38.大きな食材と帰宅
食後、森の中を散歩する。
しばらく王都の都会の風景ばかり見ていたせいもあり、森のこの風景が懐かしい。
ベルも森が好きなのかあっちの木に行ったり、草に絡んだり、忙しくも楽しそうだ。
「あっあれはアオタケではないかっ」
地上から2mくらいの高さの木の枝にアオタケ(魔力なし)が生えているのが見えた。
アオタケは夢の中の食材でいえば、ビッグサイズの椎茸だ。人の顔ほどあり、肉厚である。
そのまま焼いて食べても美味しいし、何かに混ぜれば出汁が出て他の食材の風味を深くする。
「ちょっと取ってくる。」
「手伝おうか?」
「大丈夫。」
木のぼりには慣れている。昔から食材を探すため手に入れるために何度、木に登ったことか。
私は駆けだすとササッと登り、アオタケを手にした。
「ほらっ!」
と、アオタケをレイに見えるように掲げたとき、ザッと何かに体を捕まれた。
「ライファ!!」
レイが叫んで追いかけてくる。
が、私を掴んでいる魔獣は物凄いスピードだ。
レイは足に魔力を宿し、こちらもすごいスピードで追いかけてはくるが距離が縮まることはない。
「ライファ、狙いはキノコの可能性もある。そのキノコを放せ!」
レイが叫ぶ。キノコを放すなんて
「イヤだ!!」と叫ぶと、
「この、ばか!!」とレイが叫んだ。
なんか、今日のレイ、キャラがちがうっ。
魔獣を見ると、手も顔も毛むくじゃらで長い手足、背中には短い羽が生えている。
この羽でバランスをとりながら木の枝を器用に渡って駆けてゆく。
私は巾着から小弓を出すと眠り玉を掴んだ。目を狙おうとしたが、腰に手を回され荷物のように抱えられている状態だ。とても目を狙える体勢ではない。
毛の内部、皮膚、届くところ・・・どこか。
はっ!閃いた!
本来なら決して触りたくはない場所だが仕方がない。
こういう生き物のアソコは、あそこにあるに決まっている。
私は体を捻ると魔獣が大きく足を開いた隙に手を足の間に滑り込ませた。
指の先には眠り玉をしっかり持っている。私が魔獣の又の付近でモソモソするものだから、魔獣は落ち着かずに声を上げたが、レイが追いかけてくるから止まることも出来ずに走り続ける。
私はやっとのこと、その場所をみつけた。
ここだ!
ぐいっと眠り玉を押し込む。手が離れた瞬間、眠り玉を魔力で破裂させた。
瞬間、魔獣の手から体が外れ魔獣もろとも落ちてゆく。体を捻って受け身を取ろうとした時、グイッとレイの腕に掴まれた。レイは全速力で走ったせいで、肩で息をしている。
「はぁ、はぁ、全く、ライファは・・・。」
レイの小言が始まると身構えたときだった。
ガォォォォォォ!!
と2mはあろう魔獣が立ち上がった。魔力ランク6のドーリーである。
ドーリーは薬の調合にはもってこいの魔獣だ。部位によって効力が違い、わりとどんな薬材とも相性が良いことから調合師に大人気なのだ。
ただ、魔力ランク6だけあって強い。自由自在の鞭のように振り回すしっぽには強力な毒針が仕込まれていて、振り回すたびにランダムに飛んでゆく。
皮膚も硬く、魔力ランク5の狩人が数人がかりでようやく傷をつけることが出来るほどだ。
そのため、ドーリーを捕まえに行くときは必ず数人のパーティを組むことになっているのだ。
そのドーリーが目の前にいる。
ヤバい。私は直ぐに巾着の中から眠り玉を出した。
サッ
え?
一瞬のことに唖然とした。
私をかばうように一つの影が動いたかと思うと、ドーリーが倒れたのだ。
瞬殺。
その言葉以外に正しい表現などない。
刀を振ってから鞘にしまうと、レイが歩いてきた。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。」
「・・・・前から思っていたけど、レイって魔力ランクいくつ?」
「んー、9かな。」
「なっ・・・。」
と、とんでもないエリートじゃないか。本当に別世界の人なんだ。
こんな人が食べ物好きチームのメンバーだなんて。
なんてラッキー!
私は思わずレイの手を両手で握った。
「レイ、私を見捨てないでくれ!」
「当たり前だろ。」
レイがフッと嬉しそうに笑い、おぉぉぉおっと私の心は感動に震えた。
震えた。
「あ、この指、さっきの魔獣のお尻に突っ込んだ指だった。」
「いっ!!」
レイが驚いて手を離した。
「ごめん。」
二人で急いで川へ行くと、手を洗う。
手を洗っているとようやくベルがやってきた。
置いていったことを怒っているらしい。プリプリしながら、キュンキュンと鳴いている。
「あぁ、ごめん、ベル。緊急事態だったんだ。忘れていたわけじゃないぞ。」
ベルの怒りが収まりそうになかったので、家に帰ったら美味しいごはんあげるよ、と約束するとすぐに怒りが収まった。扱いやすい奴だ。
「あのさ、レイ、できればドーリーを持って帰りたいんだけど、運んだりできる?」
「え?」
レイがちょっと嫌そうな顔をした。
「ドーリーはすごく使える魔獣なんだ。薬材としても、食材としても。どうしても持って帰りたいっ!!」
私の目の輝きに負けたのか、レイがひきつった顔で、わかったと了承してくれた。
その後、ドーリーをなんとか飛獣石にくくりつけ、いつもよりスピードを落とした運転で魔女の家がある森まで来た。結界の入り口に下してもらう。
「レイ、せっかくだからご飯食べていきなよ。」
「え?いいの?」
「うん、いくら私でもさすがにこのまますぐ帰ってとは言わないぞ。でも、ちょっと待ってて。」
私はそういうと一応、師匠にレイも一緒に家に入っていいかを尋ねるチョンピーを飛ばした。
すると、いいぞの言葉の代わりにスージィが結界を開けてくれた。
「おかえり、ライファ。」
「ただいま、スージィ。」
「そちらはお客さんかい?」
「うん、レイっていうんだ。覚えておいて。」
「そうか、ライファの仲良しさんなんだね。はじめまして、レイ。」
「はじめまして、スージィ。ちょっと大きい荷物を運びたいんだけど、いいかな?」
「勿論だよ、レイ。」
スージィはそういうと結界の入り口を柔らかくしてくれ、入口が荷物の形に合わせて変化する。
はたから見れば、結界の中に飲み込まれていくみたいだ。
「ありがとう、スージィ。レイ、こっちだ。」
私はレイの手を掴んで、玄関に駆けて行った。
「師匠―っ、師匠ーっ、ただいまー。」
「おぉ、帰ってきたか。」
師匠が顔を出す。
「レイがドーリーを捕まえてくれたので、持って帰ってきましたよ!今日の夜ご飯はお肉三昧にしますね!」
「おぉ、それは楽しみだな。レイも疲れただろう、少し休んでいけ。」
「ありがとうございます。カーラント様?」
「あぁ、そうだったな。リベルダだ。そう呼べ。」
レイはカーラントの時とはガラッと違う師匠の雰囲気に緊張しているようだった。
それはそうか、カーラントの時は地味系エロ女だったのに、今は思いっきり魔女だもんな。
「レイ、ドーリーを解体するからちょっと手伝ってくれ。ライファは荷物を置いてそのままご飯の支度だ。」
「「はい!」」
私は部屋に荷物を置きに行くと、せっせと料理の支度を始めた。
次話は【不機嫌の胸の内】です。
レイ視点の話になります。




