファは料理の勉強でもしていたの?」


「いいえ、家で色々試していたので。」


念のため、夢の話は内緒にすることにした。出来上がったドロドロの液体を8小さな等分して型に入れる。クロッカに頼んでいた実の重さを量ってきっちり8等分にし、液体が入っている型に入れた。実が均等になる様に型の中で少しかき混ぜる。

その後、石窯の中に小さな火と共に入れ30分程焼いた。20分くらい経った頃だろうか。


「あ、いい匂いがする。なんだか、すごく美味しそうっ!」


クロッカが期待に満ちた声をあげた。私も思わずニコリと微笑む。

パウンドケーキは美味しそうに膨らんでいるところだった。これで焼き色がつけばいい感じだな。

焼き色がついたのを確認してから石窯からケーキを取り出し、冷ましている間に昼食をとることにした。



食事が終わるとクロッカと共に魔木研究室に行く。

先ほどの実がどのように実っているのかを見るためだ。

研究所に行くと袖のついたエプロンを着た研究員が20人程いた。

魔木研究室には裏口があって、裏口から階段が伸びており直接建物の裏にある森に行くことが出来る。


「おぉ、クロッカ。どうした?その頭。」


研究室の職員であろう20代後半の男が話しかけてきた。


「さっきの木がどうやって育っているのか知りたくて来たのよ。」


「てか、お前、その頭もしかしてさっきの実のせいか?」


「うん、そう。」


男はぶぶっと吹きだして笑った。

「なるほど。髪の毛を回復させるのか。面白いがあまり役に立ちそうにはないな。で、そちらは?」


「こちらは昨日から私の助手になったライファです。ライファ、こちらは魔木研究室の副室長、ケビンよ。」


私はよろしくお願いしますと挨拶をすると、早速、魔木を見せてもらった。

あの魔木はクルクルというらしい。木を見るとなるほど、木の上部にたくさんのツタが巻き付いた感じというか、クルクルになった蔓がもしゃもしゃっとあり、その中にあの毒々しい実が20個ほど実っているのが見えた。魔木は全部で2本あった。


「この木は今後もそのまま育てるのですか?」


「いや、このままってことは無いだろうね。改良に改良を重ねてより役立つ木を育てる、それがうちの研究室の目的でもあるから。」


「なるほど。では、この木を譲ってもらうことはできますか?」


そう、聞くとケビンの目がキラッと光った。

こんな聞き方をすれば、私がこの実に価値を見出しているのは明白だろう。


「なんだ?金になるのか?」


ストレートな男である。どこの研究室もお金は欲しいのだろう。


「ちょっと考えていることがありまして。もし、上手くいったときには収入の2割をお渡しするので、この木をこのまま育てていただくことは可能ですか?」


「2割か。3割。3割でどうだ?うちもただで育てている訳じゃないしなぁ。」


「2割。私の生活費がかかっているのでこれ以上あげることは出来ません。2割がだめならこちらにこの木を譲ってください!」


「クロッカ、こちらはなかなか頑固なお嬢さんだな。」


クロッカは肩を竦めつつも、


「魔木を育てるだけで2割。関わっておいた方が得だと思うけど。もともと役に立たない効力だと思ったわけでしょ。少しでもお金になるなら儲けもんじゃない。」


「まぁ、それもそうか。」


クロッカの助言のお蔭もありクルクルは魔木研究室で今後も育てて貰えることになった。


魔木研究室から厨房に戻ってきたのが14時頃。

クロッカをみると髪の毛がもしゃもしゃと縮んでゆくところだった。

その後10分程して私のバラバラだった髪の毛も縮んでゆく。

実の約8分の1の大きさを食べると効果は4時間程継続するようだ。

伸びている髪の毛を切っても効力が切れた時には実を食べる直前の髪型に戻ることもわかった。


よし、これは使える。私は心の中でガッツポーズをした。あとは味だ。



クロッカと一緒に、厨房で冷ましていた先ほど作ったパウンドケーキを試食する。

念のために効果を確認するが【髪の毛回復4】だった。効力が想定よりも下がることはなかったようだ。


「うまいっ!なにこれ、すごく美味しいんだけど!!」


クロッカが夢中になって食べている。私も、と一口食べると夢で食べたパウンドケーキによく似た味になっていた。木の実が違うから完璧とは言えないが、合格点だ。


「それ以上食べると、髪の毛が伸びたままになりますよ。」


手を伸ばしてきたクロッカにそう言ってけれど、クロッカはもう一つだけだからと言ってパウンドケーキをおいしそうに食べた。


「効果がどれくらい持続するのか、チェックしておいてくださいね。それと、明日はパーティードレスを持ってきてくださいね。」


私はそう言うと、とりあえずあと2個ぶん作りましょうか、とクルクルの実をクロッカに渡した。

明日はこれを売りにいくのだ!


次回は【パウンドケーキを売る】です。

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